抄録
目的
家庭科教育では、自己実現をめざした主体的な生活者を育成することが主要な目標となっている。主体的な生活を創造するためには、経済的自立とそれを支える職業生活の充実が欠かせない。しかし、家庭科教育において、経済的自立を生活の中で現実的かつ実現可能なものとして捉えさせ、職業生活の在り方と関連させた生活設計教育が不足しており、これに関するカリキュラムや教育方法の見直しをはかることが必要である。
そこで本研究は、高校生の自己実現をめざした経済的自立及び職業生活を始めるための準備意識、すなわち職業レディネスに関する認識を向上させるための高等学校家庭科教育における教育内容を明らかにし、授業設計の構築を行うことを目的とする。
前報までにおいて、本研究における東京都の高校生は自己実現に対する意欲や経済的自立志向等を持っている一方、具体的な経済観念や家計管理行動、及び具体的な職業認識について低い傾向にあること、自己実現と経済的自立及び職業レディネスに関する認識と実態には関連性があること、カナダ(アルバータ州)の高校生との比較により、自己肯定感が低く、将来の職業への可能性に自信がもてない等の現状が認められた。
また、高等学校家庭科教員の調査結果からは、自己実現と経済的自立及び職業レディネスを関連させた授業を行うことの重要性が認められた。さらに、家庭科教育の独自性である生活に密着した授業展開が重要であることも明らかとなった。また、自己実現、経済的自立、職業レディネスを関連させた授業を行なっている教員の聞き取り調査からは、共通的に生徒に培いたいと考えている力として社会的自己実現、個人的自己実現、主体的な生活者・消費者としての自覚、意思決定力・自己決定力、具体的・客観的な職業観・勤労観、将来的展望等が認められ、また授業実践における重要な事項として、生徒の実態に即すること、現実の社会に沿った具体的な題材を提示すること等、が抽出された。
そこで、本報では以上の結果をふまえて、高等学校家庭科教育において求められる教育内容を追究し、授業設計の構築を行うことを目的とする。
方法
まず、自己実現、経済的自立及び職業レディネスに関する高校生の認識と実態調査、高等学校家庭科教員の認識と実態調査の2つの調査を行い、高等学校家庭科教育における課題を明らかにした。次に以上の調査の分析・検討から、家庭科教育において求められる教育内容の構築を試み、最後に教育内容をもとに授業設計、授業実践、評価・分析を行った。
結果
高校生と家庭科教員の調査分析・検討から、高等学校家庭科教育において求められる教育内容をもとに、授業設計を構築した。題材を設定する際の順序性として、具体的に把握しやすい自分自身を分析することを授業の導入とした。自己分析をすることにより自己理解を高め、家庭科教育の独自性である身近な家庭生活における視点で授業を展開した。その後、高校生の発達段階に即した市民社会の一員としての視点に発展させるよう意図した。社会の変化に対応したデータを活用することにより、身近な家庭生活から社会へとつながりを持たせ、個人的自己実現とともに社会的自己実現を育成することに努めた。本授業設計は、授業実践・評価を通して、生徒が自己実現をめざした経済的自立や職業レディネスを向上させるのに総合的に効果があったことが認められた。