日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第55回大会・2012例会
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第55回大会:口頭発表
  • 家庭科教員養成における農場実習の意義
    井元 りえ, 仙波 圭子
    セッションID: A1-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【背景と目的】  現在消費者の食の安全性に対する様々な不安や環境問題への関心が増大している。そのような状況の中で、食生活のLCA(ライフサイクル・アセスメント)を考えられる生活者・消費者の育成が必要である。すなわち、食品の生産、流通、購入、保存、調理、食事、廃棄について食品の一生を捉えた見方である。  小・中・高の家庭科の学習指導要領の中に「生産」という言葉は登場しない。しかし、その重要性を示唆する「食品の選び方」、「食品の品質を見分け」などの言葉は入っている。その基準として、生産についての知識が必要であると考えられる。  そのため、以前から家庭科教員養成において、学生に生産体験をさせ、その経験を教育に生かすことの重要性を指摘してきた実践者や研究者もいるが、それは主に米や野菜を栽培する体験であった。しかし、それだけではなく、様々な食品の生産・出荷工程に関する実践的な教育が必要なのではないだろうか。  そのような問題意識から、本学の家庭科教員養成課程でも食品の生産・出荷工程に関する実践的な教育が必要と考えていた折、宇都宮大学農学部附属農場が文部科学省「全国共同利用拠点制度」において「首都圏における食・生命・環境の複合型フィールド教育共同利用拠点」と認定されたことから、家庭科教職課程履修者4年生を対象とし、「食の生産実習」と題して宇都宮大学の農場体験プロジェクトに参加した。  そこで、本研究は、家庭科教員を目指す学生が、農場における酪農と園芸の生産実習を体験することにより、学生の知識、技術及び意識にどのような変容があるかを明らかにし、家庭科教員養成における農場での生産実習の意義を考察することを目的とする。 【方法】 1. 宇都宮大学農学部附属農場で、酪農と園芸の生産に関する学習を、講義と実習により実施した。実習は、平成22年と平成23年に、9月に1泊2日で行い、酪農学(講義1時間、実習5時間)、園芸学(講義1時間、実習2時間半)で実施した。参加した学生はそれぞれ別の学生(4年生)で、平成22年が9名、平成23年が14名であった。指導者は、宇都宮大学の教授2名にお願いした。また、技術職員と大学院生数名が助手を務めた。 2. 実習後、学生に6つのテーマで自由記述により感想・意見を記述させた。その内容をKJ法により分析・考察する。 【結果】 1. 学生の知識の変容  学生が平成22年と平成23年の講義と実習において新たな知識として挙げたものを分類した。「酪農学の講義」では9項目、「酪農の実習」では12項目、「園芸学の講義」では13項目、「園芸の実習」では18項目に分類でき、専門的な内容に係る項目が見られた。これは、学生が実習において多くの新たな知識を獲得したことを示している。両年に共通の分類もあるが、平成23年の方が分類が多い。その主な理由は、事前説明が充分に行えたため、実習に臨む学生の意識が高かったからだと考えられる。 2. 学生が得た新たな技術  学生が酪農の実習において得た新たな技術として、4項目に分類できた。それらは、搾乳の方法、えさの与え方、ブラッシングの方法、牛との触れ合い方である。が、園芸の実習では、技術を習得したと学生が認識できるような実習は行うことができなかった。 3. 学生の意識の変容  「食を支える農業・酪農の技術と役割について考えたことは何か」というテーマの記述では、内容を15項目に分類できた。品質管理の大切さ、技術研究の重要性、農業・酪農理解のための体験学習の意義、農業における専門的知識・技術の必要性、などである。  また、「卒業後、職業人として食に携わる際に、今回の実習をどのように生かすことができるか」というテーマの記述では、内容を10項目に分類できた。「食べ物は動物たちの命をいただくことであり、食材に感謝し、大切に扱わなければならないことを伝えたい」など命の大切さを授業で伝えたいことが示された。また、家庭科だけでなく、学校行事や総合的な学習の時間と連携して実習を行ったり、科目「生物」と関連させた授業を展開したいという記述もみられた。  以上のことから、家庭科教員養成において農場での生産実習は意義深いと考えられる。
  • 「味わい」を感じる五感に着目して
    佐藤 雅子, 石井 克枝
    セッションID: A1-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】
     小学校学習指導要領では栄養的特徴の理解や調理上の性質の中で食品を扱うことになっている。本研究では,小学生の食品認知度が低くなっている実態より,食品認識の学習を位置付けることとした。食品認識とは,食べている食品の特徴を知り,その特徴ごとに分類できることが分かり,およそ分類できることとする。これにより,1つの食品をゆでて終わるのではなく応用の効く「ゆでる」調理学習になったり,食品の体内での働きの理解に役立ったりすると考え,本主題を設定した。
    【方法】
     千葉県内小学校5年生119名を対象に,2011年6月から2012年2月にかけて,家庭科の授業で実施した。食の学習の初めに,モノを味わう際の五感を自覚する学習1)を行い,その後「食品をいろいろな分け方で分けてみよう」という食品認識の学習を2時間行った。そして,「ゆで方をマスターしよう」5時間,「おいしいご飯とみそ汁を作ろう」8時間,「どんな食品を食べているのだろう」2時間の学習の際に食品の特徴を意識させた。事前と事後で「食品,調理に関する意識」について質問紙にて調査し,それらを分析の資料とした。
    【結果】
    1.モノを捉える感覚を自覚させる学習:フランスの「味覚教育」を参考に「五感を使って味わう」感覚を意識させる「味覚体験」学習を行った。これにより,モノを捉える際の視覚や嗅覚等の五感を意識・活用するようになった。
    2.食品を認識する学習:教師が用意した食品を様々な観点で仲間分けする活動を2回行った。1回目は食べているモノが多種多様であることを捉える活動とした。児童は五感を駆使して観察し,動植物や皮(殻)の有無等食品の様々な特徴に気付いた。2回目は植物のみの仲間分けとした。児童は,食べている植物が緑色でやわらかい「葉」という部位でまとめられることや土の中にある根など植物の部位で捉えることができた。また,食べている植物には種子もあることに気付き,硬く籾殻で覆われている稲の種子の飯への変化に疑問をもつ児童も見られた。
    3.葉菜類を「ゆでる」調理学習:初めに,使用するほうれん草が緑色でやわらかいという特徴をもつことから葉であることを確認した。そして,児童がほうれん草を一人調理でゆで,葉菜類のゆで方を理解した。次に小松菜やキャベツなどの葉菜類をゆでて一人1品作る調理を行った。児童は小松菜やキャベツがその特徴から葉菜類に分類されるコトが分かり,迷いなくゆで,おいしいおひたしや和え物を作れた達成感を得ていた。食品認識の学習を最初に位置付けたことで,ほうれん草をゆでる学習を通して,「沸騰した湯で短時間ゆでる」という調理の要点を,葉菜類をゆでる調理の要点として理解することができたと考える。
    4.種子の米を飯にする炊飯学習:食品認識の学習時に米が種子であることを認識していたため,米の飯への変化を解決するための炊飯学習となった。種子から飯への変化としての炊飯を捉えた児童もおり,米に対する水の量や加熱の仕方などにより注目することができた。
    5.飯の体内での働きと関連させる:炊飯によって米が飯に「変身」することを実感した児童に,飯のその後の「変身」について五感を活用して観察させ,飯が体内に入った後のことを考える学習を行った。飯を口中で唾液と混ぜ合わせて咀嚼することで再び「変身」することを児童は実感を伴って気付いていった。そして「2度変身した」飯のその後,すなわち飲み込んだ後については,よく分からないことを自覚した。そして,体内に入った飯が,形がなくなり心臓などの筋肉を動かすエネルギーになることから,飯を毎日食べていることの理由を理解していくこととなった。また,毎日毎食食べている主食の意味を考えることにもつながった。食品認識の学習を位置付け,それぞれの食の学習と関連させたことは,「何を食べているのか」について,児童が食品・調理・栄養という視点を関連付けて考えられるようにするのに効果があったのではないかと考える。
    1)佐藤雅子.(2009).「味覚教育」を取り入れた調理技能習得の授業づくり.日本家庭科教育学会誌,51(4),310-314.
  • 河野 公子
    セッションID: A1-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    〈目的〉1994年度から高等学校家庭科が必履修となり,小・中・高等学校を通した食生活の指導が行われている。そこで,男子大学生・社会人を対象に調査を実施し,家庭科の役立ち感,食意識・食行動,食知識,調理技能等に影響を与える事項について明らかにすることを目的とする。
    〈方法〉2009年1月~3月,男子大学生と社会人(40歳未満)を対象に,家庭科の役立ち感(期待感),家庭科のイメージ,食意識・食行動,食知識,調理技能などについて,自記入式調査を実施した。回収後,有効な251部(有効回収率89.3%)について,統計解析ソフトSPSS13.0を用いて分析した。統計的な有意差の検定は,χ²検定を用いた。
    〈結果〉①対象者は,大学生118名,社会人133名(20~29歳57名,30~39歳76名)であった。②高等学校の家庭科は,大学生では111名(94.1%)が履修,社会人では62名(46.6%)が履修していた。③家庭科を学んでよかったと回答したのは,大学生の81.0%,社会人の85.5%であったが,役立ち感(期待感)は全体的に低く,50%を超えたのは,「食生活と健康」(大学生50.0%)のみであった。社会人の履修者の方が未履修者より有意に高かったのは,「日常食の調理」「栄養素の機能と摂取の目安」「食品の選択と取扱い」(p<0.001)であり,未履修者の期待の方が高かったのは,「会食の食卓作法」であった(p<0.001)。④家庭科の教科観(イメージ)を肯定的に捉えている者が多く,特に,「生きていくために重要」は,社会人の方が「そう思う」が有意に高かった(p<0.01)。⑤食に関する意識の中で,「空腹を満たすことを第一に考える」「食費にお金をかけたくない」「料理は女性がするもの」については,大学生の方が社会人より有意に高かった(p<0.001)。⑥食行動では,「好き嫌いが多い」「脂っこいものを控えない」(p<0.05),「間食をする」(p<0.001)など,社会人より大学生に問題が多かった。⑦調理能力については,大学生と社会人に有意差は認められなかった。⑧大学生では,運動系サークルに参加している者が,「運動を心がけている」「野菜をたくさん摂る」「運動系のサークルに参加している」(p<0.01)で有意に高く,一人暮らし者が「栄養バランスの良い食事の献立を考える」(p<0.05)「料理を普段からよくする」(p<0.01)「生鮮食品を適切に選ぶ」(p<0.05)「調理実習後,家で料理をする」(p<0.05)で有意に高かった。⑨社会人では,未婚・既婚,勤務形態,居住形態などによって差が認められた。未婚・既婚による差では,「運動を心掛けている」「加工食品は原料・食品添加物・製造年月日に注意して適切に選ぶ」(p<0.05)において,既婚者の方が有意に高かった。勤務形態では,日勤であるが出張が多い者は「3食きちんと食べる」が少なく,「外食やコンビニの利用が多い」(p<0.05)「食事の盛り付けやマナーに気をつける」「栄養バランスのよい食事の献立を考える」(p<0.01)において,有意差が認められた。居住形態では,一人暮らしの社会人は,「外食やコンビニの利用が多い」(p<0.01)ものの,「野菜を沢山摂るように」(p<0.05)心掛けていた。家族(妻子)と同居の社会人は,「多くの種類の食品を摂る」(p<0.01)よう心掛け,「自分で簡単な食事を調理する」「食品の管理・保存が適切にできる」(p<0.05)など,妻子の影響も大きいと思われた。
    〈まとめ〉男子大学生の食生活は問題が多く,家庭科履修の効果が明らかにできなかった。また,社会人については,家庭科履修の有無より,未婚・既婚,居住形態,残業や出張の多い勤務形態などの影響が大きいことが示唆された。今後更に対象を広げて調査をし,家庭科における食指導を充実していきたい。
  • インタビューデータのKJ法による分類から
    野田 聡子, 大竹 美登利
    セッションID: A1-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    目的
    平成17年制定の食育基本法を踏まえ、東京都では平成18年9月に東
    京都食育推進計画を、A市では平成20年6月にA市食育推進計画を策
    定した。これらの中では特に、学校における食育の充実を提案して
    いる。学校での食育推進を図る上で、自校式給食を行うA市の小学
    校ではとりわけ各校に配置されている学校栄養士の存在が大きい。
    そこで本研究では、A市の小学校において栄養士により行われてい
    る食育活動の実態と、その課題を探ることを目的とする。
    方法
    【調査方法】A市内の公立小学校にて、各校における食育推進のキー
    パーソンに対し、校内での食育の取り組み状況や課題に関して半構
    造化インタビューを行った。インタビューの内容はICレコーダーで
    録音した。その後録音データを全て文字に起こし、KJ法をもとに分
    類を行った。
    【分類方法】分類にはKJ法を使用した。インタビューデータをラベ
    リングし、そのラベルをもとに表札作り、島作りを行い、図解を作
    成した。その後、図解を文章にて説明する文章化を行った。
    【インタビュー対象者】A市公立小学校全9校に調査協力を依頼し、
    了承が得られた8校を本研究の対象とした。インタビューの対象は
    8校に所属し、インタビュー参加を承諾した栄養士5名、校長2名、
    副校長2名である。
    結果 
    1.校内では食育推進に関して、積極的な立場と消極的な立場が存
    在する 
    栄養士の多くは、普段児童の食に関する知識不足を感じる
    ことや、これまで行った食育活動の効果を実感することから、<食
    育の必要性>を認識している。これがきっかけとなり、1日3食の1
    食を給食として学校で食べることの重要性、つまりは1/3食の重要
    性や、専門的立場から食に関して少しでも伝えていきたい、食育を
    広めていきたいという栄養士としての使命感が<食育推進の積極的
    要因>となっていることが分かった。一方<食育推進の消極的要因
    >としては、給食は1日3食の1食でしかないという1/3食の限界や、
    準備・片づけも含むため限られている給食時間の問題、また多忙な
    学校現場という要因が明らかとなった。<食育の必要性>を踏まえ
    <食育推進の積極的要因>を多く語る者と、数々の限界から<食育
    推進の消極的要因>を多く語る者が存在する校内では、食育活動を
    考える栄養士にとって少なからぬ葛藤を生む原因になると考えられ
    る。2.校内では食育活動を推進する力と、それを押し留める力が
    存在する 
    校内には食育を≪推進する力≫とそれを≪押し留める力
    ≫、という相反する二つの力の存在が見出され、食育を進める上で
    栄養士の大きな葛藤になると考えられる。≪押し留める力≫として
    は、食育活動を教員や管理職に持ちかける上での<栄養士自身のた
    めらい>が大きくある。ためらいを生み出す要因として、限られた
    授業時間数や教員の多忙さなどの直接的に<食育推進を阻む外的要
    因>と、食育活動は本来栄養士の仕事ではない、学校では食育まで
    扱いきれないといった<管理職の消極性>が間接的に関与すると考
    えられる。一方で≪推進する力≫も存在する。具体的には教員免許
    を持った栄養士の存在を核として、教員や児童との関係作りなどの
    <栄養士の努力によるもの>と、他校栄養士や教員などの<栄養士
    を支えるもの>、そして教員や調理員の受け入れ・協力といった<
    食育の浸透・受け入れる雰囲気>の3要素が見出された。3.4つの
    課題に取り組むことで、今後のよりよい食育活動が期待できる 

