抄録
【研究目的と方法】
占領下日本の家庭科教育の成立と展開に重要な役割を果たした,アメリカからの家庭科教育情報とはどのようなものであったのか。戦後60余年を経た今日,CIE(民間情報教育局)と文部省による家庭科教育政策策定の際に参考となった当時の資料は,マイクロフィルム化されたCIE Recordsなどのアメリカ側の記録文書を除いて,次第に失われつつある。そこで本研究では,この時期の日米を繋ぐ家庭科関係資料を収集し,そのうち特に「アメリカからの家庭科教育情報」というカテゴリーに属するものを対象として,それらがどのようなルートで日本側にもたらされ,受容されたのか,という点について考察することを目的とした。研究方法は,実地調査による資料の発掘及び文献研究である。
【研究結果】
アメリカからの家庭科教育情報は,主に,次の(1)から(11)のルートでもたらされた。これらの教育情報は,新しい理念をもつ家庭科教育を成立させ,発展させるために具体的指針や方向性を与えたという点で,重要なものであった。
(1)CIE関係者によるアメリカの家庭科教育についての講演: M.Williamson のTDYレポート(1949-51)に見られる,婦人集会等での講演。
(2)CIE係官が教員研修会等でアメリカの家庭生活や家庭科教育について講話をしたこと: 例えば1948年の「家庭科協議会」におけるE.Donovanの講演(アメリカの家庭生活について)。
(3)家庭科ナショナル・リーダーが,アメリカ視察の途上で家庭科教育関係の本・印刷物等を入手し,持ち帰ったこと: 例えば,仙波千代氏は1951年1月にニューヨーク市立ハンターカレッジのD.S.Lewisを訪問し,同カレッジのカリキュラムを入手した。また,松本貴美子氏は,6つの基礎食品群の源流となった7つの基礎食品群(Basic Seven)の掛け図を持ち帰った。
(4)家庭科ナショナル・リーダーが,アメリカ視察の途上で家庭生活の向上に関係する生活用品を入手し,持ち帰ったこと: 例えば,桑田百代は,1952年に広島大学教育学部で開催された第一回中国・四国家政科・家庭科研究協議会において,アメリカから持ち帰った型紙「Simplicty primer」を初めとして,各種の珍しい調理・被服・保育用品等を展示した。
(5)教育長や指導課長クラスのナショナル・リーダーが,アメリカ視察の途上で家庭科教育関係の書籍を入手し,持ち帰ったこと: 例えば,徳島県教育長河野正道は,デトロイト市で教育委員会が発行した「A Source Book for Homemaking Teachers in Elementary Schools (1950)」を入手し,帰国後に同県の指導課長森孝三郎がこれを翻訳した。徳島新聞社発行の「家庭科のソースブック」(1951)がそれであり,家庭生活指導の参考書となった。
(6)家庭科のナショナル・リーダーが帰国後行った講演や視察報告書による情報受容: 例えば,山本キク,仙波千代,渡辺ミチ,桑田百代らによる帰朝講演や視察報告書など。
(7)教育課程文庫として日本に送られた家庭科関係の書籍からもたらされた情報: 「Homemaking Education in the High School(1941年版)」など。
(8)CIE教育映画に選定され,日本に送られて全国を巡回したアメリカ映画からの情報受容: 例えば「アメリカの働く婦人」,「アメリカの住宅問題」,「タミーちゃんの一日」,「家族」などのCIE教育映画。
(9)学習指導要領作成の際に資料としてCIEから提供された,アメリカの家庭科カリキュラムからの情報受容: 例えばニューヨーク州の家庭科カリキュラム「Planning Guide Homemaking Education」は,昭和二十四年版高等学校家庭科学習指導要領の底本となった。
(10)ホームプロジェクトと学校家庭クラブの振興のために提供されたアメリカの資料による情報受容: 例えば、「Official Guide for Future Homemakers of America」(1946)からの情報。
(11)家庭科教育に洋裁型紙を導入するためにCIEから提供された,アメリカの型紙からの情報受容: 例えば山本キク,成田順ら文部省の型紙委員会が受け取った「MacCall Printed Pattern」からの情報。