抄録
【目的】食生活を取り巻く環境やライフスタイルの変化から、生活習慣病の罹患率が上昇し、社会問題になっている。そのため、生活習慣病の一次予防が叫ばれており、生活習慣の確立される時期の教育が見直されてきている。そこで、本研究では、高等学校家庭科における食教育を生活習慣病の一次予防の観点から検討するために、食教育の現状と課題について調査した。
【方法】平成15年11月、関東地区の公立高等学校から無作為に抽出した198校の家庭科担当教諭に郵送による調査を実施した。調査の概要は、高校生の食生活の問題について、食物領域の授業について、食生活と健康との関連について、高校生の食生活に対するアンケート結果について、栄養教諭についてなどである。
【結果】1.生徒の食生活の問題点を複数回答により求めた結果、「欠食」(69.1%)、「食事のマナーが身についていない」(66.7%)、「買い食いや間食が多い」(63.0%)、「調理技術の低下」(56.8%)、「食事時間が不規則」(54.3%)、「食べ物に対する感謝の気持ちがない」、「孤食や個食」(50.6%)などを半数以上の教師が問題点としてあげていた。また、教職経験年数により生徒の食生活の現状に対する意識に差が認められた。
2.食に関する14項目の学習内容を設定し、5段階で回答を求めた結果、すべての項目を重点的に扱う傾向がみられた。しかし、「献立作成」や「栄養価計算」は、授業時間数の関係で扱われない傾向にあった。
3.食生活と健康との関連や生活習慣病については、大半の教師が指導していた。食生活と健康について指導する際に、7割の教師が「食品添加物」「骨粗鬆症」「貧血」「食中毒」「ダイエット」「加工食品」「肥満」を取り上げていた。しかし、生徒の意識や行動の改善まで至らない現状や小・中学校における学習の継続性、家庭教育における食教育の必要性などを課題としてあげていた。
4.生徒の栄養に関する習得状況を5段階により評価を求めた結果、「五大栄養素の種類と働き」「食品に含まれる主な栄養素」の理解に対する評価が高かった。これらは、小学校からの学習の成果として、高校生ではある程度の定着が認められていると考えられていた。一方、「栄養所要量」「栄養価計算」に対する生徒の理解度の評価が低かった。授業時間数が削減されていく中で、いかに習得させるかが課題として示された。
5.高校生に実施した調査結果の数値に対する見解は多様であった。生活習慣病の具体的事例を提示し、食生活の問題が生活習慣病につながることを理解させ、生活習慣病を自己の問題として受け止めることができるようにしていきたいという意見が多かった。
6.栄養教諭の創設について「知っていた」6割、「知らなかった」4割であった。その賛否については、「賛成」3割、「反対」2割、「どちらでもない」5割であっ た。さらに、賛否の理由を自由回答により求めた結果、栄養教諭の創設に対する認識と賛否の意識との関連では、多様な教師の意見が表明された。
7.食は生きる基本であり、その重要性は多くの教師が認めていた。しかし、教師の食生活や授業に対する価値観および教職経験年数により、授業が変わることが示された。また、時間数の削減や非受験科目による軽視から、教師の指導観にジレンマが表明された。