    在各校で行われている様々な食育活動は、単発で終わっているとい
    う課題がある。したがって今後は取り組を評価し、系統立てて継続
    した取り組みを行うこと、そして食育の司令塔を中心とした校内体
    制の確立を図ること、が必要であると考えられる。
  • 森山 三千江, 本山 ひふみ
    セッションID: A1-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】生活習慣病発症の低年齢化や食習慣の乱れから生じる心身の発達に及ぼす影響などが報告されるようになり、子どもに対する食育が盛んに行われるようになっている。しかし、食事は生活習慣の一部であることから、多様化する社会における保護者の社会層や雇用形態により食に対する意識も様々であり、学校教育における食育がどれほど子どもの食習慣の影響を与えるのか様々な意見が交わされている。食習慣の身に付く低年齢層での食育は必要であるが、低年齢の児童には高学年と同じような食育の手法を用いても、言語能力の違いから文字や言葉の理解力が低く、教育の効果を高学年と同じように得る事は難しいと考えられる。そこで、本研究では低年齢層にも効果的な食育手法としてキャラクターによる食育劇を用い、食習慣に関する意識、行動面での変化があるかを追跡し、低年齢層に効果的な食育の手法を検討することを目的とした。 【方法】知立市立知立西小学校1年生137名を対象として日常の食事内容・習慣および野菜に対する嗜好を中心とした14項目からなる質問紙調査を行った。なお、対象が1年生であることからひらがなを読み書きする力が付いたとする10月から12月にかけて本研究の調査を行った。その後、キャラクターを用いた「食まるファイブ」による『野菜嫌い克服』、『朝食欠食による体調不良』をそれぞれ題材とした食育劇を二回行った。二度の劇後に事前に行った調査と同じ項目の質問紙調査を行い、その結果から食育劇の前後における児童の意識・行動の変化を分析し、低年齢化する生活習慣病に対しこの手法の食育活動がどのような効果をもたらすのかを検討した。 【結果および考察】食育劇の前後では、劇後に朝食を摂取する児童は増加傾向にあり、殆ど食べないと答えた児童は劇後では0となり、朝食摂取の大切さを題材とした劇の効果とも考えられた。朝食の内容は手のかからない主食を食べる傾向が見られたものの野菜や果物など多様な食材が摂取されており、バランスの取れた食事を児童が摂る事を日常から心がけている事がうかがえた。朝食を家族全員で食べる、給食を残さず食べるといった項目では劇後に増加傾向を示した。好きな野菜・嫌いな野菜についての項目では男子、女子ともに劇後に野菜全体で好きという答えが増加したが、男子と女子を比較すると女子の方が好きな野菜を多く答えており、全体に女子の方が野菜を数多く食べていると考えられた。個別の野菜で見ると劇後ににんじん、大根、ジャガ芋、グリーンピース、しいたけを好きと答えた児童が有意に増加し、その他の野菜についても好きと答えた児童が増加傾向にあった。また、食べる時の噛み方も良くかんで食べると答えた児童が増加したが、起床時刻などの項目では有意差は見られなかった。このことから、低年齢である児童が敬遠しがちな野菜が食育による意識の変化から増えたと考えられた。また、朝食を家族全員で食べる、家族の誰かと食べる、一人で食べると答えた児童と野菜の好き嫌いの関連を見ると男子では朝食を一人で食べる児童で劇後に野菜を好きと答えた児童が増加し、女子では家族の誰かと食べると答えた児童で野菜を好きと答えた児童が増加した。このことから家族全員で朝食を取ることを心がけている家庭の児童では正しい食習慣は家庭教育で身に付く可能性が高いが、幼少期より朝食が家族全員揃わない家庭の児童に対してこのキャラクターを用いた劇による学校場面での食育活動には一定の効果があると考えられた。
  • 荒井 きよみ
    セッションID: A1-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】平成17年に施行された食育基本法の前文で「国民一人一人が「食」について改めて意識を高め、自然の恩恵や「食」に関わる人々の様々な活動への感謝の念や理解を深めつつ、「食」に関して信頼できる情報に基づく適切な判断を行う能力を身に付けることによって、 心身の健康を増進する健全な食生活を実践する」とある。  
     すなわち、現代の「食」をめぐる問題の解決を目指すならば、心身の成長が著しい高校生に家庭科教育を通して、食生活への意識や能力を育む必要があると考えられる。そこで、高校生の実態から食をめぐる現状と課題を明らかにすることにより効果的な家庭科授業の実践に役立てる。
    【方法】2012年1月に高校生の食行動および意識について質問紙調査を実施した。 調査対象は、関東の公立高校1~3学年の638名(男子119名、女子519名)である。調査内容は外食産業の利用状況、行事食や日常食の食経験と社会問題に配慮した食品への関心、1日3回の食事の摂取率や内容についての14項目である。
    【結果】(1)マクドナルドの利用経験率は99.1%であった。膨大な広告費をかけたCMや景品による企業戦略の効果も考えられる。
    (2)吉野家の利用経験率は77.4%であった。
    (3)ガストの利用経験率は88.9%であった。
    (4)田作りの食経験率は84.6%であった。
    (5)親子丼の食経験率は96.7%であった。親子丼は和食の定番として根づいているといえる。
    (6)フェアトレードのチョコレートの食経験率は49.8%であった。フェアトレードが1年生の英語の教科書にとりあげられていたり、家庭基礎の調理実習で材料として使用したためと考えられる。自ら「フェアトレード商品を購入した」という行動まで発展させることが今後の課題である。
    (7)朝食の欠食率は8.6%、主食は米が48.0%、共食は39.4%であった。
    (8)昼食の欠食率は2.8%、主食は米が78.9%であった。また、昼食の弁当が家族の手作りは65.8%、自作が8.0%であった。
    (9)夕食の欠食率は2.7%、共食は68.2%であった。夜9時以降に摂るものが19.9%であった。成長するにつれ共食はかなり減少傾向にある(日本スポーツ振興センター2005)が、アルバイトや塾などによる生活時間の変化によるものと考えられる。脂質の過剰摂取の食生活から「日本型食生活」へ再び注目が集まる(健康日本21評価作業チーム2011,農林水産省2012)なか、朝食で主食として米を摂取している回答者は半数以下にとどまった。食の簡便化の傾向がうかがえる。弁当箱に詰める形態をとる昼食の場合、主食が米の割合は8割近くにのぼる。
    (10)食生活に対する興味が「大変ある」16.9%、「少しある」39.0%、「あまりない」28.8%、「全くない」7.8%であった。高校生が身近な問題として自分の食に興味を持つようになるためには、伝統食や朝食の摂取、夕食の摂取時間および共食の重要性が有効な視点であることが明らかになった。
  • ~教員養成課程の学部生による評価と課題~
    石澤 美代子, 名嘉 一幾, 得丸 定子
    セッションID: A1-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】近年の国民の食生活の課題をふまえ食育基本法(平成17年)において食育の重要性がうたわれ、新小学校学習指導要領解説(平成22年)等では、その実践についてさまざまな取り組みをしていくことが勧められており、本研究はその教育方針を具体化させることを目的としている。これまでに、小学校家庭科において食への興味関心を高揚させ、知識を与え、かつ仲間とコミュニケーションが図れる教材として「食育すごろくゲーム」を開発し、その評価を報告した(第54回本大会にて報告)。今回、同教材を用い、教員免許取得をめざす大学学部学生を対象とした食育の可能性についての検討を報告する。【方法】調査時期は、平成23年8月~9月であった。対象者は、J大学・B大学の学部2~3年生の58名(男子15名、女子43名)である。調査は、三色群分類についての記憶や食育を行う教科、また本教材の感想等の16項目からなるアンケートで、本教材を用いた授業の事前・事後(追加アンケートを含む)に実施した。本教材を用いた授業とは、第1段階として、くりだし六角形を用いつつ本発表者が独自に開発した、各自の食生活振り返り用ワークシート「イレブン・エリア・シート(以下11シート)」への記入を通して三色食品群分類の復習を行うものであった。第2段階として、3~4人グループで本開発教材「食育すごろくゲーム」を実施した。本教材は、11シートを用い仲間同士でアドバイスを行ったり、ミッション(アクションカードや知識カード)を遂行しながらゴールをめざす、という約30~40分の内容である。【結果】事前アンケートにおいて、食品を3色に分けることを大学入学前に「覚えていた」と回答した学生は33名、「覚えていない」は25名であった。三色群への分類が「できる」は34名、「できない」は24名であった。食育を学ぶ適切な科目や時間は、「家庭科」33名、「総合の時間」9名、「保健体育」0名、「学級の時間」2名、「給食の時間」13名であった。また食事を一日三食食べるかについては、38名が「食べないことがある」と回答していた。事後アンケートでは、「食育すごろくゲーム」実施後、三色群の分類について「理解度が上がった」との回答は52名であった。また仲間から食事へのアドバイスを受けたことについて、「できそう」と回答したのは47名で、うち41名が自由記述欄に具体的な改善行動を記述していた。また、11シートを使いたいかの問いには、「使いたい・使ってもいい」は54名であり、理由は「食事の振り返りができる」、「改善点がわかった」等であった。また小学生向けの学習であったが、ゲーム中に初めて知ったことがあるかの問いには、20名が「あった」と回答した。本対象者のうち、J大学の15名(男子4名、女子11名)について、事後アンケートの追加質問を行った。「楽しかった」13名、「またやりたい」11名、「自分の食事の改善点がわかった」9名、「食事や食べることに興味が出てきた」7名、「栄養の知識が深まったり興味が出てきた」6名、「教員となった場合本教材を使用したい」13名等の結果を得た。また課題として、「知識カードの文章が長い」、「マスが短い」等の指摘があった。【まとめと考察】教員養成課程の多くの学部生において、食育は家庭科で行うとよいと考えていた。また大学入学前に三色群の分類を記憶していない学生は25名おり、学校教育での栄養に関する学習の改善が求められる。欠食者が多くいたが、ゲーム後三食食べるように改善しようとする者は12名おり、また知識の会得があったなど、小学生向け教材でありながら教員をめざす学部生にも有益な教材であることが示された。しかし、本教材学習内容の長期定着への評価は今後の課題である。
  • 柴 英里
    セッションID: A1-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     近年の食をとりまく問題状況を背景として、食育と称される食に関する教育・実践が数多くなされている。2005年に施行された食育基本法では、「国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことができるようにする」ことを目的としており、幼児期、学童期をはじめ様々なライフステージの対象者に対して食育が行われている。
     本研究では、各ライフステージに適した健全な食生活の実現に寄与する食育のあり方についての示唆を得ることを目的とした。そのために、アメリカのミネソタ大学エクステンション部が開発した栄養教育プログラム「Simply Good Eating」(以下、SGEと略す)に着目し、その構成や内容などプログラムの特徴を明らかにする。
    【方法】
     SGEプログラムの関連教材を収集し、その特徴等について分析した。
    【結果】
     SGEプログラムでは、健康的な食事計画、限られた予算内での食事計画、食費を有効に使うこと、安全性を重視した調理の実践について学ぶことができる。このプログラムには、以下の4つのユニットがあり、様々な活動やプリントが用意されている:(1) Simply Good Eating for Health、(2)Simply Good Eating: Now You’re Cooking!、(3)Simply Good Eating for Moms and Kids、(4)Simply Good Eating For Seniors。(1) Simply Good Eating for Healthでは、栄養素に関する基本的知識、食品表示、朝食、間食、ファストフードについて学習する。(2)Simply Good Eating: Now You’re Cooking!では、食品衛生、食品購入、おいしくて簡単な調理などについて学ぶ。(3)Simply Good Eating for Moms and Kidsは、妊娠中や子育て中における食について学ぶことができる。(4)Simply Good Eating For Seniorsでは、カルシウムの摂取など高齢者の食生活において重要となる内容が盛り込まれている。SGEは、児童、生徒、大人(特に母親と高齢者)に適用でき、各対象者の関心・必要性が高い食に関する事柄について学習することができる。
     SGEの重要な特徴の一つは、学習内容の習得や行動変容を促すために、経験的学習サイクルをプログラムに組み込んでいる点である。ここでの経験的学習サイクルとは、活動させ、何を学んだかについて話し合ったりして共有し、それらが日常生活にどう適用できるか考えさせ、新たな行動を計画させて、それを実行させるという活動のサイクルである。新たなトピックについて学ぶときには、それまで学んだ内容の振り返りからはじめ、学び終わりには何について学んだのかを対象者に明確に理解させることにより、学習内容の深い定着を図っている。
     食育において、いつ何を習得させるべきか、どのように学ばせるべきかを明確にすることにより、食に関する指導を充実させることができると考えられる。そのような観点から、各ライフステージに適した食育を考えるうえでSGEは意義のあるプログラムである。
  • 今村 律子, 赤松 純子, 與倉 弘子, 深沢 太香子, 山田 由佳子, 潮田 ひとみ
    セッションID: A2-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的
     これまでに、発表者らは小学校家庭科衣生活内容における着方学習について、布の構造と空気を軸とした授業提案をおこなってきた。すなわち、布の織り目や編み目に存在する空気の多少と気温や季節に応じた着方に取り上げられる布の性質(保温性・通気性・吸水性)とを関連させたものであり、被服衛生学が中心であった。 衣生活学習では、被服製作に多くの時間が割かれ、人体を覆うのに最も適している布としての観点が不十分である。また、「手洗い」を通して基本的な洗濯作業を学ぶという位置づけで、「洗濯ができる」を扱っている。しかし、日常生活では洗濯機による洗濯が主流であることや、洗剤の働きなどは中学校で学習することから、小学校で学ぶ内容「作業の必要性が分かり、適切な方法を考えて洗濯することができるようにする」には無理がある。本研究では、被服衛生学を中心とした着方学習にとどまらず、衣生活内容全般(被服製作を除く)について、布を扱う被服材料学及び手入れや管理を扱う被服管理学の視点を加えた学習内容を構築することを目的とする。

     2.方法
     新学習指導要領解説及び2011年度から使用されている2社の小学校家庭科教科書における衣生活内容を省察し、被服材料学、被服管理学、被服衛生学の各専門分野1から、小学校家庭科における衣生活の専門内容を精査した。

     
    3.結果及び考察
    (1)空気に着目した着方学習の現状
     教科書の記述は、「内側にはセーターのように、空気をたくさんふくむ衣服を着る。」(T社)及び「重ね着をすると空気の層が増えるので、よりあたたかさを保つことができる。」(K社)、「空気の通しやすさ」(T、K社)である。着方学習(あたたかい着方・すずしい着方)は、「動かない空気(熱の不良導体)」、「動く空気(対流)」で一貫して説明することが重要であるにもかかわらず、空気は、保温性・重ね着・通気性の説明に用いられているだけである。衣服の形(被覆面積及び開口部)についても、身体にまとう空気の多少から説明が可能であることから、空気の性質という原理を学習しなければ、日常生活における活用・応用が難しいと考えられる。 さらに、あたたかい着方の学習は、すずしい着方より先に取り上げることが必要であると考える。すなわち、季節や気温に応じた着方(着心地)には、布の熱・水分の移動特性が関連する。あたたかい着方は、熱の移動特性によってほぼ説明できるが、すずしい着方では、熱・水分双方の移動特性が関連するためである。外気温が体温より高い場合や日差しが強い場合は、衣服(空気層)によって外部の熱を遮断することが有効であるが、高温多湿の場合、衣服が発汗蒸発を妨げるので、水分移動特性もふまえる必要がある。現行2社の教科書では、取り上げる順番が異なっており、学習の順序性が重要視されていないと思われる。空気の性質という原理をふまえ、あたたかい着方の学習を先に扱うことが必要である。また、学習指導要領解説では、「・・・住まい方も着方も空気の流れの調整が相互に関連していることに気付かせる学習展開も考えられる。」という記述がある。布の構造と空気を軸とした一連の衣生活学習は、学習を容易にする。
    (2)布の構造と性質の位置づけ
     学習指導要領解説及び教科書では、布の構造と性質は、小物づくりで取り上げられている。しかし、布を用いた製作として布の性質を知るのではなく、肌触りや丈夫さを衣服の性質としてとらえ、保温性や伸縮性、吸水性などの着心地に関わる性質と関連させて理解するために、布の構造から一連の内容を学習することは適切であると考える。「布を知る」及び「洗う」の詳細は別途発表予定である。

    注1)本研究は、日本教育大学協会全国家庭科部門近畿地区会の研究助成金による。
  • 與倉 弘子, 深沢 太香子, 山田 由佳子, 潮田 ひとみ, 今村 律子, 赤松 純子
    セッションID: A2-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的
     近年、児童・生徒を取り巻く衣生活環境の多様化、複雑化が著しく、家庭科における衣生活に関する基礎的・基本的な指導内容の精選があらためて課題となっている。これまで、発表者らは小学校家庭科衣生活内容における着方学習について、「空気」をキーワードとした授業提案を行ってきた。本研究では、さらに衣生活に関する内容全般(被服製作を除く)について、布の構造と空気が軸となる一貫した授業計画を提案することを目的とする。ここでは、被服材料学の立場から、小学校家庭科衣生活の基礎的・基本的な指導内容として「布を知る」学習について検討する。

     
    2.方法 
     新学習指導要領解説、2011年度から使用されている2社の小学校家庭教科書および学習指導書における衣生活に関する内容を省察し、被服材料学の専門分野から、小学校家庭科における衣生活に関する専門内容を精査した。本研究では、被服材料として繊維集合体である布が使われる理由を、1)人間の生理機能に適した熱・水分の移動特性をもつ、2)人体の局面を被覆するのに適した力学的性質をもつ、3)変形しやすく柔らかい、4)糸軸方向に寸法安定性が大きいことの4つであると考え、これらを「布を知る」学習の基本とした。「布を知る」学習の現状と課題、布の構造と空気が軸となる一貫した授業計画における位置づけ、あわせて栽培体験活動を通して「布を知る」学習についても検討を加えた。
    3.結果と考察
    (1) 「布を知る」学習の現状
     学習指導要領解説および小学校教科書では、布の構造と性質についてはミシンを用いた製作実習で取り上げられている。身の回りの布製品を探し、紙と比較して、布の特徴を考える学習を、製作計画の導入に位置付けている。布の特徴として、上記2)~4)を踏まえて、しなやかさ、肌触りの良さ、丈夫さを挙げているが、生活に役立つものの製作に適した布の範疇に限られる。「布を知る」学習は、ものつくりとしての布の性質だけではなく、上記1)の布の保温性や吸水性、通気性などの着心地に関わる性質とあわせて、衣服の着心地に関わる布の性質として理解する必要があると考える。
    (2) 布の構造と空気が軸となる授業計画における位置づけ 
     まず、導入として布の構造(織物・編物)の学習を行う。厚さの異なる広範囲の用途の布を集めて、織物拡大鏡などによる構造観察を行ない、織り目や編み目に空気が存在することを理解する。また、布に触れていろいろな方向に引っ張ることで、布の力学的性質に基づく着心地に関わる性質(肌触り、伸縮性、しなやかさ、丈夫さなど)を理解する。ここで、風呂敷を教材として用いることにより、2)布が曲面を覆うことに適した性質を持っていることや、結ぶことができること、4)糸軸方向に変形しにくく丈夫であることなど、繊維集合体としての布の性能を理解しやすいと考えられる。また、風呂敷の伝統文化としての意匠性やエコバックとしての経済性などにも発展させることが可能である。
    (3) 栽培体験活動を通して「布を知る」学習について
     滋賀大学教育学部において取り組まれている地域連携活動の「石山っこわくわく親子畑探検隊」の活動において、参加者である小学生15名とその保護者を対象として、綿の栽培体験を通して「布を知る」学習の実践を行なった。綿を栽培し、糸を紡ぎ、紡いだ糸で布を織ることにより、布の成り立ちに関する理解を深めることが出来た。ワタくりやワタ打ちの工程では、ふわふわしたワタに触れることにより、空気を含む集合体であることを実感できた。家庭科での学習との結び合わせは不充分であったが、栽培体験活動を通しての教育材には大きな可能性と有用性があると考えられる。
  • 潮田 ひとみ, 今村 律子, 赤松 純子, 與倉 弘子, 深沢 太香子, 山田 由佳子
    セッションID: A2-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的
    これまで発表者は高等学校家庭において衛生意識を高める被服管理分野の教材を提案してきた.また,今村らは,「手洗い」を通して基本的な洗濯作業を学ぶという位置づけで「洗濯ができる」を扱っているが,日常生活では洗濯機による洗濯が主流であること,洗剤の働きは中学校で学習することから,小学校で学ぶ内容「作業の必要性が分かり,適切な方法を考えて洗濯することができるようにする」には無理があることを指摘している.
    本研究は,小学校家庭科教科書に記されている「洗う・洗浄」について,衣生活だけでなく,小学校家庭科全般での記載についても精査し,被服管理学の視点を加えることによって洗浄に関する系統的学習を提案することを目的とする.
    2.方法
    新学習指導要領解説と2011年度から使用される2社の小学校家庭科教科書の内容と洗浄に関する記載を省察し,被服管理学の分野から小学校家庭科における「洗う・洗浄」に関する内容を精査した.
    3.結果及び考察
    (1)新学習指導要領解説による「洗う」学習に関する記載
    学習指導要領解説には,洗うこと・洗浄に関する記述として「C 快適な衣服と住まい-(1)イ日常着の手入れが必要であることが分かり,ボタン付けや洗濯ができること」が挙げられ,広義には「C 快適な衣服と住まい- (2)ア住まい方に関心をもって,整理・整頓や清掃の仕方が分かり工夫できること」や「B 日常の食事と調理の基礎-(3)イ材料の洗い方,切り方,味の付け方,盛り付け,配膳及び後片付けが適切にできること.オ調理に必要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い及びこんろの安全な取扱いができること.」,「D 身近な消費生活と環境-(1)イ身近な物の選び方,買い方を考え,適切に購入できること.-(2)ア自分の生活と身近な環境とのかかわりに気付き,物の使い方などを工夫できること.」が関連する.
    (2)教科書による「洗う」に関する記載
    K社教科書には,「2.はじめてみようクッキング」の項に「洗う」項目があり,関連の記載として,手の洗い方と残った細菌の割合(p.8)が掲載され,「8.じょうずに使おう物やお金」に,衣服を買う-取りあつかい方は? (p.51),環境を考えた「エコライフ」をくふうしよう(p.61)がある.その間の衣に関する学習内容は「3.はじめてみようソーイング」,「6.わくわくミシン」であり,「日常着の手入れ-洗う・洗浄」に関する内容は教科書の後半部分,「2.きれいにしようクリーン大作戦(pp.70-85)」に記されているなど,「洗う」学習に関して,学習の順序性が考慮されていない.
    (3)「洗う・洗浄」に関する学習内容
    日常着の手入れに関する内容では「気持ちよく着るための衣服の手入れの手順」および「衣服の手入れに必要な取りあつかい絵表示の例と意味」が見開きで記されるが(pp.80-81),取りあつかい絵表示に示される手洗いは「弱い手洗い(洗たく機は使用しない)」であるが,衣服の手入れの手順の項目には靴下の部分洗いを示すイラストと手洗い表示が併記される.学習指導要領に示される「手洗い」は,「靴下や,Tシャツ,体操着などの児童に身近な衣服を手洗いする活動の中で(p.40)」とある.イラストが学習指導要領に相当し,取りあつかい絵表示の手洗いとは意味や洗浄方法は異なる.また,「水だけで大まかな汚れを落としたり,汚れを用具を使って落としたり,乾きやすい干し方,後の手入れが容易になる干し方などを工夫したりすることによって(p.40)」と続くが,効果的な洗浄のためには,溶媒(水・アルコール),溶剤(界面活性剤)と物理的な力の3要因が必要であり,「水だけで落ちる大まかな汚れ」は限定される.汚れが分別できる,種類によって落とし方が異なる,汚れ落ちは汚れが水または空気との置換によって行われることが理解されれば学習が容易になると考えられる.
    以上,「洗う」学習については,順序性が考慮されていないこと,内容について学習者に誤解を生じさせる記載があるなどの問題点が示された.
  • 小林 由実, 川端 博子, 薩本 弥生, 斉藤 秀子, 呑山 委佐子
    セッションID: A2-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     伝統的・文化的な技術や習慣が伝承されにくく、関心も低くなっている中、2008年改訂の中学校学習指導要領の家庭・被服領域において「和服の基本的な着装を扱うこともできる」が明記された。しかし、教師自身の知識・技能が十分でない、教材の確保が困難といった理由から、和服に関する授業の実践例はまだ少ない。この様な現状をふまえ、ゆかたの着装を含む体験的学習を通してきもの文化を次世代に継承する家庭科の教育プログラムを開発し、その学習効果を検証することを目的とする。
    【授業実践】
     本研究では、埼玉大学教育学部附属中学校(2年生4クラス173名)の協力を得て、2011年5月から4週にわたり50分授業を4回実施した。授業は、和服の基礎的内容の学習にはじまり、たたむ、帯を結ぶ、ゆかたを着装する体験学習へと、段階的に進めた。着装技能/ゆかた着装時の気持ち/ゆかたへの興味・関心の視点に関するアンケートと授業ごとの感想をもとに、授業の効果を考察した。
    【結果と考察】
     着装技能の評価 ゆかたの着装技能について、「帯の結び方」等の3項目について8~9割の生徒が理解できたと感じていた。また、写真によるゆかた着装の生徒の自己評価では、「背中心がまっすぐである」等の全ての個別評価と、総合評価「外出できる出来ばえになっている」で有意な相関がみられた。「えり」「すそ」の評価項目では男女とも相関が比較的高い傾向となり、出来ばえに関連する要素とみなされる。男子においては「帯の形が整っている」の相関が最も高く、着付けにおいて帯結びの美しさが総合的な出来ばえに及ぼす影響は大きい。また、教師が同様の評価を行ったところ、5項目について自己評価と教師評価の間に有意な相関がみられた。特に帯に関する項目で、生徒と教師の評価基準が一致する傾向となった。
     モデルのゆかた着装時における気持ち ゆかたの着付け体験は2~3人のグループ活動とし、そのうちの一人をモデルとした。授業の前後にモデルを対象にゆかた着装時の気持ちを評価させたところ、「うれしかった」等のゆかたのよさに関する5項目については、全てで高まった。「帯がきつかった」「歩きにくかった」の否定的な2項目においては授業後にはあまり変化せず、比較的低くとどまった。
     ゆかたへの興味・関心 授業の前後に、ゆかたへの興味・関心(7項目)を評価させ比較したところ、男女ともに全ての項目で興味・関心が大きく向上した。事後調査においては、「和服について関心がもてた」等の項目で全体の約8割が「(やや)そう思う」と回答した。また、「家族と和服の話をした」の項目では全体の52%が「はい」と回答したことから、授業を通して生徒にきもの文化の継承に関わるきっかけを与えられたと考える。
     自由記述の分析 授業後の感想を観点別に分析したところ、帯結びの体験では「帯の形」「長さ調節」「きつさ」が、着付け体験においては、「帯」「おはしょり」が困難な点として最も多く挙げられていた。これらの記述を参考に、要点をおさえた、より簡潔でわかりやすい指導につなげていくことが課題である。
  • 教育学部の大学生アシスタントティーチャー(AT)を活用した試みから
    薩本 弥生, 川端 博子, 堀内 かおる, 扇澤 美千子, 斉藤 秀子, 呑山 委佐子
    セッションID: A2-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 現在の衣生活は、旧来の家庭で衣服を作る時代から、既製服を選んで購入する時代となった。日常着が洋装化し、既製服が普及した今日、きもの文化に触れる機会もめっきり減り、これらの技術や文化が若者に理解されにくくなりつつある。一方で、2006年に改正された教育基本法に「伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が新たな教育の目標として規定されたことを受けて、新指導要領が2008年に告示され、中学校の技術・家庭科の衣生活分野では「和服の基本的な着装を扱うこともできること」が盛り込まれたため、和服の着装の体験を含めた教育プログラムを模索することは必要不可欠である。そこで本研究では、和服の中でももっともカジュアルで取り組みやすいゆかたの着装を含む体験的学習を通し、きもの文化を次世代に継承する家庭科の教育プログラムを開発し、その学習効果の検証することを目標とし、特に浴衣の着装実習において大学教育学部で事前に浴衣の着装指導に関してトレーニングを積んだアシスタントティーチャーを活用して技能の理解・習得に力点を置いた授業実践を試行的に行い、技能の理解・習得を目標に着装体験することがきもの文化への興味・関心を喚起するかを明らかにすることを目的とする。 [方法]2011年6月から9月に、Y大学附属K中学校において、家庭分野担当教員の協力を得て教育実習の一環で大学の実習生が2年生4クラスを対象とした浴衣を教材とした3時間(50分×3)の授業を実施した。実習直後および夏休み明け(事後)に着装感や技能習得意識に関する項目(23項目)について5件法で調査を実施した。23項目の直後・事後調査のデータがそろっている4クラス分の男女生徒159部(90.9%)を対象として、分析結果から得られた内容をもとに、授業の成果と生徒の意識変容について考察する。 [結果と考察] (1)因子分析によって抽出された全5因子を相関分析した結果、「興味関心因子」と「理解習得因子」に高い相関があることがわかった。(2)共分散構造分析の結果、「理解習得因子」から「興味関心因子」へのパス係数が有意であった。このことから「技能の理解・習得を目標に着装体験することがきもの文化への興味・関心を喚起する」という仮説が成り立つことが立証された。さらに男女による差異、帯結び部分練習の有無による差異を検討した結果、有意に差が見られた。以上の結果から、男女でのゆかたの色柄の違いや着付けの難易度の違いがある中で男女ともに、きもの文化に対する興味関心や理解習得を肯定的にとらえるために授業のさらなる工夫の必要性が明らかになった。着付け技能の理解・習得をめざした授業作りのために部分練習をすると理解習得意識が高まり、それが興味関心喚起に結びつくことがわかった。授業時間数が縮小傾向の中での時間数の確保が課題である。[まとめ]これまでの実践を通して教師自身の「きもの」文化に関わる意識啓発と知識・技能の力量形成が重要であることが明らかとなってきたので、大学で着付けの技能を中心に「きもの」文化に対する意識啓発と技能習得のためのトレーニングを積んだ学生をATとして活用したのが本研究の特徴である。ATの活用により教員に余裕が生じ、生徒への示範や指導が行き届き、授業が円滑に進行し、着装技能の理解や習得意識が向上し、きもの文化に対する興味関心の喚起にも有効であることが明らかになった。附属学校という地域のリーダー的な実践校での実践であり、設備や教材などの学習環境、教師の実践力向上に向けての周りの支援、さらに生徒の質の高さ等々が整っているため出来た実践という面はある。しかし、一般校でも、地域か、保護者の協力を仰ぐ体制づくりを整えて行くことで可能となると思う。
  • 櫨 千尋, 薮 聖美, 加藤 祥子
    セッションID: A2-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1目的
    小学校の被服実習では、作品製作にかかる時間を短縮し完成度を高めるため、基礎的・基本的な技術の習得に練習布を用いることが多い。新学習指導要領下の家庭科教科書と既存の練習布を検討したところ、練習布で基礎基本の技術を学んでも、作品づくりに生かされていないという問題点があった。一方、完成度の高い作品を仕上げるために必要な技術が既存の練習布では十分に習得できないことも懸念された。さらに、近隣の小学校にて被服実習における児童の作業や教師の指導の様子を観察したことで、作品が綺麗に仕上がったという満足感を児童らが十分に得られていないこと、教師自身の裁縫の技量が実習授業の進度や児童らの作品の出来に大きな影響を与えていること、作品の縫製方法や布地の選択についての問題があることがわかった。
    そこで本研究では、手縫いとミシン縫いの練習布と、縫製作品を1枚の布にまとめ、技術を習得し、活用できるオールインワン縫製教材の開発と改良を行うことにした。
    2方法

