抄録
【目的】
近年、日本の食生活の多様化によるメリットやデメリットが指摘されてきている。このような食環境のデメリットとして、欧米化された食生活による児童の生活習慣病予備軍化、子どもの味覚感受性低下への関与などが指摘されている。
昨年度の本研究大会で、鈴木は上越市の中学生の味覚識別能高群は「栄養バランス性」が高く、低群は「ファスト・濃厚味志向性」が高いことを発表し、健全な味覚感度を養い保つためには、日常的な栄養素の調和のとれた食物摂取と濃厚味食品の過剰摂取を控える食行動が重要であること、意識的な味覚経験の積み重ねが微妙な味の識別力を育てることを指摘している。
本発表では鈴木の研究を更に発展させて、食教育の中の「味覚教育」に焦点を当て、「味覚教育」の経緯と、取り組みの現状をまとめ、「味覚教育」授業実践を行うことを目的とした。
【方法】
まず、文献研究により、諸外国と日本の「味覚教育」の経緯と現状をまとめた。次に、昨年の本研究大会で発表された味覚官能検査の方法等を用い、「味覚教育」授業実践案の作成を試みた。
【結果・考察】
1.「味覚教育」の経緯と現状
1)諸外国の「味覚教育」
フランスは味覚教育に最初に取り組んだ国である。1989年に国立食文化評議会が設立され、味覚、料理法などを基調に学校などで食育事業の展開を始めた。現在では、「味覚週間」として全土で開催され、フランス国民の8割以上に認知されている。
イギリスでは、フランスの「味覚週間」を参考にした「食の2週間」が2002年の秋に初めて開催された。取り組みとしては教育分野と小売・飲食店業分野の活動がある。
イタリアでは、1986年スローフード協会が結成された。豊かな人間らしいライフスタイルを堅持し、地域の食文化と味覚の多様性を守る「スローフード」運動は文化社会運動として世界的に有名である。同協会は「味覚教育センター」を発足させ学校における味覚教育の取り組みを支援している。
2)日本における「味覚教育」
日本は食育の取り組みは始まったが、国や組織の取り組みとしての味覚教育は未着手で、今後の展開が期待されている。しかし、個人的には三國清己、内坂芳美らによって「味覚の授業」が実践されている。特に三國は、2000年から全国的に小学校を訪問して、地元シェフや支援企業のスタッフと共に味覚の授業と調理実習を行なっている。
2.「味覚教育」授業実践
「味覚教育」授業案を考案し、実践を試みた。本授業案は食生活の自立が始まる中学生向けに「味覚と栄養・健康」、「味覚への気づき」「給食と味覚」「郷土と味覚」を柱としており、現在J中学校2年生全3クラスで実践中である。以下に、全16時間の「味覚教育」授業実践試案概要を示す。
「味覚教育授業」(全16時間)
1.「私の味覚感度は?」:塩味と甘味の識別テスト(体験学習)1h
2.「五味とは何だろう」:五感の学習と体験(体験学習と講義)1h
3.「基本五味を体験しよう」:基本五味の体験(体験学習)2h
4.「五味の重なり合いで生まれる味の体験」:味の重なり合いで生まれる味の体験(体験学習)1h
5.「外部講師による講話と実習」:郷土の食材と味覚に関する実習(講義と体験学習)3h
6.「郷土の身近な食品の味比べ」:郷土の食材にはどんなものがあるのか調べレポートする(調べ学習活動)2h
7.「給食から学ぶ」:栄養職員から、給食に込めた願いや給食に取り入れている郷土料理などについて講話を聴く(講義、栄養職員とのTT)1h
8.「郷土の食材を使った給食献立の計画を立てよう」:郷土の食材を生かした給食献立作成(演習)1h
9.「素材の味が生きている料理を計画しよう」:これまでの計画をもとに、郷土の食材が持っている味が生きている料理を作る。3h
10.「まとめ」:味覚官能検査の再確認、アンケート、イメージマップ記入(講義、演習)1h