抄録
【目的】家庭科授業での調理実習の時間数は少なく、生徒に調理技術を充分定着させるのは難しい。生徒自身が日常、家庭で料理をする機会も少ないと思われる。そこで少ない実習時間の中でも、生徒が家庭で実践しようとする意欲を引き出す教材としてプレーンオムレツに着目した。本研究は、プレーンオムレツ、オムライスという2回の実習を通して、生徒が自分の調理技術の変容をどのように認識し、学んだ題材をどの程度家庭で実践しているのか、どのような生徒が実践しているかを明らかにして、この教材の有効性を検証することを目的として行った。また、学校の調理台は一般にガスコンロであるが、近年IH調理台を設置するケースもあり、研究対象生徒にもIH調理器の家庭があることから、IH調理器による実習指導の問題も合わせて明らかにし、家庭での実践にどのようにつなげるかを検討することとした。
【方法】本研究は2009年 国立T高等学校の協力のもとで行った。(1)1年生2クラス計80名の生徒を対象とし、事前アンケートでは、プレーンオムレツ(以下オムレツ)・オムライスの調理経験の有無、調理法、難しいと感じる調理過程について質問した。アンケートより、題材の調理について難しさを感じている生徒と、回答に特徴のある生徒計24名を抽出した。2回の調理実習(オムレツ10月20日・22日、オムライス10月27日・29日)で、抽出生徒の手元をビデオ撮影した。事後アンケートでは、オムレツ・オムライスの調理実習の自自己評価、家庭での実践状況と実践した理由を尋ねた。(2)IH調理台を導入している学校のうち、導入して1年以上が経過している学校にヒアリング調査を依頼し、うち2校の協力を得て学校訪問をし、家庭科の教員に調査を行った。(9月29日、10月10日)
【結果・考察】 事前アンケートより、実習題材(オムレツ)を初めて作る生徒は男子81.8%、女子65.9%で、女子のほうが調理経験のある生徒の比率が高かった。調理経験がない54名のうち、47名が作れるようになりたいと考えていた。実習前に難しいと感じていた調理工程は、形の整え方・火加減の調節・出来上がりのタイミングであるが、これらの項目はオムレツ・オムライスという反復的な調理実習を行うことで自己評価が高くなった(p<0.05)。とくに調理経験が無く、作れるようになりたいと考えていた生徒は、バターを溶かすタイミング・火加減の調節・出来上がりのタイミング・フライパンの中での卵のかき混ぜ方・きれいな色に焼くことの得点が上がり(p<0.05)、全体の自己評価点を上げたのは、これらの生徒であると考えられる。
オムレツ・オムライスとも実習後の自己評価は、調理経験のある生徒のほうが有意に高い(p<0.01)。第1回のオムレツの調理の家庭実践について、調理経験のある生徒のほうが家庭でを実践している比率が高かったが(p<0.1)、自己評価との関係はみられなかった。しかし第2回のオムライスの調理については、調理経験の有無による家庭実践の差は見られず、自己評価の高い生徒が家庭で実践している比率が高かった(p<0.1)。自己評価が高くなると家庭で実践をするようになると推測され、調理実習において、生徒が調理技術について高い自己評価を得られるような指導が必要である。
家庭での実践理由はオムレツ・オムライスともに、多くの生徒が調理実習をきっかけとして家庭で実践している。実践しなかった理由は、「時間がなかった」が最も多かった。調理実習と家庭実践の関連は、実習が実践のきっかけとなった場合の理由としては「もっとうまくなりたいと思った」が最も多く、生徒が自らの向上心により家庭で実践していることがわかった。一方、調理実習が実践のきっかけにならなかった理由は、「実習で上手く作ることができた」が最も多く、授業で上手くできたことが家庭実践と切り離されていることがわかった。
以上のことから、実習題材は「できた」と自己評価できるよう、基本的な調理技術が身に付くような内容にすること、調理実習においては生徒が「できた」と自己評価できるような指導をすることが家庭実践につながると考えられる。