    縫製技術の内容と習得順序を考慮し、基礎的・基本的な技術の確実な習得を図ることができる練習布と、練習布で習得した技術を全て活用できる縫製作品を目指した。指示やデザインは教師の指導・評価の簡易化も考慮した。各縫製作品は、完成度の高い仕上がりになるように縫製方法や指示の印刷を工夫することで、児童らの達成感や満足感を得られる。また本学の食育キャラクター『食まるファイブ』を活用することで食育へ発展させることもでき、作品の有用感を高められる。指示や手順の説明、柄合わせにも『食まるファイブ』を用い、留意すべき内容を明確にし、裁縫経験の少ない教師でも指導と評価がしやすく、児童にとっては『食まるファイブ』が語りかけることで興味をもてる教材を目指した。
    オールインワン縫製教材の実用化に向けて、本学家庭選修・専攻の一年生50名を被験者として、練習布と縫製作品を製作、製作後に指示の分かりやすさや練習量の適切さ、各段階の作りやすさや仕上がり具合、作品の実用性、製作時間に関するアンケート調査を実施し、再考した。また、愛知県内の現役の小学校、中学校の家庭科の先生方にも検討してもらった。
    3結果

    1)製作実験とアンケート調査から、縫い目の割り方や、角出しが甘い作品、返し口を閉じる際縫いが綺麗ではない作品が多数見られた。現役の先生方の意見から、「授業で必ず扱い子どもたちが使用できるもの」、「作品同士に関連をもたせ使用目的が明確なもの」、「全員お揃いでも児童の製作意欲を損なわないもの」、という3観点を重視して、教材の内容を選定する必要があるとわかった。 2)オールインワン縫製教材第二版(資料1)では歪みにくい平織りのGポプリンを使用し、収める作品は巾着・三つ折りランチョンマット・児童用エプロンの3つとした。「給食や調理実習の時間で使用する目的があり、『食まるファイブ』を活用する意義が高まること」、「学校内で使用する物であり、全員お揃いでも作品の有用性を損なわないこと」、「巾着のサイズを第一版より大きくし、ランチョンマットとエプロンを収納できること」の3点から、オールインワン縫製教材の利点を活かした作品内容になった。製作実験とアンケート調査によって判明した、縫製教材に印刷した指示の不備や被験者が躓きやすい部分に対しては、より確実に技術の習得ができるようにさらなる指示や説明の充実を図った。
    手縫いの練習布については、指示や説明の不備を改善するとともに、形式を大きく変えた。練習項目ごとに順次山折りにすることで、布を持ちやすく、かつ、布全体を有効に活用することができるよう工夫1)をした。
    引用

    1)家庭科教育研究者連盟『家庭科研究』 2011年10月号No.299 中学校実践「基礎縫いを大切に −指先を動かすこと-」 南山中学校女子部 大野智恵子
  • 藤田 春恵, 石本 有士, 桒原 知恵, 鈴木 明子
    セッションID: A2-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】中学校学習指導要領技術・家庭(家庭分野)では内容C「衣生活・住生活の自立」において,「布を用いた物の製作」はすべての生徒が履修することとなった。その実習で扱う題材については,完成後に活用することにより自分や家族の生活がより豊かになるような物を設定することが求められている。そのため,中学校の学習内容(題材構成)における製作の位置付けや,その学習指導の在り方を改めて検討することが急務である。本研究では,中学校家庭分野の教員を対象とした調査により,製作の指導に係る課題を明らかにし,その課題を解決するために, 製作過程で思考を深める場面を設定した2つの授業の効果を検証することを目的とした。
    【方法】広島県内の中学校技術・家庭科家庭分野担当教員137名を対象に, 平成23年7月から9月に「製作」に関する学習指導についての実態や教員の意識を把握する目的で調査を行った。回収した有効回答103名の調査結果から明らかとなった「製作」に関する学習指導における課題を克服して,教科の目標を達成するためには,生徒の学習意欲を高めて主体的に学習活動に取り組ませ,限られた時間内に効率的に学習活動を進めるための指導の工夫が必要である。そこで,製作実習の指導計画の中で,思考を深める場面の設定をすれば,これまでに学んできた知識と技術を活用して,課題の解決を図ったり,自分なりの工夫を考えたりするなど,生徒は主体的に学習に取り組むようになり,自分や家族の生活をよりよくしようとする態度が育成されるであろうと考えて,2つの授業を構想した。一つは簡単な衣服である「ハーフパンツ」を取り上げ,思考を深める場面を製作過程において設定し,股上を縫い合わせる段階で縫い方を考えさせた。もう一つは,小物である「エコバッグ」を取り上げ, 思考を深める場面を製作計画段階において設定し,エコバッグのオリジナルデザインを考えさせた。その際,製作に関する知識及び技術を活用して課題を解決する, いわゆる問題解決的な学習過程となるようにした。また,生徒の思考を促すための手立てとして, 縮小見本や実物標本の活用,グループによる学び合い,目標設定,ICTの活用,ポートフォリオの活用を行い,作品に自由度を与えた。授業展開においては,言葉や図表,概念などを用いて考えたり,説明したりするなどの学習活動を組み込んだ。
    【結果】2つの実践にみられた共通した成果は,「作品への満足度」,「作業の見通し」,「製作意欲の持続」,「補修の技能への自信」について生徒の自己評価が高かったこと,製作活動に対する好意的な意識をもたせることができたこと,生徒の学習意欲を高めて主体的に学習活動に取り組ませることができたことであった。また,ハーフパンツの製作では被服の立体構成を理解する場面,部位に適する縫い方を理解する場面で思考を深めており,エコバッグの製作では,用途を考えて形や大きさなどの工夫をする製作計画の場面で思考を深めている様子がみてとれた。中学校家庭科製作学習において思考を深める場面を設定することは,基礎的・基本的な知識及び技術を習得するのみでなく,それらを活用して生活実践につなぐ態度の育成にも効果的であると考えられ,設定場面においては,生徒が主体的に課題を認識し,探究したり解決したりできる工夫が必要であることが示唆された。
  • グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析
    大矢 英世, 大竹 美登利
    セッションID: A3-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     1994年度から高校家庭科が男女共修となり、小・中・高を通して家庭科は男子も女子も共に学ぶ教科となっている。しかし、現実には、男子校は未だに規定通りの履修ができていないところも多い。
     そこで、制度上家庭科が必修となった1994年度からどのような経過を経て、現在どのような家庭科教育が実施されているのかを明らかにする研究に取り組み、その原因を探った。分析を進める中で、特に私立男子進学校は、大学受験で成果を上げるという学校経営上の要請も強く、受験対策を視野に入れた独自のカリキュラムが組まれているなど、特に課題が大きいことが明らかになってきた。
     一方、官僚や政治家をはじめ、社会の各分野で活躍することをめざし、将来の社会のリーダーとなる可能性が高い男子進学校の生徒たちにこそ、生活者の視点から社会の在り方を考える家庭科の学習が必要不可欠であると考える。  
     そこで、本研究では特に男子進学校に焦点を当て、1994年度から現在までの家庭科教育の導入から現在の実施状況までを調査し、家庭科教育の定着及び充実のための方策を探究することを目的とすることとした。

    【方法】 
     男子進学校の家庭科担当教員10名に2010年8月から2011年7月にかけて実施した半構造化インタビューのデータについて、木下康仁のM-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)を用いて分析した。 
     半構造化インタビューの主な項目は、(1)学校の特徴と生徒の様子、(2)家庭科の授業形態、指導内容、(3)校内における家庭科の教育条件整備状況、(4)これまでの家庭科の状況変化、(5)指導上配慮していること、インタビュー時間は、一人あたり40分から210分であった。
     M-GTAの分析テーマを「男子進学校における家庭科の定着をめざすプロセス-家庭科担当教員が定着の手応えを感じられるまで-」とした。ここでの定着は、(1)家庭科の必修単位数の授業時間が実際に確保されていること、(2)実習室があること、(3)家庭科の専任教諭がいること、(4)一教科として、他の教科(受験科目以外の教科)と同等の扱いであること、(5)生徒が授業において他の教科(受験科目以外の教科)と同等程度の取り組みをすること、の5点が満たされていることとした。 
     インタビューデータについて男子進学校の家庭科担当教員の視点から「男子進学校における家庭科の定着をめざすプロセス」について意味を持つ部分を抽出、類型化して概念およびカテゴリーを生成し、その関係性を結果図としてまとめた。

