日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第53回大会・2010例会
セッションID: P6
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ポスター発表
浴衣の着装を題材とした中学校技術・家庭科での授業実践
*薩本 弥生川端 博子堀内 かおる扇澤 美千子斉藤 秀子呑山 委佐子
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抄録
現代は核家族化の定着、便利な機器の普及、家事の外部化によって、生活技術を伝承する機会が減少している。国際化・情報化の進展によってモノの入手が用意になる中で私たちの価値観も変化し、古き良きモノや自国の伝統・文化への関心は低くなっているようである。被服に目を向けると、日本の「きもの」文化は、これまで日常着として、あるいは“はれ”の場の衣服として日本の生活や自然と関わりながら、「きもの」の染色、織、縫製、着装に関わる技術に支えられ形成されてきたが、日常着が洋装化し既製服が普及した今日、これらの技術や文化が一般に理解されなくなりつつある。
このような背景の元、2006年に教育基本法が改正され、「伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛すると共に、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が新たな教育の目標として規定された。この規程を受け、2008年3月の学習指導要領告示では、国際社会で活躍する日本人の育成のため、我が国の郷土の伝統や文化を受け止め、それを継承、発展させるための伝統や文化に関する教育の充実を図ることが求められている。
そして、中学校の技術・家庭科の衣生活分野では「和服の基本的な着装を扱うこともできること」が盛り込まれた。すなわち、日本の伝統文化である和服について着装も含めて理解するための教育、すなわち「きもの」 文化をどのように教育していくかについての検討、新しい教育デザインが必要となってきている。また、政府の施策の元、全国規模で外国人観光客が増加傾向にあり、情報のみならず、人やモノの移動を含むグローバル化が進んでいる。外国人の日本文化への関心は高く、日本の文化を世界に発信する機会が増え、文化の相互交流はさらに進むと考えられる。しかし日本の伝統文化をどのように伝えていくか、その方法についての検討もこれからといえる。
このような「きもの」文化をめぐる様々な状況を背景に、本研究では、家庭科の授業の中で「きもの」の中でも最もカジュアルで身近である浴衣の着装を含む体験的学習を通して日本の「きもの」文化を次世代に伝承することを意図して、教育プログラムの開発と授業支援を行うこと、それらの実践を通じて子供たちの心に日本の「きもの」文化を尊重し継承・発展させようとする芽を育てていくことを目的し、浴衣を題材とした授業研究に着手した。その一環で行った横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校において実施した授業実践およびその中で実施したアンケート調査の分析の結果および感想、今後の課題について紹介する。
授業前に_丸1_浴衣やきもの「文化」に関する意識調査を行い、授業で着装に関するビデオを見た後に_丸2_浴衣の着装・たたみ方ビデオの分かりやすさの評価を行い、たたみ方と着装の各授業後に_丸3_浴衣のたたみ方、着装の仕方に関して興味・関心、理解度、習熟度に関する調査を行った。
「きもの」(ゆかたを除く)の着装経験を調査した結果、男子では8割、女子では全員があると回答し、着付けを行なったのは「プロ」が圧倒的に多く、家庭において着付け技術の伝承がないことが明らかである。過去に「きもの」を着たときの感想では、「歩きにくい」「窮屈」が最も多く、動作性の面では否定的であるが、「気持ちが高鳴った」「優雅な気分になった」も多く、心理面では肯定的である。しかし、「自分で着てみたい」と答えたのは、男子で半数、女子で7割であった。一方、ゆかた着装授業により気分の高揚がみられ、男女で半数以上の者がまた着てみたいと答えており、このような授業実践の有無が、今後の「きもの」の着装に与える影響は少なくないと考えられる。
「今回の授業で浴衣が着られるようになった」という声もあり、単なる物珍しさに留まらず、浴衣に対する興味・関心を喚起し、日本の伝統文化の一つとしての「きもの」を見直すという授業の当初のねらいは概ね達成されたものと考えられる。
以上のように、授業での浴衣の着装が気分を高揚させる効果があり、日本の伝統文化の伝承に一定の効果があることが推察されたが、本実践を通して、限られた授業時間の中で効率よく着付けの技術を習得させるには、さらなる工夫が必要であることが明らかとなった。また、着付けを通して何を学ばせるのかという視点を明確にし、家庭科学習としての本実践の意義について、再確認する必要性が認められた。授業時間の多くが着装に費やされ、着装についての振り返りや、互いに浴衣姿を見合ったりする時間が充分取れなかった点が課題である。今後は、本実践で明らかになった生徒の実態を踏まえ、より実効性ある授業プランを具体化していく方向で進めたい。
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© 2010 日本家庭科教育学会
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