抄録
<目的>
本報はファッショントレンドを服飾教育に取り入れることで、学生の受講意欲向上を目指す取り組みである。教員養成大学小・中学校家庭科選修の学生を対象にした「衣生活論」の授業において、「あなたは教師になったら、どんな服装で教壇に立ちますか?」と訊ねたところ、清潔なイメージの服装、派手すぎない服装などと答える者はいたが、では具体的にどんなデザイン、色彩、素材ですか?という問いに即答できる学生はほとんどいなかった。2010年春夏のファッショントレンドを教材に用い、日々変化するファッションを服飾教育に取り入れることにより、将来教師に携わる学生に自分自身の衣生活をどのような視点でとらえ、どのように自己表現をするのか、自分が置かれている環境の中で、どのような服装をコーディネートすべきかを考察させる授業を行った。
<研究方法>
「衣生活論」受講者の内、学生の希望が最も多い小・中学校教師の服装について、2010年春夏のファッショントレンドを取り入れ、着装コーディネートをデザインする授業を行った。【課程1】2010年春夏のファッショントレンドについてデザイン、素材、色彩の領域からその決定方法と詳細について理解させた。 特に、当該年のトレンドが決定される要因にはバックグラウンドとして、世界情勢に強く影響されていることを認識させた。流行を自分自身のコーディネートに取り入れることにより、流行が生まれる社会情勢、経済情勢を理解し、デザイン提案することが可能になると考える。【課程2】ユニバーサルファッションのデザインプロセスに従って教師の生活・社会環境の分析、問題点の抽出を行う。それらの問題点の解決点、改善点を把握し、要求されるデザイン要素を考察し、最終的に、2010年春夏の流行デザイン、色彩、素材を基に要求されるデザイン要素を充足するコーディネートを提案させた。
<結果と考察>
学生は「心理的要求」として、教師の「威厳」「尊厳」と、相反する「安心感」「親しみやすさ」のバランスを上手く取るには、他の職業と比較して最もTPOを熟慮したコーディネートをしなければならないと考えている。特に児童・生徒との関わりだけでなく、上司や同僚、さらに保護者と多種多様な人間関係を持つ環境の中で、TPOによる服装のコーディネートを慎重にすべきであるとしている。次に「機能的要求」としては、伸縮性、吸水性、吸湿性、通気性、防汚性、防皺性、防UV性、防火性に優れた素材を必要としている。これらの要素は当該年のトレンドに左右されず、教師の過酷な環境を分析し、必要な要素と考えている。授業の初め、教師としてどのような衣生活を営むかを考えている学生はほとんどいなかったが、生活環境を心理的、機能的に分析し、要求される要素を充足する服装コーディネートを考えることによって、何をどう着るべきか、真剣に考えるようになった。学生が雑誌や映像から衣生活の中に自然に取りいれているファッショントレンドについて、グローバルな視点で内容を理解することにより、よりミクロな部分から教師の服装コーディネートの要素を分析しデザインを提案することが出来たと考える。また、現代、人と直接コミュニケーションを図ることが苦手な学生が多い中、最もコミュニケーション力が重要である教師という職業において、自分自身の着装コーディネートを考察することにより、豊かな感性を養うことを可能にすると考える。そして服飾がノンバーバルコミュニケーションとして言葉以上に児童・生徒に伝えるものがあると確信する。