    【結果】 
     M-GTAの分析により、男子進学校における家庭科の導入から定着•充実をめざすプロセスについて、一連の図式が導かれた。導入当初は、家庭科という教科への偏った認識やジェンダーバイアスが、大きな障害となった。こうしたなかで家庭科教員の努力や工夫の積み重ねが、生徒や他教科教員の意識を変容させ、家庭科の定着•充実を促すことになる。
     まず、家庭科教員が男子校の実態に合わせた教材や授業のスタイルを工夫していくことで、家庭科に対する「生徒の学ぶ意識の向上」が見られるようになる。→生徒の前向きな姿勢は、「他教科教員の理解と協力」につながる。→結果として「家庭科のインフラ整備」が進められることになる。→インフラが整うことで、家庭科の学習内容の幅が広がり、さらなる「生徒の学ぶ意識の向上」につながっていく…という図式が導かれた。この流れが機能していくことで、家庭科定着への推進力が高められていくことが明らかになった。
  • 速水 多佳子
    セッションID: A3-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】
     子どもたちを取り巻く環境は大きく変化し、家族や周りの人々との関わりが希薄になるにつれて、生活経験も不足してきている。そのため、学校教育現場において、他者や社会、自然とかかわる経験の場を意図的に設定する必要があり、新学習指導要領では、さらなる体験活動の充実が図られれている。平成18年2月の中央教育審議会教育課程部会の審議過程経過報告の中で、体験は、「体を育て、心を育てる源であり、体験を重ねることは、子どもの成長にとって貴重な経験となる」と書かれている。身近な実生活とのかかわりの中で、実感を伴った各教科等の知識や技能の習得が重要なのである。また学習指導要領の改訂にあたり、家庭科に関しても、体験から、知識と技術などを獲得し、基本的な概念などの理解を深め、実際に活用する能力と態度を育成するために、実践的・体験的な学習活動のより一層の充実が求められている。そこで、本研究では、従前より実践的・体験的な活動を重視して取り入れてきた家庭科教育において、その活動が効果的に機能しているのかを検証するために、大学生を対象としたアンケート調査を行い、これまでの家庭科の学習経験と知識・技能の定着の実態を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
     小・中・高等学校で家庭科の学習を経験してきた大学生を対象として、質問紙による実態調査を行った。調査内容は、対象者の属性、生活実態、家庭科に対する意識、知識・技能に関する内容である。知識・技能に関する調査内容については、国立教育政策研究所の「平成19年度特定の課題に関する調査(技術・家庭)」の内容を一部参考にした。調査は、平成23年10月、12月に、N大学の大学生177名(男性99名、女性78名)と、K大学の大学生50名(男性20名、女性30名)の合計227名(男性119名、女性108名)を対象に実施した。回収率は100%である。調査結果をもとに、大学生の家庭科学習経験と知識・技能の定着について分析を行った。
    【結果】
     小学校・中学校・高等学校の学校種別に、家庭科の授業で印象に残った内容を自由記述で回答を求めたところ、全ての校種で調理実習、被服実習に関する内容が大半を占めており、小・中・高と学校段階が上がるにつれて、被服実習の割合が減少した。家族・保育・衣生活・食生活・住生活・消費・環境の各領域の選択肢を示し、好きな領域を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのが、食生活174名(46.3%)、次いで衣生活75名(19.9%)であり、その理由としては、実習が楽しい、興味があった、身近で役に立つ等があげられていた。また、反対に嫌いな領域としては、消費68名(24.6%)、衣生活60名(21.7%)が多く、理由としては、難しく面倒である、苦手である、できない等があった。しかし、もっと学びたかった領域については、食生活が80名(27.7%)と最も多かったものの、その他全ての領域に記述が見られ、その理由としては、生きる上で大切である、今は大切だと感じる等があった。知識・技能の定着に関しては、ボタン付け、スナップ付け、取扱い絵表示、計量器具、切り方の名称、青菜のゆで方等に関する問題について回答を求めた。その結果、小・中学校で学習している内容にもかかわらず、正答率が50%以下のものも見られ、家庭での実践状況も著しく低いことがわかった。玉結びについては、糸を配布して両端の2ヶ所に実際に結んでもらったところ、約半数の回答者しか正しく玉結びができないという評価となった。また、家庭での料理の頻度と料理に関する知識の定着度の関係を見ると、計量カップに関する問題のみ有意差が見られたが、その他の問いに関しての有意差はなかった。以上の結果から明らかになった課題について整理し、報告する。
  • 黒光 貴峰
    セッションID: A3-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    目的
     本研究は、学校教育における家庭科の学習内容の定着について明らかにし、今後の家庭科教育における指導の充実に資することを目的としている。
    方法 
     研究方法は、1)定着度を測るための指標の作成、2)測定、3)分析である。1)は、家庭科で学習した内容がどの程度定着しているのか測るための指標の作成を行った。指標は、小・中・高等学校家庭科の学習内容を整理し、食生活、衣生活、住生活、家庭生活(保育を含む)、消費生活の各分野(各10問ずつ作成)からなる計50問5択形式の問題である。2)は、性別、学科、年齢、家庭科の学習歴等、属性について回答した後、問題を実施した。調査対象者は、大学生259名(男性112名、女性147名)、調査時期は、平成23年10月である。3)は、2)の結果をもとに属性および分野別に分析を行った。
    結果
     全体(50点満点)の結果は、平均点27.36点(標準偏差4.65)・平均所要時間15.46分(4.21)、であった。性別でみると、女性28.94点(4.53)・16.06分(4.36)、男性25.27点(3.93)・14.66分(3.87)であり、両者とも1%水準で有意差がみられた。分野別(各10点満点)では、食生活5.76点(1.84)、衣生活5.34点(1.56)、住生活5.50点(1.42)、家庭生活4.99点(1.53)、消費生活5.74点(1.45)であった。性別でみると、食生活は女性6.31点(1.82)男性5.05点(1.60)、衣生活は女性5.71点(1.50)男性4.86点(1.51)、住生活は女性5.53点(1.42)男性5.45点(1.44)、家庭生活は女性5.47点(1.54)男性4.38点(1.24)、消費生活は女性5.93点(1.43)男性5.52点(1.41)であり、食生活、衣生活、家庭生活において1%水準で有意差がみられた。食生活で正答率が最も高かったものは、問題「以下の図の切り方を何というか」解答「いちょう切り」94.6%、最も低かったものは、問題「食品がいつ、どこで作られたか、どのような経路で食卓に届いたかという生産履歴を明らかにする制度のことを何というか」解答「トレーサビリティ」32.4%であった。衣生活で正答率が最も高かったものは、問題「次の図は、取扱い絵表示の1つである。この図の説明として適切な文章はどれか」解答「液温は30℃を限度とし、弱い手洗いがよい」83.8%、最も低かったものは、問題「綿のワイシャツにアイロンをかける時の適温はどれか」解答「高温」7.7%で、これは、全体で正答率が最も低かった。住生活で正答率が最も高かったものは、問題「高齢者や体の不自由な人が社会生活に参加する上で、生活の支障となる物理的な障害や精神的な障壁を取り除くための施策、若しくは具体的に障害を取り除いた状態を何というか」解答「バリアフリー」99.2%で、これは、全体で正答率が最も高かった。最も低かったものは、問題「建築基準法では、健康で快適な室内環境を保つため、採光のためにその部屋の床面積に対しどのくらいの開口部を設置するように規定されているか」解答「7分の1」9.3%であった。家庭生活で正答率が最も高かったものは、問題「日本国民が全員加入しなければならない年金保険を何というか」解答「国民年金」95.0%、最も低かったものは、問題「労働基準法に記載されている産前産後休業で保障されている産前休業は予定日前何週間か」解答「6週間」17.0%、消費生活で正答率が最も高かったものは、問題「契約した会員が次の売り手となって、販売組織を拡大することにより利益を得る悪徳商法を何というか」解答「マルチ商法」95.0%、最も低かったものは、問題「2001年に施行された、不適切な契約から生じる契約者被害の防止・救済のために、事業者が最低限守るべき包括的な民事ルールを定めた法律はどれか」解答「消費者契約法」11.6%であった。
     以上、得られた知見から、大学生における家庭科の学習内容の定着について述べ、家庭科教育の充実に向けた今後の課題と展開策を示した。
  • -大学生の「つまずき」経験調査をもとに-
    小林 歩, 伊藤 圭子
    セッションID: A3-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    目的
     授業において、「つまずき」は積極的な面と消極的な面を併せ持つといえる。積極的な面としては、教師が意図的に学習者をつまずかせて、それを活用して学習成果を期待することが挙げられる。一方、消極的な面としては、諸要因により生起した「つまずき」からさらに二次的「つまずき」を生起することがある。 授業における「つまずき」は、多くの教師や研究者によって検討されてきたが、それは授業事例の分析に限定されるものが多くみられる。家庭科の場合も同様の傾向があるが、家庭科は特に多様で複合的な要素が相互に関わり合って生起する「つまずき」が多い傾向がある。もっと多面的に検討することによって、家庭科特有の「つまずき」の生起要因が明らかになるのではないかと考える。 そこで、教員養成課程学生による家庭科履修における「つまずき」経験をもとに、家庭科の学習において生起する「つまずき」の原因及びその関連構造を検討することを目的とする。
    方法 
     2011年6月下旬に、H大学教育学部3年生210名を対象に、これまでの家庭科履修における「つまずき」状況を問う質問紙調査を行った。具体的には、家庭科の学習内容28項目の中から「わかりにくかった」「できにくかった」学習内容を選択させ、それがどのように「わかりにくかった」「できにくかった」のかを自由記述で問うた。自由記述で求めたつまずき状況(553件)はラベル化してKJ法で解析した。
    結果
    1.「わかりにくかった」「できにくかった」学習内容としては、「ミシンの使い方」115件54.7%,「玉結び・玉どめ」68件32.3%,「栄養教育」58件27.6%,「洗濯の仕方」が44件20.9%,「製品商品の表示マーク」43件20.4%の順に多く選出されていた。
    2.「わかりにくかった」「できにくかった」状況を生起させる原因は、次の7つに分類された。一つ目は〈学習者の内的原因によるつまずき〉であり、「苦手意識があった」「分かっていてもできない」などの回答にみられるように、これは駒林(1982)のいう心理学的原因と捉えられる。以降は外的原因と捉えられる。二つ目は〈不適切教材によるつまずき〉であり、「学習内容が複雑で日常生活とかけ離れていたので難しかった」などの記述がみられた。三つ目は〈教師の不適切な指導方法によるつまずき〉であり、「授業の中で体験したり、教師の手本を見ることができなかったので分かりにくかった」などの記述が挙げられていた。四つ目は〈学習機会が確保できないことによるつまずき〉、五つ目は〈授業の前提となる知識・技術の不足によるつまずき〉であった。六つ目は〈学習意義の未理解によるつまずき〉であり、「知っていることを改めて学校で学習するのが疑問であった」「学習する目的や利点が分からず学びが少なかった」などの回答がみられた。七つ目は〈生活への一般化によるつまずき〉であり、「学習内容の日常生活レベルでの活用の仕方・され方が分からなかった」などが挙げられていた。そして、これらの原因は相互にかかわり合って、学習者に「わかりにくかった」「できにくかった」状況を生起させていると理解された。
    3.「わかりにくかった」「できにくかった」学習内容として最も多く選出されていた「ミシンの使い方」におけるつまずきの原因をみると、〈学習者の内的原因によるつまずき〉35件30.4%、〈不適切教材によるつまずき〉49件42.6%、〈教師の不適切な指導方法によるつまずき〉56件48.7%、〈学習機会が確保できないことによるつまずき〉12件10.4%、〈授業の前提となる知識・技術の不足によるつまずき〉1件0.9%、〈学習意義の未理解によるつまずき〉0件〈生活への一般化によるつまずき〉0件であった。                       
  • 中学校の調理実習から
    金子 京子, 倉持 清美, 阿部 睦子, 妹尾 理子, 望月 一枝
    セッションID: A3-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <B>問題と目的</B><BR>これまで、本研究グループは、保育体験学習では、事前事後も含めたストーリー性のある授業展開をすることが学びの有効性を高めることを指摘し、事前事後の授業内容(妹尾ら,2011;望月ら,2011)、体験の中身(阿部ら,2011;倉持ら,2011)について検討してきた。特に、事後の授業としては、生徒にナラティブを書かせることについての有効性を授業実践の中で精査し(金子ら,2011)、体験を振り返り学びを深める効果があることを確認してきた。本研究では、調理実習を広い意味での体験型学習と捉え、調理実習の事後の授業でナラティブを書かせることについての有効性について検討する。 これまでの私たちの研究からは、生徒がナラティブを書くことによって、自分の体験が時系列的に想起され、それに基づいた振り返りが行われることが分かっている。調理実習においても、ナラティブを書かせることで、実習を時系列的に振り返り、それが「段取り」への気づきになるのではないかと考えた。何度も調理実習を繰り返すことによって、生徒は確実に手順がよくなり、段取りがうまくなっていくという実感を教師はもつものの、家庭科の時間数が少ない中、くり返し調理実習を行うことはなかなか難しくなってきている。学習指導要領には「調理に必要な手順や時間を考えて計画を立てて行い、調理の後始末の仕方や実習後の評価も含めて学習できるようにする」と書かれている。本研究では、こうした学習を成り立たせる一つの手段として、調理実習後にナラティブを書かせることの有効性について検討することを目的とする。<BR><B>研究方法</B><BR> 対象:中学1年生1クラス<BR> 手続き:調理実習後すぐに、授業時間中に生徒に実習の感想を書いてもらった。調理実習後の授業で、生徒にナラティブを書いてもらった。<BR> 分析方法:「感想」と「ナラティブ」の両方を5人で読み、キーワードなる言葉を抽出し、カテゴリーを作成する作業を繰り返し行った。<BR><B>結果と考察</B><BR>・ナラティブには次のように「段取り」に気づいた記述が見られた。「茶碗蒸し作りが終わったらサンマを小麦粉に付け、焼きました。○○君のサンマも焼きました。○○君はその間、使った食器を洗って片付けていたり、これから使う食器を持って行きました。焼き終わったらサンマを皿に乗せて…」<BR>・感想文では、次のような表現がよく見られた「美味しく作れた」「家でまた機会があったら作ってみたい」<BR>・生徒のナラティブを書いた感想から「調理実習をやったときはすぐに終わった気がしたが、振り返って書いてみるといろいろなことをやったと言うことにびっくりした。~こうして思い返してみると「ここでこうしておけばよかった」と言うことがたくさんあった。次また同じことをやったら同じミスをしないように心がけたいと思う。<BR>・実習時、準備や生徒への注意で忙しく、生徒ひとりひとりの様子をじっくり難しい教師にとって、ナラティブは生徒の学びを把握するのに役立っていた。更に、生徒のナラティブを使って、深い学びに結びつけられる授業展開についても検討したい。
  • 小桝 由美, 長谷川 真由美, 長谷中 久美, 鈴木 明子
    セッションID: A3-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ホームプロジェクトは,生徒が各自の家庭生活の中で課題を見出し,解決を目指して計画・実践する学習活動である。1949年の新制高校の発足とともに教育課程に導入され,現在も学習指導要領に位置づけられている。平成25年度から実施される学習指導要領においても,家庭科の学習を実際の生活と結び付け,課題解決学習を行う学習として一層の充実が求められている。
     ホームプロジェクトに関する先行研究には,多々納ら(2001)の高校生のホームプロジェクトに関する実態と意識についての調査や,伊波(1989)の学習指導要領におけるホームプロジェクトに関する記述と,ホームプロジェクトの手引書から,高校家庭科の教育課程における位置づけの変遷について述べたもの,柴(1997)の占領下における家庭科教育の成立について扱った一連の研究などがみられる。しかし,指導法に関するものは加藤ら(2011)によるグループ学習を用いたテーマ設定の効果について検証したものなどが散見されるのみである。
     そこで本研究では,「家庭基礎」におけるホームプロジェクトに自己評価及び相互評価を取り入れた指導法を提案し,その効果を検証することを目的とした。
    【方法】2011年の7月から8月に広島県立S高校の1年生80名を対象として,夏季休暇中の家庭での実践を含む4時間の題材で実施した。対象としたクラスは,工業,商業,家庭に関する学科に所属する生徒が混在するクラスであった。従来のホームプロジェクトの指導は,「ホームプロジェクトの意義と進め方について説明し,生徒に各自実践させる」ことが一般的である。しかし,生徒の家庭生活に対する関心の低さから課題を見つける段階でつまずく生徒も多くみられる。そこで,1学期に学習した内容の中から,「家族の朝食大作戦!」,「愛着のある衣類をよみがえらせよう」などいくつかのテーマ例を提示し,その中から自己の生活課題に近いテーマを選択し,実践に結び付けるよう指導を工夫した。また,家庭に関する学科に所属する生徒については,自己の生活課題をテーマとするよう指導した。ホームプロジェクトの実践後は,発表会を行い,自己及び他者のホームプロジェクトに対する評価を行った。同時に,他者のホームプロジェクト発表によって再度,自己評価を自由記述で求めた。さらに,年度末にホームプロジェクトを通して学習したこと自分の生活に役に立っているかどうかについて自由記述させた。
    【結果】生徒が選択したテーマは,食生活に関するものが44.9%,衣生活に関するものが1.3%,住生活に関するものが19.2%,自己の生活課題が34.6%であった。自己の生活課題の中でも食生活を扱ったものが多く,あわせると75.6%の生徒が食生活を題材にホームプロジェクトを行っていた。発表後に行ったホームプロジェクトの手順(題目設定,実施計画,実施状況,反省)についての自己評価(5段階評価)では4点以上の高得点であったものがいずれも約6割であった。所属学科別に見ると,現代ビジネス科(商業),人間福祉科(家庭)で高い傾向が見られた。また,発表後の自由記述からは,生活課題の解決に向けてその方法を追求する姿勢の高まりや自己の生活課題を別の視点から改めて見つめ直そうとする姿勢がうかがえた。年度末の調査では,「課題を見つけ自ら解決しようとすることができた」,「自分の暮らしぶりを振り返ることができた」という項目において肯定的に評価した生徒は,それぞれ63.3%,68.4%であった。また,学習が自分の生活に役立っているかについての記述からは,各自の生活課題に敏感に気づくようになった様子や自ら課題解決に向けて継続して実践している様子がみられた。ホームプロジェクトに自己評価と他者評価を取り入れたことで自己の生活を多面的に見つめる機会となったり,自分のホームプロジェクトを客観的にとらえ,方法を修正したり,他者からの肯定的評価により実践意欲を高めることにつながったと思われる。
  • 仲田 郁子, 久保 桂子
    セッションID: A3-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1、目的
      生活設計を構成する領域には、大きく分けて(1)将来どういう生活を送りたいかというライフデザインの領域、(2)金銭やネットワークなどの生活資源を管理する領域、(3)リスクを確認し対策を行うリスク管理の領域の3つがあると言われている。
      高校生の生活設計についての調査結果の分析から、上記(1)との関連である、仕事に対する具体的目標があることや家族形成への意欲をもつこと、さらに自分に対する肯定的な評価が、生活設計への積極性を高めることが示されている。さらに(3)との関連で、仕事や家族形成、病気や事故・災害への不安など、生きていく上で遭遇するかもしれないリスクを考えさせることも、生活設計への積極性を高めることが明らかになった。
      そこで本研究では、ライフデザインとリスク管理それぞれに生活資源管理の視点を加えて、生活設計の授業モデルを考案し、そのモデルに基づいた授業を実践して、授業の効果を評価することを目的とする。

     2、方法
      以前より生活設計の学習題材として、リスクとその対策を取り入れた人生すごろく作りを取り上げてきたが、さらにライフコースの選択について考えさせることで、総合的に生活設計学習ができると考え、授業を計画した。
      まず、リスクとは何か確認したのち、リスクとその対策を取り入れて人生すごろくを製作する。その後級友の作品を検討することで考えられるリスクを共有し、それらにどのような対策があるかを、2つの視点から(お金に関することとそれ以外のこと、個人でできることと社会保障制度)4グループに分類し、理解を深めることを図った。
      続いて、すごろくのストーリーとしてどのようなライフコースを取り上げたかを挙げさせ、その理由を考えさせた。
      この後、経済資源についての授業を実施した。4通りのライフコース(独身一人暮らし、既婚夫婦共働き、既婚子どもあり妻専業主婦、既婚子どもあり妻パート)について、それぞれの平均的な家計状況をシミュレーションし、預金額から、生活のゆとりを検討した。今回は市販されている家計管理用のシール教材を用いた。

     3、結果 
      授業実践後、生徒の振り返りの記述、感想などから、授業の効果を検討した。すごろくで生徒が取り上げたリスクは、大きく分けて事故病気災害、失業倒産など職業に関わるもの、離婚など家族に関わるものに分類できたが、彼らが考えた対策は、貯金や保険など個人的な努力によるものがほとんどであった。すごろく完成後のまとめの授業でこの点に気付かせ、社会保障制度への理解を深めさせることができた。 
      また、生徒の考えたストーリーの多くは、夫が職業につき妻が結婚や出産で退職となるタイプであり、彼らはそれが「普通、一般的」と捉えていた。4通りのライフコースの経済資源についてのシミュレーションにより、生徒の多くは彼らの希望が経済面からみると実現が困難であることに気付き、現実的に考える必要性を認識できた。
      リスクとその対策を取り入れた人生すごろく作りの授業により、高校生はリスクを知り、その対策としての生活資源について、個人の努力によるものだけではなく、社会保障制度について理解を深めることができた。またライフコースに経済資源の視点を取り入れることにより、生活の見通しを立てる上で様々な生活資源について考慮する必要性を理解することができた。
  • 第6学年児童から新5学年児童へのメッセージ
    堀内 かおる, 種村 由紀
    セッションID: A3-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>平成20年改訂の小学校学習指導要領が平成23年度に完全実施となった。このたびの改訂では、新たに「ガイダンス的な内容」が導入され、第5学年の最初に学習させることとなった。この「ガイダンス」は、第4学年までの様々な学びを振り返り、これから始まる2ヶ年にわたる家庭科の学習を展望する、家庭科の授業開きとして極めて重要な位置を占めている。
     他方、2ヶ年にわたる家庭科学習のまとめとして、最終題材にどのような学習を位置づけるかは、非常に重要である。「ガイダンス」でスタートした小学校家庭科の終結として、子どもたちの学びの履歴を総括するような、意義深い題材設定が望まれる。 そこで本研究では、第6学年児童が小学校家庭科の2ヶ年にわたる一連の学習を振り返り、自分たちが学んできた家庭科を紹介するプロモーションCMを作成するという課題を設定し授業を実施した。プロモーションCMには、子どもたちが家庭科を学習して印象に残っていることを取り上げるようにし、第6学年児童がこれから家庭科を学ぶ新5学年児童に対し、家庭科に関して伝えたいメッセージを込めて、CM全体のストーリーを考えるように促した。  
     CM制作を授業に導入する試みとしては、先行事例として平成18年度から開始された電通による「広告小学校」プロジェクトがある。本研究では、同プロジェクトを参考にするとともに、以下の2点で差別化を図った。第1に、CM制作の目的である。本研究では、コミュニケーション力の育成を直接的な目的とするのではなく、あくまでも家庭科学習の総括として、子どもたち自身が家庭科への思いを表現する点を重視した。このCM制作による表現を伴う言語活動を家庭科の最終題材に位置付け、家庭科の学びをCM制作という活動によって総括することによって、そのCMはおのずと児童にとっての家庭科学習がどのように受け止められているのかということを反映したものになる。第2に、CMは子どもたちの手による家庭科のガイダンスとなることを想定して制作された点があげられる。完成したCMは、平成24年4月に新5学年となる、第4学年児童に上映し、家庭科学習の動機づけとして活用した。家庭科についてのプロモーションCMを制作し新5学年児童に向けて上映することを家庭科のまとめとガイダンスへの一連の学びととらえ、その学習効果について検討することを本研究の目的とする。
    <方法>国立大学附属Y小学校第6学年の1クラスを対象として、家庭科の授業時間を中心に家庭科を推奨するCMの制作に取り組んだ。かかった時間は合計9時間、41名の児童を5班に分け、グループごとに1つのCMを制作した。制作にあたり、著作権についても説明し、CMの内容はオリジナルなものにするよう指示した。時間配当の授業過程の録画記録、ワークシートの記述、児童の考えたCMプロット、完成したCMを分析資料として、第6学年児童の家庭科の総括として本授業の有効性を考察した。
    <結果と考察>5つの班の中で4つの班が家庭科の中でも食の分野に特定したCMを作成していた。このことは、2年間の家庭科学習において、食に関する内容が特に印象深くとらえられていたことを示唆している。CMの内容にも共通性がみられ、第5学年当初では「できなかった調理」が上手にできるようになったこと、その背景には教師の注意を聴いて、安全に留意し作業を進めることが重要である点が指摘されていた。 児童たちの考えた家庭科プロモーションCMを視聴した第4学年児童たちは、家庭科では調理実習が行われ、調理技能の習得が図られると理解したようであった。しかし半面、家庭科における調理実習が象徴的に取り上げられたために、家庭科の教科イメージと調理が強固に結びつけられることになった。
  • 既製型紙の導入による被服教育の改革
    柴 静子
    セッションID: A4-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    研究目的及び方法:本研究は、本学会第54回大会において発表した「占領下日本における家庭科教育ナショナル・リーダーのアメリカ視察」と関連深いものである。1950年2月から翌年の9月にかけて、断続的にアメリカに派遣された17名の家庭科教育のリーダーの中に、東京学芸大学助教授の渡辺ミチ氏がいた。渡辺が視察旅行者に選ばれたのは、CIE(民間情報教育局)のM.ウィリアムソンが「渡辺の専門は被服分野で、文部省の型紙委員会のメンバーである。彼女にはアメリカの洋服型紙の発行と普及について実際を見せたい。」と考えたからである。1951年4月、渡辺は、視察旅行の終着地でCIEに報告書を提出している。この中で、「マッコール社やシンプリシティ社など発達した米国の型紙産業のもとで、家庭科において既製の型紙が自在に使われている授業風景を目の当たりにし、わが国の被服教育においても既製型紙導入の研究が急がれる。」と記している。戦後の家庭科教育において注目すべきものの一つが、学校用の既製型紙の出現による被服教育の革新である。本研究は、高校の被服教育のターニングポイントとなった『わが国ではじめて作られたかり縫いのできる最新式型紙』が全国家庭科教育協会から発行されるまでの経緯と、その後の姿について明らかにすることを目的とした。研究方法は、日米の資料を使用した文献研究である。
    研究結果:1.1949年7月から1951年6月までCIEの家政教育官として日本に滞在し、占領教育政策を策定したM.ウィリアムソンは、被服教育について、製作に膨大な時間をかけているにも拘わらず生徒の技能は上達していないと捉え、その主たる原因は、原型から型紙を製作させることに相当な時間を費やしているためである、と考えた。そこで、日本の学校でもアメリカのように既製型紙を普通に使用することが必要であり、そのための条件整備が緊急の政策課題であるとした。2.当時、高校の家庭科で使用できる既製型紙は数少なく、それも婦人用のサイズとデザインであった。そこでウィリアムソンは、型紙プロジェクトを発足させ、女子生徒用の既製型紙を作成させて、全国に普及させるという大がかりな被服教育改革計画を立てた。3.型紙プロジェクトは1949年9月に発足した。まず、ウィリアムソンが全国の家庭科指導主事や家庭科教師に協力依頼をして、女子生徒の採寸データを文部省に集めた。文部省内に型紙を作成するための委員会が結成され、委員が選定されたのは、採寸データがほぼ出そろった1950年8月のことであった。当時、被服分野で活躍していた成田順、渡辺ミチ、杉野芳子、原田茂に加えて、文部省の山本キクが委員に任命された。4.型紙委員会の製作した実物大既製型紙は、『わが国ではじめて作られたかり縫いのできる最新式型紙』として、1952年3月に全国家庭科教育協会から発行された。この型紙は、ブラウスが基本型など3種類、スカートがタイト、タック、6枚はぎ、フレヤーの4種類であり、「特大」・「大」・「中」・「小」の4サイズが準備されていた。5.『かり縫いのできる最新式型紙』は、1枚の大きなハトロン紙にパーツが印刷されており、裁ち切り線で切り取って、パーツを自分で作るようになっていた。虫ピンでパーツを合わせて仮縫いができ、補正もできるように、材質を柔軟かつ破れにくくしているという点で、アメリカのシンプリシティ社の型紙と酷似していた。6.1953年7月、『最新式型紙』は『かり縫いのできるZKK型紙』と名称変更され、ブラウス(A)とスカート(B)に加えてスリップ(J)まで、10種類が発行された。この型紙発行を受けて、1954年8月には全国家庭科教育協会編『ZKK型紙の活用法』が出版された。7.仮縫いはできるが一つのスタイルしか製作できないアメリカ式型紙は、高校家庭科が「一般家庭」から「家庭一般」に移行した時期に、婦人雑誌の附録につく実物大型紙に近いものに取って代わられた。1956(昭和31)年に全国家庭科教育協会から出版された新しい型紙『Z型紙』がそれである。8.占領下で生まれたアメリカ式型紙は、学校現場でそのままの形で長く使用されることはなかった。だが製作の時間短縮と簡便化を図り、手引書によって完成するまで導く、という被服教育改革の理念と方向を明示したことは評価したい。
  • 渡瀬 典子
    セッションID: A4-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】1990年代以降、様々な国の教育政策の中で、実際の生活の中に存在する諸問題の解決力育成がより重視されるようになってきた。しかし、問題解決アプローチによる学習は、問題の所在が個々人で異なるのは勿論のこと、時代、空間的範域(地域社会)の条件でも違いが生じることから、普遍的・系統的な教科内容の構想には多大な困難が生じる。家庭科教育は教科成立当時から教科の特徴に問題解決アプローチが掲げられてきた。しかし、このことは学習者に現実的な学びの機会を提供することと同時に、系統的な学びの蓄積を生徒ができるための工夫を教師側に求められてきたと考えられる。 そこで、本報告では「普遍的な教科内容」の分析に寄与するものの一つとして、教科書の「索引」に注目した。とくに、高等学校段階の「家庭一般」、「家庭総合」の索引項目に取り上げられる索引項目の構成及び掲載語彙の変化について、学習内容項目の時代的特徴、索引利用において想定される用途等から明らかにする。「索引利用」の検討では、家庭科の学習方法のひとつである「問題解決アプローチ」の現れについて考察する。なお、本研究における索引項目の扱いを「(教科書製作者が)教科書に登場する語彙中、授業内外で生徒に活用される機会があり、学習内容のエッセンスを示すと捉えたもの」とした。【方法】1956(昭和31)年の学習指導要領改訂施行以降に使用された「家庭一般」及び「家庭総合」の教科書を分析対象とする。「家庭総合」を対象としたのは、「家庭一般」と単位数が同じであり、最も「家庭一般」の内容系統に近い科目だからである。これらの科目の教科書のうち、(1)継続的に(各学習指導要領改訂時に)「家庭一般」、「家庭総合」の教科書を発行、(2)教科書のシェア率が高い、という2つの条件にあった4社発行分をとりあげる。分析にあたり、入手できた69冊(「家庭一般」59冊、「家庭総合」10冊)の索引項目を6つの時期(学習指導要領改訂施行時期、「家庭一般」:第1―第5期、「家庭総合」:第6期)にわけ、12種類の内容カテゴリーに分類し、分析する。分析対象の語彙数は、約17,000語(のべ数)であり、1冊あたりの最少掲載数は140語(第3期)、最大掲載数は448語(第6期)だった。【結果】いずれの期においても、「食生活」に関する語彙が最も多く2―3割を占めた。第3期(1973―1981年)までは、「高齢者・福祉」、「環境」に関する語彙がとても少なかったが、第4期(1982―1993年)以降の索引には、これらの内容カテゴリーに該当する語彙掲載が増加した。「食生活」分野に次いで多かったのは、「家庭一般」の時代では「衣生活」分野(第2―第5期)で、「家庭総合」になった第6期では「保育」に関する語彙が2番目に多かった。索引項目に掲載される語彙は、教科書改訂に伴い語句の部分修正や入れ替えが3割程度されていた。 掲載された索引項目において想定される利用用途には、(1)言葉の「意味を覚えて使う」あるいは「意味を確認する」ことを目的とした語彙(例:「栄養素」、「可処分所得」など)の割合が最も多い。これは、他教科における索引項目の活用方法と同様で、一般的な利用用途といえる。そのほか、(2)対象の特徴について考え、まとめる学習活動で活用可能な語彙・語句(例:「乳児の身体の発育」、「衣料用繊維の主な物理的性質」など)が挙げられる。これは、とくに第2―第4期で多く見られた。また、全ての時期を通して、(3)問題解決アプローチに展開可能な課題内容(例:第2期「家事労働の能率化」、第4期「塵芥処理」、第6期「持続可能な発展」など)が索引項目に挙げられている。これらは索引項目の利用用途(1)以外に、課題設定の際にも活用可能と考えられる。
  • 山田 美砂子, 鈴木 敏子
    セッションID: A4-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【研究の目的】
      2009年に改訂された高等学校学習指導要領における各学科に共通する教科「家庭」に設定された3科目(家庭基礎、家庭総合、生活デザイン)には、指導内容に「共に支え合って生活する(生きる)」という「共生社会」の小項目がたてられた。現行(1999年版)の高等学校普通教科「家庭」では、「少子高齢化等への対応を考慮」した改善の基本方針のもとで、高齢者の生活と福祉や、保育と福祉のように「福祉」を重視して改善が図られていたが、2009年版では、子どもや高齢者だけではなく、さらに障害のある人など「様々な人々に対する理解」へ対象を広げている。「共生社会」という言葉は、わが国でも1990年代に散見されるようになり、2001年の中央省庁等の再編において内閣府に共生社会政策統括官が置かれた。「障害者基本法」に基づいて2002年12月に策定された「障害者基本計画」には、「21世紀に我が国が目指すべき社会は、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会とする必要がある」と明記されている。2003年12月に内閣府に設置された「共生社会形成促進のための政策研究会」では、共生社会形成の意義を十分に認めながらもまだその概念が明確ではなく、今後の研究が必要であることが述べられている。では、高等学校の共通教科「家庭」において、「共生社会」をどのようにとらえていったらよいであろうか。家庭科の中で「共生社会」が位置づいた背景をたどり、併せて家庭科の授業実践上の課題を探っていきたい。
    【研究方法】
    1.「共生社会」の用語が、社会の中でどのように使われるようになったかを調べる。
    2.2009年版の高等学校学習指導要領の共通教科「家庭」に、「福祉」に加えて「共生社会」が加えられた背景を分析する。
    3.高校生や大学生の「福祉観」を調査する。
    【研究結果】
    1.「共生社会」の用語は、政府の施策や中学校の公民などをはじめ、障害者施策の中で多く見られた。2007年度より実施された「特別支援教育」では、「共生社会」の実現が理念に掲げられている。2002年に策定された「障害者基本計画」でも「共生社会」について述べられている他、それに基づく「重点施策実施5か年計画(後期)」では、特に20代の若者の「共生社会」の周知度が26.7%(2007年度調査)と低いことを指摘し、2012年には若者も全体も50%に引き上げるという具体的な数値目標を掲げている。
    2.高等学校教育課程における家庭科の変遷では、少子高齢化や様々な家族問題への対応が要請されてきた状況が見られた。1999年改訂の高等学校学習指導要領では専門教科「福祉」ができ、普通教科「家庭」の目標が大きく変わり、急速な高齢社会に対応し、生涯を見通した人生設計と奉仕活動の奨励が期待されている。2009年改訂の指導要領に入った「共生社会」は、障害者施策や社会の動向と関連し、これまで家庭科で扱われてきた子どもや高齢者に、障害者が新たに加えられた内容になっている。これは、急速な高齢化や社会状況の悪化の中で、これまでの家族を中心とした生活の支え合いではなく、年齢や障害の有無にかかわらず、新たな人々の関係性の構築が家庭科教育に求められているといえる。
    3.高校生や大学生の「福祉観」の調査では、「福祉」を「優しさ、思いやり」など心情的な側面だけで捉えたり、あるいはボランティ活動など誰か社会的に弱い立場の人たちを「助ける」行為と捉える傾向が多くみられた。この傾向から、多様な人々が共に支え合って生活していくという「共生社会」の構想には多くの課題があることが明確となった。人が生きていく基盤としての「生活」を題材とする家庭科教育において、改めて「基本的人権」を見据えた家庭科の授業実践の構築が求められていることが明らかとなった。




