抄録
【目的】
高等学校においては、2003年度入学生から新学習指導要領の下での教育課程が実施されている。今回の学習指導要領改訂によって、普通教科「家庭」に最も大きな影響を与えたのは、「家庭基礎」の設置である。そこで本研究では、高等学校普通教科「家庭」のこれからの方向性を探るために、第1に、「家庭基礎」実施の現状と問題点を高校家庭科教員および生徒を対象とした配票調査によって明らかにすること、第2に、構成主義学習観に基づいた「家庭基礎」カリキュラムを開発し、それに基づいた授業実践を行い、その妥当性を検証することを目的とする。
【方法】
(1)「家庭基礎」実施の現状と問題点を明らかにするために、長野県の公立および私立高等学校108校の家庭科教員283名を調査対象として、郵送法による質問紙調査を実施する。実施時期は2004年2月。回収率56.5%(160名)である。(2)授業実践を行う高等学校における1年生287名を対象として、2004年4月の初回の授業時間に質問紙調査を実施する。欠席者を除く284名の回答を得た。(3)構成主義学習観に基づいた「家庭基礎」カリキュラムを開発し、それに基づいた授業実践を行い、その妥当性を検証する。
【結果】
(1)高校教員および高校生の意識と実態
長野県における普通教科「家庭」の新科目設置状況は、「家庭基礎」38.6%、「家庭総合」49.4%であった。また、「家庭基礎」を担当した教員の78.6%が「実習が減った」と答えていた。高等学校入学直後の生徒は各出身中学で多様な学習経験をもっていた。また、問題・課題解決学習を「面倒だ」と感じている生徒の実態にどう対応するかが、カリキュラム開発、授業実践の課題であることが明らかになった。
(2)カリキュラム開発と授業実践
本研究では、高等学校普通教科「家庭」の役割を「生活の自立を中心とした青年期の発達課題の達成を直接的、具体的に支援すること」ととらえた。また、カリキュラム開発にあたっては、構成主義学習観に基づき、従来、教壇から一方的に知識が伝達されていた教室空間において受動的な位置を与えられてきた学習者の活動に積極的な位置が与えられ、教室空間を生徒が相互に協同で学び合い教えあう場へと変えていくことを重視した。また、質問紙調査の結果をふまえて、時間が足りない現状への対応、多様な学習経験や意識をもつ生徒への対応、実生活の中でいかすことのできる問題解決能力を育むことに注目した。授業では、生徒の主体的な活動および仲間から学びあう場面の設定、評価のためのルーブリックの作成、生徒の評価への参加を重視した。学習後の質問紙調査から、構成主義学習観に基づくカリキュラムでの授業実践を行ったクラスは、統制群のクラスと比較して、また、高等学校入学直後と比較して、家庭科学習の必要性・有用性を認識していることが明らかになった。2単位の「家庭基礎」においても、限られた時間の中で、広く深い学びをつくりだしていく可能性を示すものであり、生徒が家庭科を学ぶ意味を見出すことにつながる有意義な実践になったと評価できる。授業で活用したルーブリックの内容とその活用方法について更なる改善を加えることによって、生徒の家庭科学習への積極的な取り組みを実現していくことが今後の課題である