抄録
【目的】家庭科は人として生きる力の育成を目指している。家庭科の学習を、どのようにすれば、実生活での行動につなげることができるのかを検討することは、家庭科教育の重要な課題であると考える。これまでの研究より、家庭科学習内容の実践の個人差には、実践の場である家庭生活が影響していることが明らかとなっている。そこで本研究は、家庭内における父親の役割に焦点を当て、父親の家族に対する絆を深めようとする行動(家庭関与)と児童の家庭生活における行動との間にはどのような関連があるのかを検討する。また、子どもの発達には、親が直接的に影響を持つと同時に、家族構成員の相互の影響も考える必要がある。そこで、父親の家庭関与と母親の生活感情との関連、母親の生活感情と児童の家庭生活における行動との関連についても検討を試みる。
【方法】滋賀県の公立小学校4、5、6年の児童及びその母親を対象として、質問紙法により調査を行った。父親の行動に関する項目の評定は、父親に回答を求めた場合と母親に回答を求めた場合に有意差が認められなかったという先行研究の結果をもとに、母親に回答を求めた。調査期間は2004年10_から_11月。母親と児童がともに有効であるデータのみを分析の対象とした。有効回答数は267組(男子児童とその母親181組、女子児童とその母親86組)である。調査の主な内容は、父親の家庭関与 (20項目)、母親の生活感情(8項目)、児童の家庭生活における行動(15項目)である。
【結果及び考察】
1.因子の析出と意味付け
父親の家庭関与に対する最小の構成次元を見出すために、主因子解による因子分析を実施した。その結果、固有値1.0以上になるものとして、4つの共通因子が析出され、「家事への援助」、「子どもへの関わり方」、「夫婦間のコミュニケーション」、「子どもとの遊び」と命名した。母親の生活感情についても、因子分析を行った結果、3つの共通因子が析出され、「充実感」、「自己否定感」、「イライラ感」と命名した。児童の家庭生活における行動については、5つの共通因子が析出され、「人と関わる」、「身の回りを整える」、「資源を大切にする」、「調理をする」、「頼まれた仕事をする」と命名した。
2.父親の家庭関与と母親の生活感情との関連
父親の家庭関与と母親の生活感情との関連を、因子得点を用い、ピアソンの積率相関を算出して検討した。父親の「子どもへの関わり方」、「夫婦間のコミュニケーション」、「子どもとの遊び」と母親の「充実感」との間に有意な正の相関が得られた。また、父親の「家事への援助」、「夫婦間のコミュニケーション」と母親の「イライラ感」との間に有意な負の相関が得られた。
3.父親の家庭関与、母親の生活感情と児童の家庭生活における行動との関連
父親の「家事への援助」と児童の「身の回りを整える」、「調理をする」との間に有意な正の相関が得られ、母親の「イライラ感」、「自己否定感」と児童の「身の回りを整える」との間に有意な負の相関が得られた。また、父親の「子どもへの関わり方」、母親の「充実感」と児童の「人と関わる」、「資源を大切にする」との間に有意な正の相関が得られた。
以上、児童の家庭生活における行動を引き出すためには、父親においては、家事をすることと家族成員に対するコミュニケーションスキルを機能させることが大切である。家庭教育力が低下しているといわれて久しいが、人間関係能力を養い、父親となった時にもその能力を発揮させることは、次世代の子どもの生活自立につながると思われる。家庭科学習内容における生活の自立と家族関係は、個別のものではなく、互いに関連していると考える。