  • 大学入試センター試験問題とのかかわりから
    大原 弘子, 赤塚 朋子
    セッションID: A4-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    <目的>

    進学校と言われる高等学校の場合は特に顕著な「受験教科でない」家庭科の時間の位置づけは問題である。いわゆる主要5教科以外と位置付けられ、時間数が確保されることも危うく、家庭基礎2単位の履修が多くなっている。しかし、本当に、家庭科という教科は「受験に関係ない」のであろうか。「受験に関係ある教科」としたいわけではないが、なぜ高等学校の教育課程において、家庭科が蔑ろにされるのだろうか。こうした疑問から、本研究では、大学入試センター試験問題と家庭科のかかわりを探ることで、家庭科という教科の高等学校での位置づけを再検討し、提案することを目的とした。

     <方法>

    2012年1月14、15日に実施された大学入試センター試験問題のうち、国語、地理歴史、公民、数学、理科、外国語の各教科のうち、1000人以上の受験者があった24科目の問題を対象とし、高等学校家庭科教科書との関係に注目して、キーワード検索を行い、分析検討した。

    教科書は、栃木県の履修率が65.9%(「高等学校家庭科の履修単位数をめぐる現状と課題」日本家庭科教育学会誌 第54巻第3号)を占める「家庭基礎」を用い、教科書出版社の教育図書、大修館、実教出版、開隆堂、東京書籍、第一学習社の各社1冊ずつの計6冊を対象とした。

     <結果>

    「大学入試センター試験は、大学(短期大学を含む。以下同じ。)に入学を志願する者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定することを主たる目的とするもの」であり、「大学教育を受けるにふさわしい能力・適性等を多面的に判定することに資するために実施するもの」(大学入試センターホームページ、センター試験の概要より)である。つまり、センター試験問題は、高等学校段階における基礎学力をはかる手段と言える。

    今年のセンター試験参加大学数は835大学で、内訳は、国立大82、公立大79、私立大513、公立短大16、私立短大145であった。受験生は、526,311人、現役志願率は41.5%となっている(2012年度大学入試センター試験実施結果の概要)。

    実際に、センター試験問題と家庭科教科書を照らし合わせてみたところ、家庭科の学びが、24科目のうち12科目と関係があり、センター試験問題を解く際には、かなりの頻度で思考の助けになっていることが明らかとなった。 たとえば、防虫剤の昇華、漂白剤の酸化・還元、石鹸水の乳化・分散作用を理解していれば解ける化学1の問題や、食品ロス、フェアトレード、トレーサビリティ、食糧自給率の理解で解ける現代社会の問題があった。

    試験問題に関係するキーワードを、教科書の該当ページに領域別に色分けした付箋で貼っていく作業を行った。各社の教科書の編集方針によって、その違いはあるものの、概ねどの教科書にも領域別に色分けした付箋が貼られた。また、それらの教科書を見た教員、ならびに生徒の反響は大きかった。教員にも生徒にも、そして家庭科以外の教員にも、関係が深いことを知ってもらうことで、家庭科に対する印象がかわることを示唆している。

    高等学校家庭科の現状は、「家庭基礎」2単位履修を選択する傾向も否めず、高等学校の1学年のみの時間数という厳しさもみられる。教員配置も各学校に1名のところが多く、「受験に関係ない」教科という意識が大多数の学校では、家庭科の学びの意識そのものが停滞する雰囲気が学校全体を覆っているといわざるをえない。しかし、本研究の結果をふまえ、家庭科の学びが、高等学校の基礎学力の総体というシチズンシップ教育と関連が深く、「受験に役立つ内容」もあり、「将来の多様な選択肢を提示し、その土台をつくり、踏み出す1歩を支える教科」という位置づけを提案したい。
  • -教員調査による比較-
    池﨑 喜美惠
    セッションID: A4-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】
     世界51ヶ国・地域には88校の日本人学校が設置されており、日本国内の小・中学校と同等の教育を受けることを目的とした全日制の学校である。海外に在留する子どもたちの教育機関として、日本人学校は重要な役割を果たしている。本研究では、日本人学校の家庭科教育の現状がどのように変容しているか、2006年及び2010年に日本人学校の家庭科担当教員に調査した結果をもとに経年変化を検討した。そして、日本人学校の中学部の家庭科を指導する教員の属性や指導意識・方法の実態を考察し、今後の課題を明らかにすることを目的とした。
    【方法】
     2006(平成18)年6月及び2010(平成22)年11月、全世界の日本人学校88校へ調査票を送付し、回答を依頼した。前回調査(2006年調査の有効回収率は47.7%)の42校、今回調査(2010年調査の有効回収率は52.3%)の46校の中学部の調査票を分析対象とした。分析内容は、1)家庭科担当者の属性、2)家庭科の教育環境、3)家庭科の指導方法、4)現地理解教育の観点からの指導例、5)家庭科指導上の問題点など である。
    【結果及び考察】
     1)家庭科を指導する教員構成は、2006年調査も2010年調査も専任教員1名が約6割強、非常勤教員1名が約2割であり、女性教員が約7割を占め、ほぼ同様の傾向であった。しかし、年齢構成では2010年調査では20歳代の教員が多く、小・中学部を同一教員が指導する割合が増加した。また、家庭科の教員免許を所有する教員は25%と増加し、教育系出身者が約51%と増加したが、家庭科を専門的に学んでいない教員が、日本人学校の家庭科を指導しているという現状には変化がなく教員配置に課題が見出された。
     2)2010年調査では、複式学級で家庭科を指導しているケースが約41%であった。施設・設備の充足については、2010年調査では、「十分備わっている」が18.2%、「不足している」が20.5%であった。2006年調査より、施設・設備の充足率は進んでいるが、現状は両極化していることが判明した。また、文部科学省から給与されている家庭科の教科書を常時使用する教員は、やや減少してきた。そして、記述内容が現地の実情に適合していないために、使用しないという教員もいた。2010年調査では、生徒の家庭科への関心を「とてもある」と51.2%の教員が評価し、授業態度を「とても積極的」と52.3%が評価していた。2006年調査より、1割以上多い教員が家庭科に対する生徒の関心度や授業態度を高く評価していた。
     3)家庭科の指導方法として、「教科書を使用して講義」「実習を導入」をあげた教員が多いことには変化がなかった。しかし、「スライドやVTRを視聴」及び「現地にあった内容を導入」を列挙した教員が増加した一方、「家庭実践」や「調べ学習・発表」をあげた教員が減少した。このことから、定型化した指導方法と時代や現状にあった指導方法が混在しており、教員の指導の工夫が垣間見られた。
     4)海外で暮らす子どもたちにとって、現地の日常生活は家庭科の学習とリンクしていなければならない。家庭科での現地理解教育に関する指導例として、次のような実践例があげられた。調理実習では現地の材料を使用したり、現地の織物を糸から織りあげたりなど、現地のものに依拠した学習題材を利用していた。また、現地校との交流や校外学習を活用して、習慣やマナーについて扱ったり、衣類の取り扱い表示について日本とヨーロッパの表示を併記して教えたりしていた。さらに、家庭科にイマージョンを取り入れたり、仏語でお菓子作りの調理実習を行うなど、現地語を使用した家庭科の学習により、現地生活への適応を配慮していた。 
     5)家庭科指導上の問題点として、両調査とも「教員の専門性の欠如」を半数以上の教員が列挙していた。しかし、「教科書にそって進めるとギャップがでてしまう」「教材不足」「被服製作の材料不足」「授業時間数の不足」などの問題点を列挙する教員は減少した。 以上のことをふまえると、日本人学校の家庭科指導には、教員配置の問題は顕在化しているが、施設・設備や実習教材の入手などは情報化の進展により改善されてきていることが明らかとなった。
  • 村上 由季, 池﨑 喜美惠
    セッションID: A4-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】
     日本人学校では日本国内の公立小・中学校と同等の教育がおこなわれている。しかし、様々な理由から日本国内と現地との環境には差が多く、教科書の記述と学習環境の不一致が生じることが予想される。本研究では、そのような状況下で、日本人学校ではどのような家庭科教育がおこなわれているのかを明らかにし、今後の日本人学校における家庭科教育の指導の在り方について検討、提言することを目的とした。
    【方法】
     2010年11月~2011年1月にかけてアンケート調査を実施した。日本人学校88校に質問紙を郵送し、家庭科の授業を担当している教師に記入を依頼し返送してもらった。本報告では、調査協力を得られた48校の小学部の家庭科担当教師の調査票を分析対象とした。主な調査内容は、次のとおりである。1)家庭科担当者の属性、2)家庭科のカリキュラム、3)家庭科の教育環境、4)家庭科の指導方法、5)指導上の問題点や要望
    【結果及び考察】
     1)日本人学校小学部で家庭科を担当している教師のうち、家庭科を専門として学んだ教師は10.2%であり、専門外の教師が指導していた。また、日本人学校での家庭科指導年数は1~2年が67%と最も多く、派遣教員が全体の55%を占めていた。このことから、日本人学校では安定した人員配置をすることが難しい状況にあるということが明らかとなった。
     2)家庭科の授業時数に関しては、複式学級であるなどの理由から学校毎に多少のばらつきは見られたものの、多くが学習指導要領に定められた時数で授業を行っていた。複式学級の組み合わせは多様であるが、中には小学第5学年~中学第3学年までという組み合わせで授業をしている学校もあり、通常の家庭科指導を日本人学校で行うことの難しさの一因はここにもあると思った。また、現地理解教育の一環として、ペルー料理や韓国料理等の現地料理や、グアテマラ織りなどの題材を取り入れて、日本の教科書に準拠しながら実習を指導している場合が多かった。
      3)小学部の家庭科室の保有率は85.7%であり、そのうち18.4%が理科室や他教室と併用していた。しかし、施設・設備については45%の教員が不足を感じていた。教科書について、家庭科担当教員の85.7%が使用しているものの、日本国内と海外では家庭科の基盤となる生活そのものに違いがあるため、実際は教科書どおりに授業をすることが難しいことも日本人学校の課題であることが教師の自由記述から読みとれた。
     4)家庭科の指導方法の一つとして、現地理解教育を行っている学校が57.1%と多いことが、日本人学校の特色といえた。家庭科をイマージョン・プログラムの一環として英語で授業を行っている学校も少数派ではあるものの、増えてきていた。そして、現地理解教育では、実体験をとおしてその土地の習慣や生活の仕方を知り、学んでいくため、9割以上の教師が調理実習や被服実習などをまじえて指導していた。
     5)家庭科を指導する上で、教員の家庭科免許の有無や海外にあるという日本人学校の立地条件が問題の要因となっている。例えば、調理実習においては、地域によって日本の食材がそろわなかったり、現地の食材には衛生面で問題があったりする。また被服実習においては、日本から製作キットを取り寄せると輸入という形になるため、予算の都合上困難であるとの記述が見られた。
    【提言】
     本調査を考察した結果、ほとんどの教師が家庭科を専門としない中で、現地の環境や状況を受け入れ、工夫して指導していた。そこで、日本人学校が抱える共通の問題、例えば複式学級、現地理解教育、さらには実習材料の問題など、多くの問題を教師間で共有できる場を作ることが、家庭科を専門としない教師たちの指導における不安を軽減することになるのではないかと考える。また、日本人学校出身の児童・生徒の側から見た日本人学校での家庭科の学習経験を調査し現状を精査することにより、よりよいあり方を模索することができるのではないかと考える。
  • 田中 宏子
    セッションID: A4-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】内閣府の有識者会議は、東海・東南海・南海地震が今世紀前半にM9として発生すると想定している。さらに、日本全国には約2,000に上る活断層があると言われており、それらの活断層の中にはM7クラスの地震をもたらすものが確認されている。大規模地震発生の切迫性が高まっている中、生徒たちも自分や家族の命は自分たちで守るという重要性を強く自覚し、その実効性が今緊急に求められている。先の東日本大震災では津波防災教育を受けていた岩手県釜石市の子ども達の多くが生き残った。津波防災教育の有効性が確認されたが、これらは地震発生時の津波を主としたものである。本研究は地震災害全体を取り上げ、山崎1)が提案する、教科を主軸とする減災教育カリキュラムの理論に基づき、地震災害という非常時に生徒が即時に有効に対応できる家庭科授業の開発と強化を目的とする。
    【方法】まず、学習指導要領の中に分散している減災の要素を全て拾い集めて整理し、児童・生徒の発達段階を考慮しながら、家庭科授業に於ける地震災害対応授業の内容とそのねらいを明らかにした。次に2009年11月に滋賀県公立の小学校90校と中学校40校の教諭と2011年7月に開催された滋賀県学校安全研修会防災教育指導者研修に参加した教諭を対象として、減災教育に関する調査を実施した。以上を踏まえ、既往の防災・減災教育に関する実践報告を参考にしながら、家庭科教育に於ける地震災害対応授業案を作成し、その一部の実践を試みた。
    【結果及び考察】
    1. 教科の中に組み込む地震災害に関する学習
     2009年の調査では、小学校で約4割、中学校で約5割の教室で大型備品の転倒・落下防止対策がなされていなかった。中学校においては自然災害の内容を含まない教科を担当する教諭は備災行動が遅れがちであり、教諭の担当教科と対策の間に関連がみられた。学校の減災を推進するには、全ての教科に災害に関する学習を組み込むことが有効であると考えた。そこで災害に関わる学習を、どの学年の何の教科で、どのような内容でできるかを自由記述で教諭に尋ねたところ、2009年、2011年の調査とも、どの教科においても授業案がだされ、全教科に災害教育を組み込むことができることを確認した。家庭科はその特性から、学校の災害対応力を強化するための先導的役割を果たしていきたい。
    2.東日本大震災を経ての災害教育の変化
     2009年と2011年の調査から得た授業案を精査した結果、震災前と震災後で、生徒自身が自分で対応方法を「考える」指導方法をとる授業案が25.2%から55.6%へと増加した(p<0.001)。そこで地震災害対応授業では、生徒自身が自分で対応方法を「考える」ことを重視した。
    3.災害状況のイメージ
     2009年の調査より、被災地に赴いての体験が減災行動に影響することを確認した。従って全ての教職員、児童・生徒が被災地を訪れることが望ましいが、時間的、空間的、経済的制約がある。また、女性教諭は現地に赴く比率が低いという性差もみられた。そこで現地体験が困難な場合、災害状況を感性で捉えて実体化するために映像による疑似体験を地震災害対応授業に導入した。
    4.家庭科授業案
     災害時に対応できる冷静で俊敏な行動性を高める避難訓練授業をベースに、非常持ち出しベストのポケットに入れる物、家族災害計画、家庭にある危険要素、地震に強い家や地盤、地域の危険、エネルギー依存型のライフスタイルを考える授業などを作成した。これらの授業は宿題を通じて家庭と協働し、生徒自身に加え、家族や地域住民の減災に対する意識や行動を促すことをねらいとする。
    1)  山﨑古都子、田中宏子:滋賀県における巨大自然災害にともなうリスクについての総合的研究、滋賀大学教育研究プロジェクトセンター報告書、2010.
  • 入江 和夫, 松本 裕美子
    セッションID: A4-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    1. 研究目的 2011年3月11日に三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の東日本大地震が起こった。巨大な津波によって,石巻市立大川小学校の全校児童の約7割が亡くなる一方,岩手県釜石市では,3000人近い小中学生のほとんどが無事に避難した。背景には,三陸地方の言い伝え「津波てんでんこ」(自分の責任で早く高台に逃げろの意味)に基づいた防災教育があると言われている。家庭科における防災教育では鳥井ら,佐々木らなどの先行研究があり、これらは主に「住生活」における授業構想や指導内容の提案を扱っていた。ここでは家庭科教育及び環境教育などによって育まれる要素を考え、これらが「防災対応力」とどのように関わり、要因となるのかを明らかにすることにした。  2. 研究方法  対象者は国立Y大学の共通教育「生活科学」(大学1年用)の受講者233名であり、授業中に質問紙を配布して、回収した。調査時期は2011年7月であり、統計分析はSPSS(ver.12)及びAMOS(ver.18)を用いた。  3. 結果および考察    (1) 防災意識に関わると考えた要素について因子分析を行った。ネーミングは「家族力」、「規範意識」、「自然体験」、学習観として(=「学習の工夫志向」「学習環境志向」「学習量志向」)、「環境問題の理解意欲」、自然観・科学観として(=「人知を超えた自然観」「寛大な自然観」「未来を築く科学観」)、「節電意識」、災害心理として(=「用意周到志向」「非同調志向」)、防災対応力として(=「家庭内防災対応力」「社会的防災対応力」)とした。下位尺度得点(平均値)が高い項目数は女子>男子であった。    (2) 「防災対応力」を高める要因について   「防災対応力」は「家庭内防災対応力」、「社会的災害抑止・軽減力」の2因子から構成されていた。これらが他の因子と,どのように関わるか、「家族力」を基盤にした仮説モデルをAMOSによって分析した。   (2)-1-1「家庭内防災対応力」を高めるモデル  「家庭内防災対応力」は「防災についての家族の役割を決めようと思う」などから構成されている。これを高める仮説モデルについて直接効果(標準化)で見ると、「家族力」は「家庭内防災対応力」を高める直接の要因とはならなかったが、「学習の工夫」「規範意識」「自然体験」を高め、これらのいくつかが「環境問題の理解意欲」「節電意識」を高めることを通して、目的とする「家庭内防災対応力」を高めていた。このモデルはカイ二乗値が有意でないこと,GFI=0.987,AGFI=0.961,CFI=0.998が1に近いこと,RMSEA=0.021で0.05以下であることから妥当性があった。   (2)-1-2 「家族力」の差を媒介する要因   「家庭内防災対応力」における「家族力」の差を媒介する要因を明らかにするために2要因の分散分析を行った。交互作用が有意だったものについて述べると、災害心理因子「非同調志向」低位群では「家族力」低→高による「家庭内防災対応力」の平均値は(3.107→3.059)でほとんど、「家族力」効果はないが、「非同調志向」高位群でのそれは(2.908→3.467)であり、「家族力」によって「家庭内防災対応力」が著しく高まった。  (2)-2「社会的災害抑止・軽減力」の要因  この因子は「社会貢献したいと思う」などから構成されている。「社会的災害抑止・軽減力」を高める項目として(2)-1に加えて、新たに「人智を超えた自然観」「用意周到志向」が加わった。この仮説モデルはカイ二乗値が有意でないこと,GFI=0.987,AGFI=0.961,CFI=1.000,RMSEA=0.000であることから妥当性があった。
  • 前田 英雄, 速水 多佳子
    セッションID: B1-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【目的】食に関する情報が氾濫する中で、食生活については、栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加、食の安全に関する問題等が指摘されており、食育の推進が求められている。学校教育においても、新学習指導要領の総則の中で、「学校における食育の推進」が明確に位置付けられた。従前から食生活に関する学習を扱ってきている家庭科においても、小学校・中学校・高等学校で内容の充実が図られている。食生活に関する学習の中で、栄養素の種類と働きについては、基礎的・基本的な内容であり、すべての学校種で学習する。五大栄養素の中の無機質は、体の構成や生理作用の調節に欠かせない栄養素であるが、体内で合成することができず、食事によって体内に取り入れる必要がある。しかし、無機質は食品に微量にしか含まれていないため、どの食品に多く含まれているかを実感することはできず、無機質そのものを視覚的に認識することができない。無機質の中でも日本人に不足しがちなのは、カルシウムと鉄であり、青少年期には多く摂取する必要がある。そこで本研究では、無機質をより理解しやすくすることを目的として、無機質の不燃性と鉄の強磁性に着目して食品に含まれる鉄分の可視化を試み、教材化への可能性について検討した。
    【方法】鉄分を可視化することを目的とした教材開発として、まず、食品成分表を参考に、鉄分を多く含む食品を選んで灰化し、ネオジウム磁石との付着実験を行った。そして、灰化した食品に鉄分が含まれているということを確認するために、鉄分析用試験紙とFe C-テストコワー(Nitroso-PSAP直接法)による分光光度計を用いて灰中の鉄分の有無と濃度を測定し、食品成分表と比較した。
     次に、鉄分を可視化する実験を取り入れた授業案を作成し、徳島県N中学校2年生の選択家庭を履修している女子生徒12名を対象として授業実践を行った。授業は、調理実習も含めて2時間の連続授業を3回、合計6時間実施した。3回の授業内容は、(1)食品に含まれる鉄の働きと欠乏症、(2)鉄分を多く摂取する献立の調理実習の計画、(3)調理実習とまとめ、であった。鉄分の可視化に関する実験は、1回目の授業時に実施した。授業の前後にアンケート調査を実施し、鉄分の可視化を取り入れた栄養素の学習の可能性について検討した。
    【結果】鉄分を含む食品の灰は、ネオジウム磁石に付着した。磁石に付着する灰の量は、鉄分含有量や食品の燃焼時間の違い、灰の大きさ、食品の産地により異なった。また、食品の灰中に鉄分が含まれていることを確認するために、分析用試験紙と分光光度計を用いて鉄濃度を定量したところ、灰中の鉄濃度は、食品成分表に記載されているものに近い値を示す食品が多いことがわかった。以上の実験結果から、食品を灰化し、ネオジウム磁石に付着させることは、食品に含まれる鉄分を可視化できる方法であると判断できた。
     授業実践前後のアンケートで、鉄分が多く含まれている食品を書かせたところ、事前では、レバー、ほうれん草の記述または無記入しかなかったが、事後では、記述された食品数が増加した。これは、授業内で灰化した食品がネオジウム磁石に付着するところを見せたために、食品の中に鉄分が含まれていることを視覚的に認知することができ、実感することができたためと考えられる。また、毎日の食事で気をつけたいことを自由記述で書かせたところ、事前ではバランスよく食べる、朝ごはんを食べる等の記述が多かったが、事後では鉄分を多くとるように、中学生の女子は特に鉄が多く入っている食品を食べるように工夫する等、年代に応じた栄養の特徴についての記述が見られた。今後の課題としては、食品の灰は小さく細かいため、一斉授業の際には工夫が必要であること、灰化するには、食品を長時間燃やすため、視聴覚機器等の活用の工夫が必要であること等があげられる。
  • 家庭科教育におけるニューロリハビリテーション
    長山 知由理
    セッションID: B1-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    1.はじめに<BR>  
    食領域の授業で脊髄損傷や脳卒中だけでなく,神経の損傷であるため合併して起こるアルツハイマー病についても取り扱う.実技面における成果としては,ジョギングを家庭科の授業に取り入れることで体育的行事との連携を図れたことだろう.<BR>  
    また脳卒中は循環器系の疾患でもあるため、生活習慣病ともされている.このことに,調理における『栄養学』の課題を見出した.アルツハイマー病は青魚や野菜・果物(フラボノイドを含むもの)の多い料理で予防されるので,その一品料理を実習することを提案したい.歩行トレーニングにより身体機能が向上すると,神経のバランスが良くなる.移動手段を工夫するとそれだけでなく,脳の血行を良くしていくことにも繋がる.<BR><BR>  
    2.目的<BR>  
    PDAによる記憶支援についても理解させながら,食領域の授業作りをしてみた.更に高次脳機能障害はSchizophereniaとも言われるので,これらを総称して食生活における歩行トレーニングの評価方法について,MAXIMAを用いた授業開発をする.<BR><BR>  
    3.方法<BR>  
    保育領域では,可塑性による幼児の成長について身に付けさせる.そして非侵襲・無拘束な方法であり,幼児にとっても安全なデバイスとして光トポグラフィーを紹介する.このような保育の領域では,視覚や聴覚といった感覚機能を中心に据えることになる.本稿ではニューロリハビリについて,アルツハイマー病やパーキンソン病の予防を目的とした食生活として指導することにした.<BR><BR>  
    4.結果<BR>  
    運動機能の改善を定量的に知る方法は食習慣へも応用できて,パラメトリック・モデリングを使える.パラメトリック・モデリングとは,MAXIMAなどのソフトウェアを用いた解析方法のことである.今まで栄養バランスに目を向けて,栄養価の計算をした上での献立作成の調理実習がメインだったように感じている.しかし歩行トレーニングにおいて,両テーマの方向性は合致しているように考えた.<BR>   
    排気ガスを減らすために,石油(ガソリン)などの燃料による移動手段ではなく,なるべく歩くようにする.ジョギングであれば資源も必要ないし,大気も汚さない.近年では人々の健康意識は高まり,個人で手軽にできる能動運動が注目されている.ジョギングは時間・場所を選ばないだけでなく,VR(Virtual Reality)を利用したトレーニングも可能になっている.ここでは,澄んだ大気の社会への第一歩として,ジョギングを提案することにする.<BR><BR>  
    5.考察<BR>  
    ジョギングによる歩行トレーニングについて,発問を促しながら進める.関節トルク(受動運動前)→筋電図(受動運動中)→関節トルク(受動運動後)により,痙性の評価をできる.受動運動により筋電図の電位は減少していくので,MASやFAMのようにMAXIMAによる定量評価は麻痺を持った人々の診断に有用である.<BR>  
    また受動運動に対して能動運動は,麻痺を持った人々の治療に有用だということが判っている<SUP>1)</SUP>.能動運動の代表は,やはりジョギングだろう.筋電図には,サイレント・ピリオドの違う伸張反射が現れる.脊髄を経由する短潜時反射と,脳を経由する長潜時反射である.長潜時反射は,歩行機能の回復に役立っている.<BR><BR>  
    6.まとめ<BR>  
    VRのように他人を意識した健康管理ツールも開発されて,食生活への関心は高まっている.その中で神経性疾患のことを食領域で取り扱えたら,QRコードによるトレーサビリティという点からも興味深い.<BR><BR>    
    文献<BR> 1)V. Dietz <I>et al.</I> Brain 1993, 116, 971 --- 989 
  • 佐藤 文子, 内野 紀子, 庄司 佳子
    セッションID: B1-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    ≪研究目的≫ 
     家庭科教育では「主体的な生活を創造する」能力育成をめざしている。そのために、生活のあらゆる場面において適切な価値判断と意思決定できる能力が必要である。適切な価値判断力、意思決定能力がなければ、他を配慮しつつ持続可能な社会を形成する自立した生活者にはなりえない。 本研究者らは、食生活における調理学習が、意思決定能力を促進することを今までの研究により明らかにしてきた。その研究においては、意思決定能力が形成され促進されることを客観的に明らかにすることを試み、脳機能の発達との関連について着目した。学習と脳機能の発達の関連性において、この意思決定能力のような総合性を要する能力は、Working memory といわれている。意思決定においてはWorking memoryの役目は大きく、これは今まで習った能力を総合させ、価値判断をして行動に移すという総合的な高次脳機能に属する。本研究では、このWorking memory との関連から、調理学習における総合的な能力育成の場面として、特に今までの知識・技術を総合させ、最も適切な判断・決定のもとに行なわれている献立及び調理実習時における「段取り」に焦点を当てて追究することを試みた。 意思決定能力は、全ての人に必要な能力である。通常の児童・生徒に限らず、特別な支援を必要とする児童・生徒も例外ではなく、多様性を十分に踏まえて育成する必要がある。この特別な支援を必要とする児童・生徒を対象とした家庭科教育における意思決定能力に関わる先行研究は現在までのところ少なく、今後追究されることが求められている。本研究者らは、高校生、大学生の調理学習時における意思決定能力に関わる研究結果を報告してきたが、今回は小・中学生に視点を当て、発達段階を追って系統的に意思決定能力形成を検討することを試みた。
     そこで本研究の目的は、調理学習時の献立及び段取りに着目して、通常及び特別な支援を必要とする児童・生徒における意思決定能力の実態を明らかにすることである。
     
