抄録
<目的>
家庭科教育においては、現実の家族間に生じる葛藤や関係性の否定的側面をも授業に取り込み、それらを見つめる場の設定が必要である。
それにより、家族との関係性の多様さに改めて目を向け、多角的に家族関係をとらえ、将来、学習者が家族との関係において、柔軟な対応ができるようになる可能性が高まると考える。
他方、家族に限らず、他者と時空を共有しながら作業を行う過程においては、共に行っている他者に向けた思いや発話も生まれることが考えられる。それらを授業で活用することによって、そこでの他者との関係性を見つめることが可能になる。家事は一人で行うことも多いが、他者と行うことも可能な作業である。
そこで第1報では、共同作業としての家事の実践と記録を用いて、家族との関係性を多角的に見つめることのできる授業の構想、および実践された家事の内容やそこでの発話や思いについて分析・検討する。加えて、学習者が記録した内容に対する保護者のコメントについても分析することによって、共同作業の実践および記録が現実の関係性を振り返る場を提供し得るのか、その可能性について明らかにする。
<方法>
題材「地域の人々とのくらしを考えよう」の中に、本時「家族とのかかわりを考える」設定し、全6時間の授業を構想した。また本題材に先だって、学習者が家族と共に行った家事について記録した“実践カード”および保護者コメントの内容について分析した。対象者は、公立小学校6年生36名(男子19名、女子17名)であり、本題材は2008年3月12~24日に実施した。
<結果および考察>
1. 授業構想の視点と授業展開
以下の2点を授業構想の視点とした。
1)現実の生活場面における家族関係の取り込み
学習者に実践内容を4コマ画で描写させ、そこでの会話および思いを吹き出しの形で記入させるとともに、後日その中に、保護者の追加コメントを依頼した。
2)多角的に家族との関係性を捉える場の設定
感謝や肯定的評価だけでない、学習者に対する保護者の生活を営む中での様々な思いを見つめる場を設定し、他の学習者との共有を可能にした上で、保護者の肯定的なコメントを提示した。
2. 共同作業の実施と実践カード
・ 一人ではなく、家族と共に家事を行った学習者は64.3%であり、実践内容としては掃除が最多で13例あった。
・ 従来の授業では、実践活動後に、総括する形で感想を記入させていたのに対し、本授業では、各実践場面に対応させ、その時の発話や思いを記入させたため、実践カードの吹き出しには総数393の発話および思いが記録されていた。今回の記録では、作業のやり方、手順に関連して多数の発話が記述されたことにとどまらず、「ダルイ」、「疲れた」など、それらを実行することに対する感想や「手伝ってほしい」といった共同作業者に対する思いなどの本音が表出していた。
・ 従来型の総括的な保護者コメント欄では肯定的な評価が75%であったのに対し、後日、加筆された保護者追加コメントでは、作業中の学習者に対する肯定的な評価や感謝のコメントとともに、「弟や妹ばっかり使わないで自分でちゃんと動きなさいよ」といった注文や「でも、洗剤残しとか心配」など、保護者の現実の思いを引き出していた。教室の場に感謝だけではない、現実の生活における家族関係を取り込むことを可能にしていた。