日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第49回日本家庭科教育学会大会
セッションID: P-3
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第49回大会 ポスター発表
家庭科における数量的な判断能力を育成するための実験教材の開発と授業実践
*福井 典代鳥井 葉子篠原 陽子村上 陽子
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抄録


【目的】
 平成14年度から実施されている小学校家庭科の学習指導要領では8つの内容が示されている。この中で特に「生活に役立つ物の製作」と「簡単な調理」は実践的・体験的な活動が中心となるが,その活動は実習であり,講義とともに活用できる実験的な教材は数少ないのが現状である。また,学習指導要領の中に具体的な教材の呈示が少ないため,どのような教材を用いるかについては教師の裁量に任されている部分が多い。
 そこで本研究では,家庭科において数量的な判断能力を育成するための実験教材の開発を行い,「初等家庭科教育論」で実施した授業実践の結果について報告する。
【方法】
I講義計画:教職共通科目である「初等家庭科教育論」において,学生が小学校で家庭科を指導する場合に必要な基本的な知識を実験を通して学習し,その直後に実験を活用した模擬授業を実施することにより,家庭科の学習内容を身につけさせている。平成17年度の受講者数は166名(学部学生121名,大学院生45名)である。導入では,「家庭科の独自性と歴史」,「小学校家庭科の改訂の要点と内容」,「小学校家庭科の年間指導計画と学習指導案の作成」について講義を行った。その後,学生を12グループに分け,班別の6種類の実験と模擬授業を交互に実施した。
 また,小・中・高等学校の授業時数の削減により家庭科だけでは実施できない場合や中学校で実施する場合も考慮に入れて,理科や社会など他教科や中学校技術・家庭との関連性も併せて講義した。
_II_実験教材:実験教材の導入にあたり特に重点を置いたのは,生活の向上を目指す家庭科の学習において物事をより客観的に把握するために,対象を数量化して比較することである。数量化することにより主観的に捉えられているものが対象間で比較でき,客観的な予測も可能となる。この考えをもとに,生活の課題解決をめざしたもの,身近な生活用品を活用した内容のものを教材として選択した。
 本講義で取り上げた教材は,「1.界面活性剤の働き」,「2.指で編むエコロジーたわし」,「3.食品の着色料を調べてみよう」,「4.ヨード液による酵素の検出」,「5.太陽電池と照度計との関係」,「6.生活排水の汚れの程度を調べてみよう」,の6種類である。
 実験教材の一例として,「5.太陽電池と照度計との関係」を示す。住居にはそれぞれの部屋の使用目的に合った照明が必要であり,その明るさは照度で表される。室内の照明は安全で快適に過ごすためだけでなく,視力の低下を防ぐ働きも併せ持つ。しかし,照度計は授業の中で活用するには高価であり,かつ児童が個別に実験する場合にも数が足りないため,代替として太陽電池を用いる方法を考えた。太陽電池は小学校4年理科で学習済みである。それぞれの装置に数種類の光源を当てて,照度計(lx)と太陽電池の起電力(V)との相関を求めた。これを検量線として太陽電池の起電力を照度に換算することが可能となる。この検量線の概念を学生に理解させたのち,班別に太陽電池を用いて部屋の明るさを場所を変えて測定させた。
【授業実践の結果】
 実験教材を終了した後に「理解できたこと」と「わからなかったこと」についてアンケート調査を実施した。「理解できたこと」では,「身近な物を利用して様々な実験ができる」,「実験を通して学習内容の理解が深まった」,「家庭科の内容は生活する上で重要な知識である」,「環境問題を中心に考えられている」,という意見がみられた。「わからなかったこと」では,「実験3,4について内容が難しい」,「実験5の太陽電池と照度計との関係式がわからない」という具体的な意見がみられ,学生の基礎学力の低下や実験実施時の説明不足を感じた。これらのアンケート結果を今年度の授業に反映させて実験教材の内容について改善する予定である。

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© 2006 日本家庭科教育学会
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