    ≪研究方法≫ 
     調査対象は、公立小学校・中学校における通常及び特別な支援を必要とする児童・生徒、である。特別な支援を必要とする児童・生徒は、特別支援学級(知的・自閉情緒)に属している。調査期間は、2011年9月~2012年2月、調査方法は、通常の児童・生徒においては質問紙留置法、特別な支援を必要とする児童・生徒は個別によるインタビュー調査であった。

     ≪研究結果≫
    1.調理における段取りについて 調理において、材料を洗う、切る、加熱する、盛り付け等の各部分の手順は学習効果が定着しているが、全体を見通して総合的・効率的に意思決定していく段取りについては学習効果が認められなかった。具体的には、出来あがって最も適切な食べる状態をイメージして、時間や調理手順を段取りすることができにくいことが明らかとなった。
    2.献立作成について 実践課題において、家族の好みや自分の調理技術を考えて献立を立てるという意思決定プロセス「資源の点検・情報の収集」のステップでは学習効果が認められた。一方、複数の献立を考え、その献立と自分一人の調理技術との関連を考える等の意思決定プロセス「複数の方法を考え、それぞれの成り行きを比較考量する」のステップは、学習効果が低いことが明らかとなった。
    3.特別な支援を必要とする児童・生徒の調理実習における意思決定能力について 調理における意思決定プロセスに関する項目のうち、「資源の点検・情報の収集」において、通常の児童・生徒に比べて、特別な支援を必要とする児童・生徒の正答率が低いことが認められた。これは、本研究者らが行なった調査から、実際の特別支援学級の授業実践では、児童・生徒に情報を収集させたり、選択させたりするという授業場面が極めて少なかったという結果と符合する。特別な支援を必要とする児童・生徒の意思決定能力の学習効果については、どの程度まで定着しているのか等不明の部分が多い結果となった。今後は、具体的な授業実践を通して事例を積み重ね、学習効果が個別的にどこまで定着しているかを明らかにしていく必要がある。
  • :小学校2年生・調理実習の学習記録から
    河村 美穂
    セッションID: B1-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    研究目的:家庭科の思い出として語られることの多い調理実習では多様な学びが展開されている。また、調理実習は子どもがよろこび手ごたえのある授業、生活と関連しやすい授業と多くの家庭科担当教師に捉えられている。近年、調理実習において学習者が何をどのように学んでいるのかということを、教育的な営みとしてとらえる研究が行われている。そもそも調理実習は実践的で体験的であるからこそ学びが多いとされてきた。しかし、実際に調理をやってみることについて、子どもたちがどう感じ、何を考えているのかは十分に明らかにされてはいない。具体的に調理を学ぶことによって、子どもたちはなにがわかったと感じているのであろうか。
     本研究では、以上のような問題意識から、小学校2年生において電子レンジ調理に関する一連の学習を行い、その中の調理実習において児童が書いた学習記録を分析対象として、子どもたちが調理という体験を通して理解したことを明らかにすることを目的とする。 

    研究方法
    :研究対象としたのは、小学校2年生の食育の授業(10時間扱い)-1)電子レンジ加熱した食品の試食 2)電子レンジの機能に関する理解 3)キャベツのおひたしをつくる 4)ポテトサラダをつくる 5)電子レンジをもっと知る調べ学習 6)電子レンジ調理に関する研究発表-のうち 3)キャベツのおひたしをつくる 4)ポテトサラダをつくる という2回の「電子レンジを用いた調理実習」である。これらの調理実習は、電子レンジを用いるほかは、包丁やキッチンバサミを用いずすべて手作業で行うよう設定した。授業はクラス担任と埼玉大学教育学部の学生により、TTで行った。
    対象クラスは、埼玉県T市立小学校2年生1クラス27名(男子16、女子11)である。
    実施時期は、2010年9月~11月である。
    対象授業においては、調理実習を行った後、または翌日に調理実習をふり返って学習の記録を児童本人に記入させた。内容は、調理をしてわかったこと、気をつけること、おもったこととした。この記録をデータとして、児童自身が調理を経験して何を学んだと考えたのかを分析した。

