抄録
【目的】日常生活で衣服を着用するのは当然のことであるが,児童・生徒の中には四季を通じて下着を着用せず,重ね着の仕方が適切でない傾向が見られる。下着の役割についての学習が実感を伴わない講義中心であることが問題点の1つと考えられる。また,被服に関する実験は,特定の測定機器を使用しないと実験できない,信頼される結果が得られない等という理由により,学校現場で積極的に取り扱われていない現状にある。そこで本研究では,衣服の働き・着方について実感を伴う理解を促すための実験教材を作成する目的から,目には見えにくく,普段の生活では体感しにくい布の吸湿性についての基礎実験を行い,若干の知見を得たので報告する。
【方法】1.小・中学校家庭科教科書中に記載されている実験・実習についての分析を行い,小・中学校の実験・実習内容の比較ならびに系統性について検討する。
2.学校現場で入手しやすく,安価な吸湿性測定装置を考案し,綿ブロード,綿カナキン,綿メリヤス,麻,毛モスリン,絹,レーヨン,ポリエステルモスリン,ポリエステルタフタ,アクリル,ナイロンモスリン,綿35%ポリエステル65%ブロードの12種類の試料布を用いて,吸湿性に関する基礎実験を行う。吸湿性測定装置は,密閉バックルコンテナ(約20リットル)の中に試料布を装着したガラス製シャーレとイオン交換水を一定時間放置した後,試料布の実験前後の重量の差から吸湿率を測定した。
3.基礎実験の結果を踏まえて,吸湿性の測定方法と装置を簡易化する。用いた装置は,市販されているプラスチック製密閉容器(約3リットル),試料布を装着したペットボトル,吸水したガーゼである。
4.小学校家庭科における授業実践を考慮して,市販下着(3種類)を使用して3と同様の実験を行うとともに,その実験を取り入れた学習指導案を作成する。
【結果および考察】1.小学校家庭科教科書の被服分野の記載では,実験が2~6%,実習が54~79%を占めており,実習が重視され実験をほとんど取り扱っていないことがわかった。中学校においても実験が1%であり,実習が47~54%を占めた。実験に関する記載内容では,実験の手順についての具体的な説明がほとんどなく,教諭や児童が図示された実験に興味・関心を持っても,実践しにくい状況だった。
2.考案した吸湿性測定装置を用いることにより,各試料布で公定水分率に近い吸湿率を得ることができた(相関係数0.799~0.968)。また,同一の繊維については織り方・編み方に関係なくほぼ同一の吸湿率が得られた。
3.簡易化した吸湿性測定では,身近なペットボトルや密閉容器で実験ができるとともに,試料布ごとに密閉容器を用いるため布の重さを計測しやすくなった。24時間放置後の綿とポリエステルの混紡割合の異なる4種類の試料布において,公定水分率と吸湿率との間に高い相関関係が得られた(0.993%)。この結果から,綿とポリエステルの混紡割合を算出できることがわかった。
4.市販下着を用いて3と同様の実験を行った結果,綿の下着では公定水分率に近い吸湿率が得られたが,綿とポリエステルの混紡下着では公定水分率より若干高い吸湿率となった。これは異形断面ポリエステルが吸湿を促進したためである。このことから授業実践で市販下着を取り扱うときには,教師が予備実験を行うことや,繊維本来の性質とともに,新合繊があることを児童に説明する配慮が必要である。以上の基礎実験結果をもとに,小学生を対象として,下着の役割を理解させる学習指導案を作成した。