抄録
【目的】
健康増進や疾病予防において,いかに問題行動の克服あるいは望ましい行動の定着を図るかは重要な現代的課題である。健康行動変容に関する確立された理論に基づくことにより効果的に行動変容を促すことができることが指摘されており,なかでもトランスセオレティカル・モデル(Transtheoretical Model;以下,TTMと略す)は,行動変容を促す介入モデルとして,研究と実践の両領域において幅広く利用されている理論の一つである。
近年,日本では,栄養の偏り,不規則な食事といった食に関する様々な問題が顕在化しており,健全な食生活が失われつつあることが懸念されている。そのため,健全な食生活の実現に向けて効果的な食育を模索する必要がある。そこで,本研究では,食行動変容という観点から日本の食育のあり方に対する示唆を得ることを目的として,アメリカで実施されているTTMに基づいた栄養教育プログラム「La Cocina Saludable(ヘルシー・キッチン)」に焦点を当て、その構造と効果を探ることにした。
【方法】
La Cocina Saludableプログラムの関連教材および文献を収集・分析し,その内容構成や特徴等について明らかにした。
【結果】
(1)La Cocina Saludableは,コロラド州立大学がアウトリーチ活動の一環として行っている栄養教育プログラムとして開発されたものである。(2)このプログラムで使用される教材は,遺伝的素因や,貧しい生活や過酷な労働状況といった環境的素因により,健康上の問題を抱えていることが多いとされる低所得のヒスパニックの人々を対象として開発されており,リテラシーが低い人にも理解できるよう平易な文章で書かれている。(2)プログラムで使用される教材としては,La Cocina Saludableの手引き書,フリップチャート,オリジナルのフード・ガイド・ピラミッドといった教育者用のキットと,プラスチックの調理器具セットといったプログラム参加者用のキットがある。(3)TTMに基づいて開発されたこのプログラムは,「Make It Healthy(健康的になろう)」,「Make It Fun(楽しもう)」,「Make A Change(変えてみよう)」,「Make It Safe(安全に)」,「Make A Plan(計画を立てよう)」,「Make A Great Start(さあやってみよう)」という6つのユニットから構成されており,各ユニットには,「テーマについて説明する」,「グループディスカッションをする」,「テーマに関連する事実について教える」,「フリップチャートを使用して学習内容をまとめる」,「学習の到達を自己評価する」といった具体的な活動が組みこまれている。(4) 「Make It Healthy(健康的になろう)」では,フード・ガイド・ピラミッドを使用するなどして,基本的な栄養知識について学ばせる。(5) 「Make It Fun(楽しもう)」では,就学前の子どもたちに健康によい食べ物を楽しく食べさせるためにはどのようにしたらよいかを学ばせる。(6) 「Make A Change(変えてみよう)」では,食事に含まれる脂質,塩分,糖質を減らすことや,食物繊維を増やすことについて学ばせる。(7) 「Make It Safe(安全に)」は,食の安全を確保・保持することについて学ばせるユニットで,具体的には,清潔を保つこと,食品の安全な調理,適切な食品保存方法など,食品の安全技術について学習させる。「Make A Plan(計画を立てよう)」では,健康的な食べ物の選択,簡単に体によい食事を作る方法について学ばせる。(8) 「Make A Great Start(さあやってみよう)」では,3食のうち,特に朝食の重要性について説明しており,先のユニットで学んだことを生かして実際に朝食を作るように促す。
La Cocina Saludableの内容構成や教材は,食行動変容を目的としたわが国の食育プログラムを開発する上で,具体的な指針を与えてくれると考えられる。