    結果と考察:
    今回検討対象とした電子レンジの調理は、技能の学習としては電子レンジを使うことが主となるため、電子レンジのしくみを科学的に理解できるような教材を用いて授業を行ったうえで、対象の調理実習を行った。そのため「ぶんしくん(水分子のこと)とマイクロハで水じょうきが出てきて・・・」といったようにマイクロ波によって食品中の水分があたたまるという概念的知識についての記述が見られた。
     一方で多く記述されたのは、やってみてわかったことである。具体的には「でんしれんじであたためるとさいしょよりすんごくこい色になりました。」「きゃべつがしなしなになってへってた。」といった見てわかることである。
     また、電子レンジにより加熱した食品やその容器が体感的に「あつい」という記述も多く見られた。この「あつい」という体感的な理解は、「めちゃくちゃあつい」「大やけどするほどあつい」「あつくてびっくりした」というようにあつさの感じ方や驚き具合が多様であることを物語る記述がみられた。
     さらに、「(ジャガイモが)あつあつのあいだにかわをむくこと」というように、調理の手順を概念的に理解している記述もあった。以上のことから、子どもたちは自分の言葉で調理することを理解していると言える。
  • 1970・80年代と比較して
    浅井 直美, 石井 克枝
    セッションID: B1-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    〈目的〉中学校の調理実習授業は、授業時間数の減少と子どもの実態の変化により困難な状況になっている。調理実習授業のあり方を検討するためには、中学生の調理に関する実態を明確にする必要がある。
       そこで、中学生の家庭生活における調理に関する経験はどのように変化してきたかを1970年代と1980年代の先行研究と比較をすることとした。1970年代は、食の外部化は少なかった時代であり、1980年代は、食の外部化率が急激に増加している時代である。この2つの年代と比較することで、食生活の変化が子どもの家庭生活における調理に関する実態にどのような影響を及ぼしたのかを明確にし、調理実習授業のあり方を検討する参考資料とする。
    〈方法〉2011年2月、東京都E区立M中学校、1・2年生計376名を対象に質問紙法による調査を実施した(回収率100%)。
       調査内容は、家庭生活状況、調理へのモチベーション、家庭における調理経験についてである。この結果を、清水(1973)(1974)(1977a) (1977b)、岡野,清水(1976) (1977)、田部井,仙波(1991)の調査研究結果と比較した。spssを用いて集計し、Χ2検定を行った。
    〈結果と考察〉中学生の家庭における調理の実態は、約30~40年前の小・中学生と比較して、大きく変化していることがわかった。
       まず、家庭での調理手伝い頻度と包丁使用頻度が大きく下がっていた。それに伴い、調理用具の認識についても下がっており、調理経験の有無によって差が認められた。しかし、おろし金、すりこぎ、落としぶたは、全体での認識が低く、調理経験の有無による差がなかった。これらは家庭で使用されなくなってきたことによると考えられた。
       家庭での調理の内容は、手伝いにおいては、小学校題材の内容が多いが、一人調理の場合は、食の多様化の影響を受け、様々な料理に挑戦していた。
       男女間の有意差は、調理に対するモチベーションや家庭での調理経験、食事に関する手伝いや包丁使用頻度にみられ、男子より女子が調理に対して意欲的で、家庭において調理や食事に関する活動を行っていた。学年が上がるほど男女差は広がっていたが、現代は1980年代ほど大きな差ではなかった。
       調理へのモチベーションが高く、家庭での一人調理の頻度が40年前と同じ程度であることから、現代の中学生は、調理の手伝いをしたくても家庭生活の中で調理をする場面が減少しているために、調理手伝い頻度や包丁使用頻度が下がっていると考えられた。
    〈引用文献〉
    岡野純,清水歌. (1976). 「食物」分野における児童の家庭生活の実態に関する研 究 (資料).家政学雑誌,27(6), 455-459.
    岡野純,清水歌. (1977). 「食物」分野における児童の家庭生活の実態に関する研 究: 6年生児童の調理作業について(資料). 家政学雑誌, 28(8), 577-581.
    清水歌. (1973). 家庭科教育と小学生の家庭生活の実態に関する研究(第1報) : 「家庭」分野について. 京都教育大學紀要.A, 人文・社会, 42, 69-95.
    清水歌. (1974). 家庭科教育と小学生の家庭生活の実態に関する研究(第3報) :  「調理」「裁縫」について.  京都教育大學紀要.A, 人文・社会, 44, 49-58.
    清水歌. (1977a). 「調理」に関する児童の知識・経験に関する研究(第1報) : 調理 作業について. 家政学雑誌, 28(1), 67-75.
    清水歌. (1977b). 「調理」に関する児童の知識・経験に関する研究 : 調理器具類 について. 京都教育大學紀要.A, 人文・社会, 51, 37-56.
    田部井恵美子,仙波圭子. (1991). 児童, 生徒の包丁の使用実態及び技能の変容. 日本家庭科教育学会誌, 34(1), 31-37.
  • -家庭科授業による影響-
    加賀 恵子, 諸岡 浩子
    セッションID: B1-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】食と環境についての意識は、我が国において近年高まってきているものの、行動へ結びついていないのが現状である。その背景として、食を取り巻く環境の問題は、家庭環境から地球環境規模の問題まで幅広いことが挙げられる。したがって、限られた授業時間の中で、生徒に何をどう教えていくか、体系的な家庭科の授業展開が必要とされる。本調査は、中学生およびその保護者の食と環境についての意識や行動の現状を把握したうえで、学校での授業による影響や家庭での影響との関連性について検討することを目的とした。そこで、生徒とその保護者に対して、食と環境に関する問題意識と行動についての質問紙調査を実施した。本報告では、本調査の中から、授業における環境配慮行動の変化の有無と消費行動との関係について取り上げ、その実態について報告する。
    【方法】調査は、A市内の中学校3校(公立2校、国立1校)の校長ならびに家庭科教諭に質問紙調査の協力を依頼した。調査協力の依頼が得られた3つの中学校それぞれの家庭科教員に調査の主旨説目が書かれた質問紙を郵送し、その質問紙を生徒とその保護者に配布してもらった。質問紙は、後日、中学校で一斉に回収してもらった。その結果、3つの中学校の生徒327人から回答を得た。調査期間は、2010年1月から3月であった。
    【結果】 学校で食や環境に関する授業を受けた後に、(食環境を配慮した)行動に変化があるかという質問に対して、「ある」が45%(144人)、「ない」が55%(175人)と答え、「ない」と答えた生徒の割合の方がやや多かった。また、食に関する消費行動10項目に対して、「いつも実行している。」、「だいたい実行している。」、「あまり実行していない。」、「まったく実行していない。」の4段階評価で評価してもらったところ、「いつも実行している・だいたい実行している」を合わせ、実行していると答えた生徒の数が半数を超えた消費行動項目は、「買い物には、買い物かごやエコバックを持っていく」(248人)、「詰め替え容器に入った商品を選ぶ」(217人)、「食の安全・安心のために、手間や時間がかかっても食べ物はできるだけ手作りにする」(197人)の3項目であった。一方、食環境へ考慮した日頃の消費行動で実行していると答えた生徒の数が少なかった項目は、「プラスチックトレイが使われていないなど、包装が簡単な商品を選ぶ」(106人)、「食の安全や環境のことを考えている商品の販売に積極的な店を選ぶ」(122人)、「食の安全や環境のことを考えている商品の開発を積極的に行っているメーカーを選ぶ」(123人)、「輸送時にはエネルギーを消費していることを考えて地場産の商品を買う」(124人)の4項目であった。さらに、授業での行動変容の有無と日頃の消費行動との関係について、相関がみられた項目が4項目あった。相関がみられた項目は、「買い物に買い物かごやエコバックを持って行く」、「食品添加物や農薬を出来るだけ使用していない商品を買うようにする」、「同じ種類ならば、値段が高くても食の安全や環境のことを考えている商品を選ぶ」、「食の安全や環境のことを考えている商品の販売に積極的な店を選ぶ」であり、それぞれの消費行動項目において、学校で食や環境に関する授業を受けた後に、(食環境を配慮した)行動に変化が「ある」と答えた生徒のグループのほうが、実行している割合が高かった。生徒は、学校以外にも家庭、テレビ、新聞、インターネットなど様々な媒体から知識や情報を得ており、それらが複合的に影響していると考えられる。したがって、学校の授業のみで行動との関連性を測ることはできないが、食と環境に関する授業展開によって、生徒が受ける影響の大きさや受け取り方が変わることが考えられる。
  • フード・マイレージを利用して
    荊尾 梨絵, 多々納 道子
    セッションID: B1-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    1.目的
      小学校家庭科では、これまで食生活や衣生活領域は様々な工夫をこらした教材開発を行い、多くの授業実践が行われてきている。それに比べ、消費生活領域の教材開発はあまり行われていないのが現状である。そこで、今日私たちの消費生活と環境の問題は切り離せない課題となっていることと、2008年の改訂によって「環境に配慮した生活の工夫」という項目が導入されたことから、新たに教材開発を進めていくことにした。ただ、環境と消費を結びつけるだけでは抽象的になりがちなので、食生活領域と関連させることによって、児童の興味・関心に合わせるとともに、環境に負荷が少ない生活の実践方法について、より身近なところから考え、学習したことを生活に活かすことがより容易になる。そこで、食生活領域の中で環境保全にとって重要な「地産地消」、「フード・マイレージ」を取り上げて新たな教材開発を行い、その授業効果について分析をすることを目的とする。
    2.方法 
      国立大学附属A小学校6学年1クラス26名を対象とし、授業実践及び、授業前後に質問紙法によるアンケート調査を行い、その授業効果について分析する。実施時期は、2011年11月~2012年12月である。
    3.結果
    (1)教材作成
      文献調査を行うと、「フード・マイレージ」を取り扱った実践のほとんどが中学生以上であり、輸送量(トン)を用いて計算していたり、パソコンを使って計算をしているものだった。そのため、今回の研究の対象の小学生が取り組むにはフード・マイレージ量の計算が難しいと考えられるので、オリジナルの計算方法として、「輸送量(キログラム)×輸送距離(キロメートル)」を用いることにした。
    (2)アンケート調査
      小学生にとって、「地産地消」という言葉は耳にしているものの、どういった意味で使われているのか、どういったメリットがあるのかまでは理解していないことが明らかになった。同様に、フード・マイレージについても小学生にはほとんど知られていないといえる。だが、学習後の調査では、言葉の意味を正しく書くことのできる割合も増え、また環境に良い取り組みをしようとする割合も増えている。このことから、「地産地消」や「フード・マイレージ」は小学生でも学習できる題材であり、環境保全意識を高めることができる教材だと言える。また、授業の感想の分析によって、児童が授業に興味をもって取り組むことができ、環境保全意識を高めることができる教材であることが明らかになった。
    (3)授業実践
      授業の最後に、今後どのようなことに気をつけて買い物をしたいかを各自記述させ、発表させた。すると、今回の授業の主な内容は環境を考えて商品を選ぶということをフード・マイレージという考え方と実際にその計算を行うことであったが、少し触れたエコバックをもっていく、スーパーへ自転車や歩いていくといった買い物に関わった環境を考えた行動についての記述が多くみられた。これらのことから、小学生の児童にとって、スーパーにおいて商品を選ぶ機会が少ない上に、商品の産地を見比べ自らの意思で商品を決定する機会がほとんどないため、今から自分たちにも簡単に取り組める買い物に関わった環境を考えた行動が感想の中心になってしまったのだと考えられる。
  • 小野 恭子, 大竹 美登利
    セッションID: B2-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    研究の目的
    人類は,「大量生産・大量消費」の生活スタイルを確立し,経済発展してきた結果、現代の日本では,環境破壊,貧困格差,過労死などの多くの課題を掲げている。これらは世界に共通した生活課題であり,その解決の方法の1つとしてEducation for Sustainable Development(ESD)が注目されている。ESDは,環境問題に限定されず、その問題の背景として貧困格差や男女平等などの様々な視点を見据えた,解決方法を見つけることを特徴とする世界的な取り組みである。家庭科は自分自身の生活を見直し,よりよい生活を育むためのスキルと意識を有する教科である。現代社会の問題と関連させ家庭科の学びを捉えることは重要であり,よりよい生活スタイルの創造を目指すことになる。そこで本研究では、小学校でこれら多様な視点を見据え持続可能な生活スタイルの創造をめざしたESDの授業実践を行い,児童がどのようなESDの視点に気付くことができるのかを分析することとした。
     研究の方法 
    授業対象者は東京の国立大学附属小学校5年生であり,授業の実施時期は2009年1月と2009年12月である。これらの授業実践におけるワークシート,授業を記録した映像を基に児童がどのような学びをしたのかについて分析を行った。 
    成果と課題
    2009年実践では,児童の実態を踏まえお店で行っている環境にやさしい取り組みについて考えさせることにし,第1次では導入,第2次ではグループ毎にお店の取り組みを考え,第3次では,環境にやさしい取り組みを発表し話し合った。児童は学習前に,環境にやさしい商品として,「エコバック」や「詰め替え商品」「電化製品」「再生紙」「包装材」をあげ,資源を多く使わないことを環境への負荷が少ないと考えていることが分かった。グループで考えたテーマは,「電気」5,「包装材」3,「地産地消」「ごみ」各1であった。「電気」と「包装材」は,具体的な方法を増やすことができた。「地産地消」「ごみ」の視点が新たに増えた。この学習を通して,児童はエネルギーを大切にすることがよいという意識を強く持つようになった。しかし,お店の設備は環境に配慮されているかは,児童の生活に密着したものではなかった。家庭科では児童の生活に密着した学びを重要視しているため,自分の生活に直接影響する商品に注目させる必要があることが明らかとなった。そこで、2010年実践は,2009年実践での結果をもとに改善し教材を「環境にやさしい商品」に変えたこと,スーパーマーケット見学を取り入れた。授業の流れは,第1次は自分の買い物を思い出し環境にやさしい商品について考え,第2次は見学で環境にやさしい商品を探し,店員に質問し, 第3次はグループで環境にやさしい商品を考えた後,学級全体で話し合った。その結果、児童は、学習前に環境にやさしい商品として,「再生紙」「詰め替え商品」「車」「電化製品」「ペットボトル」「袋」をあげたが,どうして環境にやさしいのかという理由は明確でなく,企業が環境に配慮したことを開発の目的としており,商品の売りとしている品物をとらえていた。授業後は自分自身がスーパーマーケットに見学に行き気付いたことから判断するようになった。さらに,視点が商品の輸送方法,商品の廃棄率,商品の売られ方,商品の生産方法などに広がった。2009年実践は「環境にやさしいお店の取り組みを考えよう」では,取り扱っている商品・お店の施設設備の両面から考えられるように,教材を選んだが,児童はお店の施設設備に注目することが多く、生活につながる商品に注目することが少なく、施設設備の具体的な方法を考え,エネルギーを大切にする意識を強く持った。授業実践2では,児童は商品に注目させ、環境への負荷を多角的な視点から判断しようと変化していた。実際の商品から,生産地の比較,訳あり商品の存在に気付き,店員の話から輸送手段と輸送距離との関係販売側の環境への配慮にも気付いた。 
     家庭科で育みたいESDの視点のためには,貧困撲滅,男女共同参画,持続可能なライフスタイル,持続可能な都市化などについても学習する必要があると考える。本研究では,児童にESDの視点に気付き,視点を増やすことできたが,多面的な視点にまで迫る授業を展開できなかったことは、今後の課題と考える。
  • 中山 節子, 伊藤 葉子
    セッションID: B2-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    <B>研究の背景と目的<B/><BR>持続可能な未来にむけて教育の在り方を変えていこうとするESDの推進がグローバルレベルで行われている。「国連ESDの10年(2005年から2014年)」の中核目標には、「教育と訓練の質を高める」が挙げられ、日本においては、ESDをリードし指導できる教員を養成することが課題となっている。<BR>報告者らはこれまで、包括的な視点で持続可能な社会の実現を目指す学習開発、授業実践、カリキュラム開発を行い、家庭科教育におけるESD研究へと発展させてきた(「家庭科における食生活と世界のつながりを考える授業実践」千葉大学教育学部紀要58,2010:「格差社会に生きる若者の自立支援」生活経営学部会報告要旨集,2010:「住まいの学習における「空間の生命化」日本家政学会誌62号9,2011)。これらの継続的研究においてESDの学習指導の内容、重視する能力や態度、指導法が多様であることによるESD実践と指導の課題が考察された。さらに、報告者らは、この課題に対し、PIP(Projection Images by Photography)の手法を用いて、試行的にESDモデルの開発を行い、PIPがESDに関連する子どもの生活環境や生活文脈を把握する有効なツールであることを実証している(「家庭科の視点を中軸に据えたESDモデルの開発」日本家庭科教育学会要旨,2011)。<BR>教員養成を担う日本の高等教育機関において、ESD実践の効果的な教育プログラムは極めて少ない。この課題を踏まえ、本研究は、家庭科におけるESD実践の指導者の育成やESD指導の専門性の向上を目指すプログラム開発とその教育的効果を実践的かつ実証的に検証することを目的とする。<BR><B>方法<B/><BR>報告者らが家庭科の専門性を学ぶ教員養成大学の学生を対象として試行的に開発した「PIPメソッドプログラム」(「Effectiveness of PIP-Model for improving pre-service teachers’ teaching skills in the practices of ESD」5th International Consumer Science Research Congress,2011)を家庭科教育関連の授業において実施し、このプログラムの教育的効果を1.ESD学習指導案改善のためのチェックリストを用いた指導案改善前・改善後の検証2.学習評価(自己・他者)の検証3.「PIPメソッドプログラム」終了後に行う学生からのフィードバックの検証の3つの方法で行った。<BR><B>結果<B/><BR>数量分析から、対象者は、チェックリストの項目の中で、「自分で感じ、考える力」や「関わる人が互いに学びあえる」、「身近な普段使っているものから考える」などの項目をESD指導において最も重要な項目と捉えていた。一方で、「自然そのものを大切にする方法を考える」ことや「自ら実践する力」などの項目は、指導案作成において考えにくく、取り入れにくい項目であることが明らかとなった。また、チェックリストの項目は、最初の学習指導案よりも改善後の学習指導案で増加しており、ESD指導に重要だと考える項目の広がりが見られ、ESD指導の観点の深まりが示唆された。学習評価の検証からは、学生は、学習指導案の達成項目を認識することができ、また自分の学習指導案を客観的に見ることができたことが明らかとなった。「PIPメソッドプログラム」終了後に実施した学生のフィードバックからは、学生は、子どもたちの発想力、自分とは異なるESDに対する視点、発達段階の差などを理解しており、このプログラムの効果を検証することができた。
  • 青木 香保里, 荒井 眞一
    セッションID: B2-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    目的 
     水は、生命を支える基礎であり生活を支える基盤である。水は私たちの体の中をめぐり、同時に地球上をめぐっている。水は地球上に存在する有限の資源である。存在する水に比べ使用できる水は圧倒的に少なく、使用できる水が極度に少ない地域が多く存在する。世界をみると、砂漠化の進行、温暖化と干ばつ、酸性雨、地下水の汲み上げ過ぎによる地盤沈下、地域間での水資源の格差など、水は深刻な問題を引き起こす原因となっている。 
     学校生活では、掃除や授業など様々な場面で水が使われている。水の存在を当たり前に感じ、水の存在に意識を向けないことが水の無駄使いや過度の生活排水などの現象を引き起こしている。学校生活で水が使われる場面のうち、家庭科では、自然や社会と深い関わりをもつ被服や食物などの自らの身につけ身体の中に取り込む目的を有する活動を対象としている。なかでも調理の活動は食物に働きかけ食物の摂取を通じ水分を取り込む一方で、一連の調理の過程で生活排水が生じるなど、様々な場面で水を扱う。調理実習における水に関する総合的な学習活動を通して、水に関する実践的な認識と技能の形成が期待できる。しかし実際は、野菜や皿を洗うなど水を使用する場面が多い割に、野菜や食器の洗浄における水の扱い方に触れることは少ない。包丁の安全な使用法や調理法などの技術指導とは対照的に、水の扱い方については節水の心がけを説く場合が多く具体的な指標を伴うことは少ない。 
      本研究は、家庭科の授業を構成する調理実習における水の使用に着目し、具体的指標を位置づけた調理実習の展開ならびに水の使用についての認識形成をめざした調理実習に関する教育内容の検討を行うとともに、身近な資源である水を総合的・実践的に捉えることを目指した教育内容の検討を行い、授業に資する具体的資料を得ることを目的とする。

    方法
      研究方法としては、文献研究に加え、実験(小学校家庭における調理実習献立をもとに実施)として、調理実習(手洗い・材料等の洗い・調理に用いる水・調理器具/食器の洗い)で使用する水の計量を行い考察する。
     なお比較実験として、世界において降水量の少ない地域にみられる調理方法に着目し、調理で使用する水の計量を行い検討した。
     また小学校家庭教科書における水に関係する記述について検討し、教育内容構成の資料とした。

    結果
     1)水使用量の計量に関する実験は小学校家庭教科書に掲載されている実習献立をもとに行った。予備実験として、調理実習を行ったと仮定したときの水使用量について測定する「実験A」を行った。次に、「実験A」(予備実験)をもとに洗浄方法の違いによる水使用量について測定する「実験B」を比較実験として行った。また、水の使用量が制限される地域で用いられている調理器具(タジン鍋)に着目し、調理方法の違いによる水使用量を測定する「実験C」を対照実験として行った。各実験の結果について、報告当日に述べる。
     2)1977年告示の学習指導要領~現行学習指導要領に準拠し発行された小学校家庭教科書(2社)を対象に「水」に関する記述を抜粋し検討した結果について、報告当日に述べる。
     3)学校生活において授業や諸活動で水が使われている場面を検討し、家庭科との関連について考察を行った結果について、報告当日に述べる。
  • 高齢社会と福祉を題材にして
    土屋 善和, 堀内 かおる
    セッションID: B2-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【研究目的】
    知識基盤社会といわれる今日、様々な情報から根拠を持ち意思決定することのできる力が求められている。楠見(2011)は「情報を鵜呑みにしないで判断する能力は、日常生活の実践を支える能力」とみなし、そのような能力を促す「批判的思考」に着目した。荒井(2009)は、批判的思考を「物事を偏見や思い込みにとらわれず論理的に考え、より良い解を求めようとする思考」と定義している。生活を題材とする家庭科における批判的思考力とは、生活の中の「当たり前」を問い直す思考であり、生活を客観視し多面的にとらえる中で、根拠を持って自分なりに考え判断することができる思考力である。それは、よりよい生活を創造するための具体的行動を促す力となるものとみなされよう。糟屋(2010)は、批判的思考力の重要な要素として、思考技能(解釈・分析・推論・説明など)や思考態度(探究心・柔軟性・他者の意見を尊重するなど)、目的意識(よりよい社会を構築するなど)があると述べている。さらに、目的意識を実現させるためには思考技能・思考態度が必要で、目的意識は批判的思考力の技能や態度を育成する上で重要だとみなした。 批判的思考力の育成に関して、木下ら(2011)は理科教育の観点から、「自ら思考の過程に対して意識的に吟味を行わせる場面を設定する必要がある」と述べており、授業の中で自分の思考過程を論理的に整理したり自分の思考過程を吟味する場面を意図的に行わせるような活動を取り入れる必要があると捉えている。以上の批判的思考に関する指摘を家庭科教育に当てはめて考えてみると、個々の児童・生徒の中に生じた生活事象に対する疑問や違和感をあえて授業の中で提起し、なぜそうなるのか、どのような背景のもとで生じていることなのかを分析的に吟味することを通して、生活に対する批判的な思考力が育まれるのではないかと考えた。 そこで本研究は、高校生が現代生活の課題について考える場面を設定した授業を提案し、授業分析を通して、家庭科における批判的思考力を育む授業実施上の留意点を明らかにすることを目的とする。
    【研究方法】
    平成24年2月に東京都下の私立大学附属男子校の高校1年生を対象に、高齢社会と福祉を題材にして2クラスで2時間の授業を実施した。1クラスではワークショップ形式を導入し、付箋を用いて現代の生活課題を整理し、各自の見解を問うという内容の授業を行った。他の1クラスでは、教師による説明を踏まえ、ワークシートに見解をまとめることにした。本研究ではワークショップ導入授業に着目し、グループ討論を経て生徒がどのような意思決定を行うことができたかについて考察する。
    【結果および考察】
    生徒の捉えた高齢期の問題点は、「年金」等の金銭面での生活の不自由さを指摘する意見に集中した。その一方で生徒は、「高齢者の孤独化」、「介護」、「地域とのつながり」、など様々な問題点を挙げていた。解決方法としては、「介護・医療の改善」、「施設・環境の整備」等の高齢者を直接支援する方法や、「子育て支援」のように高齢者に対する支援ではないが、間接的に高齢者の生活を守っていくような解決方法を提示していた。また解決方法を行う人(場所)をみると「国」や「政府」または「会社(企業)」といった意見が挙げられており、生徒は問題に対して社会全体で取り組むことであることを認識していると考えられた。授業を通して、生徒たちは高齢社会についての理解を深めることができた。しかし、自分たちは高齢社会を担う当事者であるという意識を生徒に喚起する上で課題が残った。それは、意見を表出し整理する作業にとどまり、自分たちの生活と関連付けて問題や解決方法を吟味するまでに至らなかったことに起因すると考えられる。生活事象に対する批判的思考力の育成に向けた今後の課題として、生徒がさらに思考を深めるための「問い」と自分と他者の考えを批判的にとらえることができる場面の設定を検討していきたい。
  • 鳥羽  波峰, 久保 桂子
    セッションID: B2-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    1.目的 
     便利で効率的になったはずの消費生活において,家事技術の低下,生活力の減退といった新たな問題が生まれている。『平成20年版国民生活白書』(内閣府2009)では,現代の生活の諸問題を解決するためには,我々の社会は「消費者市民社会(Consumer Citizenship)」へ転換することが求められているとしており,これからの生活者は,生活力の向上のための知識・技術の習得を意識的に行うとともに,受け身ではなく,積極的に生活の諸問題に取り組むことが求められている。消費者市民社会の将来の支え手となる子どもたちも,衣食住に関わる知識・技術の基本を身につけ,生活の諸問題に主体的に関わる生活者として成長することが望まれる。しかし小学生の実態として,家事を行ったり手伝ったりする程度は非常に低いことが報告されており,学校での家庭科学習で家事参加への意欲を高める授業の開発が求められる。
     そこで本報告では、小学生に行った家事に対する調査結果をもとに,意欲が高まる授業を検討し、実践した後に、その授業の効果を検討することを目的とする。
    2.方法
     まず,小学校高学年児童の家事参加に影響を与える要因を明らかにするために,千葉県内の公立小学校の4~6年生の児童を対象に2010年9月に質問紙調査を行った。回収された1064票のうち分析の対象は1036名(男子505名,女子531名)である。分析の結果,家事に対する「面倒,いやだ」などの消極的な気持ちとともに家族の働きかけが参加度に大きく影響しているということが明らかとなった(第54回大会研究発表要旨集参照)。そこで,学校教育における家庭科の授業で消極的な気持ちをなくすような手立てをとれば,苦手意識が克服され,家庭環境の違いを超えて家事に対する意欲が向上すると考え,「食事作り作戦」という授業を開発した。授業を通して「面倒,するのはいやだ」「うまくできないからやりたくない」「自分がする仕事ではない」という消極的な気持ちが,「面倒ではない」「上手にできる」「やりたくなる仕事」という気持ちになることを目指し,先行研究を参考に手立てをとった。授業実践後,実習時の児童の振り返りの記述,感想,保護者からの家庭での様子の記述,事後調査から授業の効果を検討した。
    3.結果
     (1)実習時の児童の振り返りの記述と感想から,教師の手立てや題材構成の効果について検討した。児童の記述には「できた」「簡単」「またやってみたい」などの積極的な気持ち,知識・技能の向上,段取り・手際の良さ,協力・協働などがあげられており,先行研究をもとにした手立てや題材構成が有効であったことが検証された。
    (2)毎回授業後,教師から授業の様子を家庭に知らせ,保護者から家庭での変化や様子を記述してもらった。記述の分析から,児童にとって「やってみたい,やりたくなる」題材であったこと,実習での「楽しい」「できた」などの気持ちが家庭での実践につながったこと,題材の内容が児童の生活と結び付き,家庭で生かすことができるものであったことなどが明らかとなり,手立ての効果が検証された。
    (3)授業2ヶ月後の事後調査の自由記述には,意欲や自信の高まり,知識や技能が身に付いたことに加え,家族への影響,家の仕事の広がり・継続,管理・活用する力などの記述がみられた。時間やモノを管理する力や人と関わる力を指導に組み入れた効果が明らかとなった。以上の分析結果より,消極的な気持ちの克服をめあてにした授業実践が,継続的な家庭実践や主体的に生活にかかわっていくきっかけとなったことが明らかとなった。
  • ―教員に対するインタヴュー調査より―
    荒井 紀子, 鈴木 真由子, 綿引 伴子
    セッションID: B2-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【研究目的】
      PISA型の学力論において、改めて問題解決能力が注目されるようになり、改訂学習指導要領にも“問題解決的な学習”に関連した表現が記載された。家庭科では、児童・生徒が生活における問題を発見し、主体的に解決できる力を身につけることを重視しており、これまで以上に“問題解決的な学習”が求められている。
      我々は、問題解決的な学習がどのように展開されているのか、家庭科教員に対する質問紙調査によって明らかにした(2010年度例会)。児童・生徒が問題解決的な学習に対して「自主的・主体的・意欲的・熱心」に取組み、「思考力・創造力・実践力の獲得」につながるといった効果とともに、教材開発や研修、関連するコンテンツの提案などの教員に対するエンパワーメントの必要性や、授業時間数の確保など、学校における周辺環境の整備が課題として示唆された。
      しかし、質問紙調査の制約及び限界から、具体的な授業の詳細までは把握できていない。そのため、どのような“問題解決的な学習”によって、児童・生徒がどう学び、教員自身がそれをどう評価しているのか、授業の実際から把握する必要があると考えた。
      そこで本報告では、“問題解決的な学習”の実践者である家庭科教員を対象にしたインタヴュー調査によって、効果と課題を明らかにすることを目的とする。 
    【研究方法】
    ・ 調査方法:半構造化インタヴュー調査 60分~80分/人
    ※事前に調査項目を記したシートを渡し、実践記録など問題解決的な学習に関係する資料の準備を依頼
    ・ 調査時期:2011年1月~3月
    ・ 調査対象:福井県・富山県・大阪府の家庭科教員(小2中1高2, 計5人)
    ・ 調査項目:問題解決的な学習の具体的な実践の様子、児童・生徒の学習の効果、実践するにあたっての課題 など
    【結果】
      学習対象とする児童・生徒の発達段階や学校種等により回答内容に相違や多様性はあるものの、問題解決的な学習への理解や取り組み方、課題への認識等において以下のような共通の特徴がみられた。
    1.問題解決的な学習について
      問題解決的な学習は、「既成概念を問い直すことで問題状況を自覚させる」「問題の存在に気づかせるところがポイント」であり、「葛藤しながら多様な視点を身につけていく」と捉えていた。また、「生徒とともに授業をつくりながら進めていく」といった発言もあった。
    2.実践した問題解決的な学習のポイント
      これまでに実践した問題解決的な学習のポイントについては、「探究する場・体験的に試す機会を保証する」「生活感覚を軸におく」「解決のための選択肢は多様に提示し、意思決定するまでのプロセスの重要性を伝える」「子どものリアルな生活場面を具体的に題材として取り上げる」「問いを重ねながら児童・生徒を追い込み、どうすればよいか考えさせる」などの発言があった。
    3.問題解決的な学習の効果
      問題解決的な学習の効果については、「他者と関わり学び合うことで学習が深化する」「失敗経験や試し活動によって探究の目的が明確化し、意欲的・主体的な学びにつながる」「探究する・思考することで学ぶ楽しさを知った子どものエネルギーは無限」「抑えたいポイントや視点、問題意識が継続する」「グループ学習によって多様な価値を認め合える」などの発言があり、多くの可能性を見出していた。
    4.問題解決的な学習の課題
      問題解決的な学習の課題については、「時間の確保」「探究活動ではインターネットリテラシーが不可欠」「生徒の関心の方向性をキャッチする」などが挙げられた他、教員の課題として「結果の振り返りまで保証する」「単発ではなく継続性のある学習を組み立てる」「共同で学ぶことの意義を伝える」などが挙げられた。
  • 小清水 貴子
    セッションID: B3-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的
    子どもたちの生活経験の減少や生活技術の低下が懸念されている。先行研究においても,大学生の衣生活に関する生活的自立ができていないこと,家庭科の学習内容の日常生活における実践が少ないことが指摘されている。
    将来,教員として家庭科を教える学生自身の生活に対する意識や生活経験は,家庭科の授業に影響を与えると思われる。これまで大学生の生活実態調査,大学生の現状から家庭科教育の学習内容を検討した研究,大学生の家庭科観や家庭科のイメージに関する研究は数多く行われてきた。しかし,家庭科教員を目指す学生に着目して,生活に関する意識や日常生活の実態を明らかにした研究はほとんど見当たらない。そこで,本研究では,将来,家庭科教員を志望する大学生を対象に,自身や家庭科教師としての生活的自立に関する意識および生活経験の実態を明らかにすることを目的とする。

