日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第52回大会・2009例会
セッションID: A1-7
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口頭発表
教育カルタによるジェンダー観の涵養
*青木 幸子崇田 友江
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抄録

<目的>
男女平等は世界共通の課題である。我が国では「女子差別撤廃条約」の批准後、その内容の実現を図るべく教育改革を始め「育児・介護休業法」や「男女共同参画社会基本法」の制定など、社会の各分野で平等促進のための積極的な施策が展開されている。
各種調査・統計によれば、固定化された男女の役割分担が見直され、性別役割分業意識は以前に比べ薄らいでいる。しかし、条約や基本法に謳われた社会への道のりは決して平坦ではない。
一方、教員養成においては、1998年の教育職員免許法の改正により教職科目に「総合演習」が新設された。爾来、「ジェンダーと教育」講座を開講し、教員を目指す学生のジェンダー観の形成に資する取り組みを進めている。学校における男女平等教育の取り組みは、人権教育の一環として行われることが多く、家庭科の学習はもちろん広く学校教育における男女平等教育の一層の拡充を目指し、『男女平等を考える教育カルタ』を「総合演習」の受講者と共に製作した。
本報では、この教育カルタを家庭科授業に活用し、中学生のジェンダー観の涵養に果たす可能性について分析することを目的とした。
<方法>
中学校家庭科の授業内容の理解を図るための教材としてカルタを活用するとともに、その授業前後に生徒のジェンダーチェックを行う。また、授業中にーワークシートを作成する。授業前後のチェックシートの数値と授業中のワークシートの内容を分析・比較することにより、ジェンダー観の涵養に及ぼすカルタの影響を分析する。
対象者はT附属女子中学校3年生3クラス83名、調査時期は2009年2月6日~27日である。
<結果>
研究対象の授業題材は「わたしたちと家族・地域」であり、「家庭生活にみるさまざまな問題」をテーマに「家族・家庭とは」「家族の始まり、結婚」「家庭生活を取り巻く法」「家事労働と役割分担意識」「労働について」「高齢社会について」「ライフサイクルのまとめ」から構成されている。その最後の授業にカルタを活用した。
その結果、次のような特徴が明らかになった。
1.授業前後のジェンダーチェックシート(41項目)による分析から、ジェンダー意識の高揚はクラスにより差がみられ、しかもこの変動はクラスの特徴と符号する。
2.3クラスに共通の特徴として、チェックシートが1点台の高い項目は、知的能力、創造性、育児能力、おしゃれへの配慮にみられる。また、ジェンダー意識が高揚した項目は、論理的思考力、持久走、職業選択、子育てである。一方、ジェンダー意識が低下した項目は、創造性、臆病さ、たくましさの魅力、生理的特徴による精神的不安定である。数値が3点台をマークした項目からは特性論に基づく根強いジェンダー意識が伺える。
3.カルタを教材として展開した授業のワークシートからは、男女平等について驚きをもって新たな気づきを実感したり、理不尽な現実に憤り、平等を実現していくための課題や疑問を挙げたり、自分の考えを再確認したり、平等に向けた取り組みの必要性や願望を記したりとさまざまな視点からの学びを確認することができた。
4.カルタは親しみやすく、学習内容を身近なものにするとともに、既習内容の確認と課題の把握に役立つと同時に、仲間との学び合いを再評価することができた。
5.チェックシートの数値の変化とワークシートの内容から、ジェンダー意識の高揚に果たすカルタの可能性を確認することができた。

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© 2009 日本家庭科教育学会
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