日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第53回大会・2010例会
セッションID: A2-3
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口頭発表
家庭科教育の逆機能~ひとり親家族を生きる子ども達の会話分析から~
*本村 めぐみ
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抄録
1.問題関心
 家庭科教育において、「家族」の授業を展開することはとても難しいという声がよく聞かれる。その理由の一つが今日の家族の多様性に対応できない、という点である。
 たとえば、その内実は曖昧にされたままに、教室にはかならず「”複雑な家庭”に育つ子ども」と表現される子ども達がつくり出されている。彼らは、ステレオタイプに「家族について考えることさえ拒む存在」「家族を語ることは出来ない存在」と見なされがちである。と同時に、そのような子どもの存在に教員らは「配慮」が必要であると感じており、そのため「家族語り」は、出来るだけ遠ざけながら家族の授業を展開することを模索しようとする議論さえ生まれている。
 しかし、「語る」という営みは本来、自己の存在を他者に知らしめ、他者からの承認を得るための人間的行為である。「自身の家族語り」を阻害しているのは、果たして本当に彼ら自身の家族経験そのものなのか。また、「複雑な家庭の子ども」とラベリングされる子どもたちは、本当に自身の家族について語りたくないと考えているのだろうか。
2.目的
 本研究では1980年代頃までは「病理家族」とも捉えられていた「ひとり親家族」のもとに育った子ども達の語りの分析を行うことを方法論とし、まずは、彼らの主観的認知に観られる「一人親家族として生きる困難」の内実を抽出する。
 そのなかでも特に学校文化、および教室(とくに「家族」を扱う家庭科の授業)のなかで受けざるを得なかった周囲からの「配慮」という名の一つの排除が、概して彼らがおおらかに家族を語ることを「抑圧」し続けてきた事実を読み解くことによって、家庭科という科目が、教育的には逆機能してしまっている側面への気づきを促し、これからの家庭科教育における「家族」の授業の意義と課題について言及したい。
3.調査協力者とインタビューの方法
 本研究においては、回想法によって自己認知の言語化が十分に可能であると思われる大学生になったひとり親家族の子どもたちを対象とした。
 国立W大学において90名程度の受講生がいる教室にて、趣旨の説明と協力の呼びかけを行い、協力を申し出てくれた母子・父子家庭の大学生男女14名を対象とした(女子9名、男子5名)。対象者の平均年齢は20歳である。親の離別・死別を共に含む。本研究の対象者は母子家庭がやや多く、離別が多いことが特徴である。8割の対象者は奨学金を受けており、一部を除いて経済的には豊かであるとは言えず、殆どはアルバイト生活を送っている。調査時間は一人1回につき、90分~半日(1回につき)。必要に応じて2度行っている。
4.結果
 主な結果は以下のとおりである。1.「ひとり親家族を生きる」子どもたちは、教室内でマイノリティとしての存在を表明することによって生じる周囲からの不必要な同情や過剰な「配慮」に困惑を覚えている。2.そのため、彼らは周囲の「標準家族意識」の秩序をかき乱さない程度に、あるいは何らかの工夫を施しながら「家族語り」をせざるを得ない。3.彼ら配慮という名の下に誰からも「聞いて貰えない」「尋ねて貰えない」という触れられない経験を重ねることによって「閉じて生きる」ことを緩やかに強要されている。
当日は具体的なデータを示しながら家庭科教育における「家族」授業のおおきな課題について言及する。
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© 2010 日本家庭科教育学会
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