日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第49回日本家庭科教育学会大会
セッションID: P-4
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第49回大会 ポスター発表
「いよかんによる染色」の教材化に向けた基礎的検討
*杉村 桃子綿引 伴子上野 留美
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抄録


【目的】
 著者らは,衣生活分野での総合的な学びを可能にする題材や,衣生活分野と「総合的な学習の時間」を関連づけた題材を開発するための基礎資料を得ることを目的として,小学校家庭科教科書の記述内容の分析と,松山市内小学校での授業実践に関する調査を行った1).その結果から,「家庭生活」や「環境教育」「消費者」「地域とのつながり」を融合させた被服製作の授業を開発していくことが必要ではないかと考えた.総合的に学ぶ題材としては,「綿花の栽培,糸紡ぎ,布作り,小物づくりや染色」や,「洗濯,洗剤,生活排水,水環境」などが考えられた.「総合的な学習の時間」と関連づけると,草花の観察や活用,生産から消費までの総合的な経済システム体験,郷土の特産品とのかかわりなど,理科や社会科などと連携しながら,さまざまな活動をとおした多様な学びを可能とする題材開発の必要性が感じられた.
 愛媛県では,かんきつ類が代表的な特産品の一つである.そのかんきつ類と衣生活分野の学習とを関連づけられるのではないかと考えた.
 染色は,染色の科学性や布や染料の成り立ち,加工の工程や意義などのように,子どもの学習を多様なものにすることができると考えられている2).地域の独自性あふれた学校教材の開発には,充分な基礎的な実験や研究が必要であるが,かんきつ類の染色については十分に行われているとは言い難い.
 本研究では,愛媛県に生活する子どもたちにとって身近な素材であるかんきつ類による染色の題材化をめざし,いよかんの染色について基礎実験を行う.
【方法】
 いよかんの皮の状態における染液の濃度の違いを実験により調べた.染料として,次の(a)(b)(c)の皮の状態を用いた.
(a)いよかんの皮のオレンジ色の部分(フラベド)(生),(b)フラベドと皮の内側の白い海綿のような部分(アルベド)(生),(c)フラベドとアルベド(乾燥)((b)を乾燥させたもの).
 実験条件は,以下の3条件とした.
試料(1) (a)フラベド(生)75g(表皮以外の廃棄率約51.13%),蒸留水1500cc,試料(2)  (b)フラベドとアルベド(生)75g,蒸留水1500cc,試料(3) (c)フラベドとアルベド(乾燥)37.5g,蒸留水1500cc
 実験方法は,白いホーロー鍋に,実験試料(1),(2),(3)のいよかんの皮と蒸留水を入れ,中火にかけ,沸騰後,5分,10分,15分,20分,25分,30分,1時間について,それぞれ染料の色の変化を観察した.
【結果及び考察】
 染料抽出状態の観察から,試料(1),(2),(3)とも,時間の経過による染料の色の変化はほとんど見られず,どれも沸騰まで8~9分かかることが分かった.抽出した染料を比較すると,試料(1)は最も水分量が多く,試料(2)が最も水分量が少なかった.抽出した染料の色は,試料(1)と試料(3)に透明感があり,試料(2)は白濁していた.また,試料(3)は試料(1)よりも濃度が高いことが分かった.
 以上のことから,抽出時間の経過による染料の色の変化はほとんど見られなかったため,水分量の減少と実験時間の短縮を考慮すると,沸騰後5分で火を止めることが望ましいと考えられた.また,試料(1)で使用した材料は準備に時間がかかり,試料(2)で使用した材料は染料が白濁するため,実際の授業に用いる題材として,試料(3)が適切であると考えられた.つまり,いよかんによる染色を教材とするには,乾燥させたいよかんの皮を沸騰後5分間で火を止める条件が最適であると考えられる.
 今後は,本教材を用いた授業づくりを構想していきたい.

1)杉村,綿引,上野:「小学校家庭科衣生活分野における総合的な学びをめざす題材開発(第1報)—教科書の記述内容と実施状況—」,愛媛大学教育学部紀要,52,p.217~234(2005年)
2)野田,玉本,北野,任田,関:「小学校総合的な学習の時間におけるたまねぎ染色の実践」,生活文化研究,44,p.33~41(2004)

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© 2006 日本家庭科教育学会
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