日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第53回大会・2010例会
セッションID: A2-4
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口頭発表
公認されない悲嘆へのケア
大学生の人工妊娠中絶について
*得丸 定子
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抄録
【目的】大学生の人工妊娠中絶について、その悲しみや悩み、その対応に関する実態調査をおこない、いのち教育の一環として、公認されないグリーフケアの一つである中絶へのケアのあり方を探ることを目的とする。
【方法】2009年7月~12月にかけて2段階の調査を行った。まず調査1では、J大学の男女学部学生・院生(n=460)を対象に自記式アンケートを留置方法で行った。アンケートの内容は、男女によって内容を変え、女性への質問は本人自身のことについての内容(中絶経験の有無、母親との愛情関係、飲酒、自由記述等)と回答者の知人に関する内容(知人の中絶経験、知人の具体的悩み、相談内容、自由記述等)について実態把握を試みた。男性への質問は当然ながら知人友人に関する内容(上記女性への質問内容に準ずる)のみで構成した。次の調査2では、調査1のアンケート回答者のうち、インタビュー調査に同意した人を対象に、面会と電話による半構成インタビュー(調査1の補足、相談した人との関係、相談されたきっかけ、相談した側の反応、相談した側の中絶の悩みの解決方法、相談をした人の現在の様子、相談を受けた側の意識の変化等、10項目)を行った。統計処理はエクセルを用いた。
【結果と考察】調査1では、回収できた回答用紙100通(回収率21.7%)のうち、「本人が中絶経験者である」との回答は皆無であったため、「知人友人に中絶経験者がいる」と回答した22人(女性9人、男性13人)のデータを分析した。
知人友人の中絶の悲しみ・悩み・その相談への対応は男女で異なっていた。相談した側が女性の場合、全件とも中絶後に相談を受けたという回答であった。このことはまさに公認されない悩みや悲しみということであり、中絶前に相談できる状況作りや教育の重要さが示されていいる。相談を受けた女性側の対応は「聞き役」であり、「共感」が多く占められていた。しかしながら、相談を受けた側は話を聞くことしかできないという無力感も回答された。一方、相談した側が男性の場合、事前の相談はあったものの、相談と言うよりも妊娠の報告や中絶の費用のことであり、相談を受けた側も中絶の悩みや悲しみのケアとしての対処ではなかった。中絶という課題における男性側への対策はこころのケア以前のものであり、パートナーとしての自覚や女性側への配慮等の教育が必要であることが示された。
 調査2のインタビューでは、調査同意者は5人(女性2人、男性3人)であった。
悩みを相談されたきっかけとしては、3つのパターンに分類され、回答者(相談を受けた側)がはなしのきっかけを作ったケース(これは女性に多いケースであった)、知人からきっかけを作ったケース、会話の途中で相談されたという3ケースであった。また、どのケースにも共通する点は、1対1の状況で悩みを話していることであった。このことは、中絶に関する話は社会的に受け入れられないという思いを男女共に持っていることが関係していると考えられる。
 悩みへの対応については、相談を受けた側は、相談した人の悩みを聴き、「そばにいてあげる」という心情と態度を示すことで、相手の悲しみが和らぐことが示された。また、特に男性に多いケースとして、相談する側の中絶に関する内容は「悲しみ」「自責」というより、「負担」、「失敗」、「面倒なこと」という回答傾向であった。また、男女とも、親子関係が良好な回答者では、親に対して中絶の相談をしているという回答が得られた。
 本研究は少数回答ではあったが、男性への調査を行ったという点で、わが国では例が見られない調査であり意義の大きい調査であった。今後、家庭、学校、医療機関と連携をとり、単なる避妊知識を扱う「性教育」ではなく、生き方として、性について考える教育の展開がより必要である。さらに、中絶予防的教育に留まらず公認されない悲しみへのケアとその対応に関する教育や取り組みが望まれる。
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© 2010 日本家庭科教育学会
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