    2.方法
    中学校家庭科教員免許取得を目指す大学1年生女子17名を調査対象とした。4月と7月に生活的自立に関する意識調査,11月に家庭科教師としての生活的自立に関する意識調査を行った。生活的自立に関する調査では「得意である」「知っている」「できる」「自分で行いたい」「興味がある」の5観点について,家庭科教師としての意識調査では,家庭科教師として「できることが必要である」「得意であるべきである」「好きであるべきである」「教えることができる」の4観点について調査した。いずれの調査も,具体的な生活行為の項目を設定し,4件法で回答を得た。生活記録調査は,4月上旬から16週間,計112日実施し,生活する上で自分が行ったことについて自由記述で回答を得た。また,補足調査として12月に2名の学生にインタビュー調査を実施した。分析は居住形態に基づいて,自宅群6名,自宅外群11名に分けて,比較・検討を行った。

    3.結果および考察
    (1)生活的自立に関する意識
    生活行為の各項目について,「得意である」「知っている」「できる」の平均値は2.6~2.9であったが,「自分で行いたい」の平均値は4月3.6,7月3.7と高く,生活的自立に向けて意欲が高いことがわかった。また,「自分で行いたい」と「できる」について分散分析を行った結果,「⑤ボタンをつけること」以外の項目すべてで有意差および有意傾向がみられた。「自分で行いたい」という意欲は高いが,「できる」という自信が伴っていないことが明らかになった。
    (2)家庭科教師としての生活的自立に関する意識
    両群の差はほとんどみられなかった。家庭科教師として「できることが必要である」は,全ての項目で平均値が3.0以上であり,家庭科教師として生活的自立を果たさなければならないと考えていることがわかった。一方,「教えることができる」の平均値は2.2~3.5の間であった。これらの間に統計的有意差がみられ,教えることについて不安を感じていることが推察された。
    (3)生活記録調査にみる生活的自立の実態
    調理経験では,最も多い学生が338回,最も少ない学生が15回と頻度に大差があった。調理操作は切る,焼く,炒める,茹でるの順に多く,調理操作による両群の差はみられなかった。自宅群で,調理経験が最も多かった学生J(297回)と最も少なかった学生B(22回)にインタビュー調査を行った。その結果,健康に対する関心の度合いが調理経験の頻度と関連していることが明らかになった。
    (研究協力者 藤下綾乃(静岡大学教育学部))
  • ―模擬授業を通して習得される資質能力の分析―
    青木 幸子
    セッションID: B3-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    <目的>
      1997(平成9)年、教育職員養成審議会は第一次答申「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について」において、「細分化した学問分野の研究成果の教授」が過度に重視されていることを批判し、教科教育法や教育実習の単位増を盛り込んだ改革案を提示し、養成課程において「実践的指導力」を育成することの必要性を強調した。また、2006(平成18)年、中央教育審議会は「今後の教員養成・免許制度の在り方について」の答申において、「教職実践演習」の導入や教職大学院の設立について提言している。このように近年の教員養成政策には、養成段階において即戦力としての完結された指導力が強調されており、養成・採用・研修の各段階で主に育成することが期待される能力との継続性や関連性を再吟味する必要性を痛感させる。こうした動向は、自治体が主催する「養成塾」等の養成基準とも通じるものがあり、大学における養成との間に実践的指導力をめぐるダブル・スタンダードの存在を推測せざるを得ない状況となっている。
       政策の基本軸である実践的指導力とはどのような能力か、それはいつ・誰が・どのように育成することが適切か、養成・採用・研修段階での調整・連携はどのように図られるのか等についての共通認識が必要である。教員の職能成長を図るための課題に応えようとこれまで夥しい数の提言や研究報告がなされてきた。筆者は、養成も研修も真に教員の職能成長を支え、促進し、子どもの学びに還元される能力として止揚されるものでなければならないと考えている。
       本稿では、教員養成における力量形成研究の一環として、「教科教育法」で学生が体験する模擬授業の分析を通して、そこで育成される資質能力の傾向を把握し、養成課程において育成すべき実践的指導力の内実について検討することを目的とする。
    <方法>
    1. 対象者:T女子大学「家庭科教育法Ⅲ」履修者58名
    2. 調査時期:平成23年度後期授業期間中の10月~1月
    3. 研究方法:
     *模擬授業とは、グループ単位での題材・教材開発、学習指導案の立案、模擬授業の実施、授業批評のすべてを指す。
    *授業批評シートの31項目について、学生の自己評価の結果を分析する。
    *それを文科省の「教員に必要な資質能力の指標」に対応させ、模擬授業で育成される能力の傾向を明らかにする。
    *さらに、教員の力量診断結果とも対比しながら、養成段階で育成すべき実践的指導力の内実について検討する。
    <結果と考察>
    1.資質能力指標に基づき項目を「教材分析力」「授業構想力」「教材開発力」「授業展開力」「表現技術」の5つに分類し、模擬授業による実践的能力の習得状況を分析した。平均値が高かった指標は「教材分析力」「授業構想力」であり、低かったのは「授業展開力」「教材開発力」「表現技術」であり、グループによるばらつきが見られた。
    2.模擬授業全体を通しての「授業展開の説得力」は「教師の専門的力量」との相関が強く、「生徒の理解度」にも大きく影響する傾向が見られた。
    3.そこで、資質能力指標の5分類について「生徒の理解度」との関係を見ると、「教材分析力」「授業構想力」「教材開発力」が生徒の理解度と相関が強いことが認められた。
    4.教員の力量診断結果との比較により、養成段階では教科のねらいと社会の課題を認識し、それを教材化できる高度の資質能力の開花に繋がる能力を育成することの重要性を確認した。
  • 山本 紀久子, 佐藤 麻子
    セッションID: B3-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    Abstract:目的
       社会が大きく変化する中、教員養成課程の充実のためには教員の資質向上の方策の見直しは緊急の課題となっており、教科指導を行う実践的指導力を身に付けた教員の育成は重要である。家庭科の衣生活技能として、なみ縫い、返し縫い、玉結び、玉どめなどの基礎縫いとならぶボタン付けは、基本的な技能である。そこで、小学校教員養成において、小学校の家庭科の授業実践を想定し、学習指導要領 2内容 C 快適な衣服と住まい (1)衣服の着用と手入れ イに記載がみられるボタン付けを取り上げ、ボタン付けの実習・作品の製作で基礎的な技能を身に付けるとともに、実践的指導力を身に付けるために、教材の内容分析、さらに、ボタン付けの内容分析に関連する内容を含む学習指導案と評価問題の作成として具現化することを受講生に求めた。そして、授業後にアンケートを実施した結果を分析することなどを通して、この授業デザインの教育効果を明らかにすることが目的である。
    【方法】
       2011年度I大学後期教職に関する科目「初等家庭科教育法研究C・ D」において、2年次を対象に、90分1コマの講義を3回にわたり実施した。調査対象者は、3回の授業に参加して全てに回答した63人(男21人、女42人)である。具体的内容としては、1)ボタン付けの目標、ボタン付けの要素分析(ボタン・糸・布・針)、ボタン付けに関する目標達成のための教材分析(ボタン付けの下位目標・ボタン付けの教材の分析)、2)ボタン付けの実習、この授業で扱うものと扱わないもの、ボタン付け関連の学習指導案の作成、作品の製作(一部家庭学習)、3)評価問題の作成・まとめである。その後、受講生に、ボタン付け関連の授業デザインについて、5件法による受講生の評価と授業イメージ、自由記述法による感想を求めるとともに、ボタン付けの作品・評価問題の分析を行った。
    【結果】
      教師教育としての授業への導入について、各項目の平均値(標準偏差)を求めた結果、評価問題の作成は4.60(0.53)と最も高く、次にボタン付け・作品の製作4.35(0.70)、ボタン付けの要素分析・教材分析4.17(0.94)、学習指導案の作成4.14(0.78)の順で、平均値で4点以上と、教師教育への導入に好意的評価が得られた。自己評価の平均値(標準偏差)を求めた結果、ボタン付け・作品の製作は4.05(0.83)と最も高く、次に学習指導案の作成3.51(0.88)、評価問題の作成3.40(0.77)の順であった。評価問題の作成の自己評価に比べ、教師教育としての授業への導入は高かった。自由記述法による感想では、評価問題の作成の難しさと初めての評価問題の作成の記述をあげたものが多くみられた。ボタン付け・作品の製作では、ボタン付けの練習のみ16件、小物入れ24件、ティッシュケース7件、ペンケース4件、ブックカバー2件、その他10件で、ボタンは、丈夫に丁寧に付けられていた。自由記述法による感想では、ボタンの内容分析から順を追って子どもの立場、教師の立場の両面から考えることができた、示演用見本についての記述の順で多くみられた。小学校の家庭科授業を想定し、ボタン付けの実習、教材分析・学習指導案・評価問題の作成を取り入れた授業デザインは、有効と考えられる。今後、授業改善に向けて課題を見つけ自分の実践を振り返るなど実践的指導力を向上させる授業デザインとして、相互評価を評価問題に取り入れるなどが課題である。
  • 石島 恵美子, 伊藤 葉子
    セッションID: B3-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    問題の所在と研究目的【BR】若者が社会から乖離していることは,様々な現代社会問題の要因となっている。子どもの社会参画についての研究は,ハート(1997)の子ども参加支援モデル「子どもの参加のはしご」をはじめ,数多く研究されている。ただし、教科の中で、社会参画を育むための授業をどのようにつくっていけばいいのかについては、教師をどのように支援していけばよいのかについての研究はほとんどない。【BR】そこで、本研究は,家庭科で高校生の社会参画意識を育むことに焦点をあて,教師が今までの授業を改善する方法を考えだし、その効果を調べることによって、教師支援方法を検討することを目的とする。得られた知見を集約し,家庭科で高校生の社会参画意識を育むことについて総括的に考察を行う。【BR】研究方法【BR】 先行研究で明らかになった,高校生の社会参画意識構造に基づいて,高校生の社会参画意識を育む授業を作るための教員の指標となる自己評価チェックリストを作成する。このチェックリストを活用し、社会参画の視点で授業改善を行って、実践をおこなった。単元終了時に「高校生の社会参画意識を育む授業による意識変容調査」(量的・質的研究)を行い,本授業を受けた高校生の学習の過程と意識変容を明らかにし 社会参画を育む授業の効果を確認した上で、教師支援の方法としてのチェックリストについて検討する。【BR】 これらで得た知見を集約し,家庭科教育で高校生の社会参画意識を育むことについて考察する。【BR】研究の要約【BR】先行研究の結果と他の基礎資料に基づいて「社会参画を視点とした家庭科の授業のためのチェック表」を制作し,表の項目を効果的に取り入れて単元を組み立てた。【BR】本授業対象は,千葉県立K高等学校の3年生 121名で,5時間の単元である。実施時期は,2011年6月下旬~7月上旬である。【BR】効果測定は、「高校生の社会参画意識を育む授業による意識変容調査」を行い、量的研究として,統計分析をし,意識変容の度合いによって,3群に分け,各項目について分散分析を行い、どのような教材がどのような意識を持った生徒に効果的であったかを検討した。【BR】質的研究として、生徒の自由記述から,本授業を受けて,生徒の社会参画意識の変容のプロセスをM-GTAにより可視化することを試み、高校生の授業による意識変容を生徒の言葉に注目して検討した。【BR】分析の結果、本研究の枠組みに基づいて作った授業は、社会参画意識を育むことにおいて高い効果が得られた。このことから、教員の自己評価チェックリストは指標としての妥当性が示された。【BR】
  • -学び合いを支援する場作りの試み-
    葛川 幸恵, 堀内 かおる
    セッションID: B3-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    目的:中学校では、今年度から、新学習指導要領が完全実施となる。グローバル化や少子高齢社会の中で、これからの時代を生き抜く力をどう育成するかが問われている。
    今回の中学校学習指導要領では、選択教科の取扱いは、学校教育法施行規則第73条で規定する標準時間数の枠外で開設し得るとなったことから、学校現場では、標準時間の枠外を使ってまでも履修することはなくなり、家庭科の持ち時間数が減り、中学校のなかには、家庭科教師が授業時数の関係で配置されない所もある。このような状況の中で家庭科教師たちは悩みながらも、よりよい授業を作る努力をしてきた。横浜市は全国の中でも家庭科の教員免許状を持った家庭科の教師が多く配置されている。横浜市では、市の研究会はあるものの多忙さの中で参加できなかったり、新しい情報を入手できなかったりという声も聞かれている。
     家庭科は、時代の変化に最も影響を受ける教科である。現場だけでは、最新の情報や研究成果を把握しづらい。そこで、時代の変化に対応したカリキュラム構想や授業実践には、大学と連携が有効で時代のニーズにあった授業方法や題材作りをすることも可能となるのではないかと考える。授業改善の手だてを教師同士で共に考え大学教員との協働による自己研鑽の場作りが必要である。家庭科教師が、授業力を向上するためには何が必要か、家庭科の授業が充実するためには教師がどのようなことをすればよいか、教育現場の教師たちの生の声を聞くことを通して、教師たちが捉えている教科の課題と力量向上のための手がかりを明らかにしたい。
    方法:平成24年1月から横浜市立中学校家庭科担当教師の有志8名で自発的な研修組織としての研究会を立ち上げた。この研究会は月1回の開催で、大学教師1名も参加して年間の活動計画を立て議論を重ねている。本研究では、この研究会(第1回~第3回)の議論を録音後文字化した記録をもとに、家庭科教師がとらえている課題や、家庭科授業を展開する上で大切にしていること、家庭科を通してどのような力を育成しようとしているかを明らかにする。
    結果と考察:第1回研究会の話し合いの中で、①家庭科で何を教えたらよいか、男女共修で物づくりの時間数が減り習得できず、本当に必要なことなのかという疑問もある。②かつては研修の場でベテランの教師が指導助言をしてくれたが、一人体制になり若い教師が自分から進んで研修を行う機会がない。③授業力を向上する研修組織が必要で、特別な授業でなく、普段の授業をもっと観て勉強したいと考えている。④雇用形態も、臨任や非常勤が増え研修する場が少なく、誰でも教えられると思われているのではないか。⑤家庭科教育が学校経営の中に生かされていない。少ない時数なので家庭科教師を置かない管理職もいる。⑥他教科との連携や、家庭科の存在意義を示す必要がある、といった現状の課題が浮かび上がった。次は若手の具体的に「住居」が教えづらいという悩みに対して、カリキュラム作りや学習題材を考えてみることにした。
     2回目の研修会では、5名の教師がそれぞれが持ち寄ってきた資料で授業の可能性について、発表しディスカッションした。授業デザインすることが、生徒がこれからの生活を創る力につながるし、問題解決などの学習を通して、どうしたらよいかを学びながら、これからの自分がどう生きるかを模索できるという仮説が提起された。
     3回目の研修会では、6名の教師が参加し2回目の授業をさらに工夫改善した学習について報告をした。学校の中で家庭科がアピールできる学習はないかが話題となった。地域と学校をつなぐような学習内容になれば、誰もが一目を置くのではないかと考えられ、互いの実践の内容を聞くだけでも、他の教師も自分がやってみようと言う気持ちになれることが指摘された。また、完成度の高いものでなくてよいので、研修を通して教師同士が一緒に学び合いながら自分の学校で何ができるかを考え、教師の創造力を働かすことにこそ、授業づくりを楽しみ、意欲がわき、授業力向上につながるということに気づいた。
  • 鈴木 博美
    セッションID: B3-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/02/01
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    【1】研究目的 1990年代より教育改革が進行し、東京都は全国に先駆けて都立高校改革を進めてきた。このような中で、都立高校の家庭科は、家庭科に関する学校設定科目の設置の増加とともに家庭に関する学科の消滅の危機(小高他,2009)、また全国的にも家庭に関する学科の生徒数の激減(鈴木他,2009)など家庭科が変容している。また都内の高校生の約6割の生徒が通う私立高校は、大学受験を目的とした普通科を中心として、コース制をもうけている高校が多く、生徒が進むコースによって家庭科の履修科目や履修学年が異なる高校もある(鈴木他,2009)。一方、私立校には男女共学校の他に、女子校、男子校も位置づいている。本研究では、都内私立高校において男子校、女子校別にどのような教育課程を編成し家庭科がどのような現状になっているかを明らかにすることを目的とする。
     【2】研究の方法 各年度の東京都生活文化局私学部「東京都の私学行政」、日本私立中学校高等学校連合会「私立中学校名簿」、及び各私立高校学校案内より、男女校別の教育課程、家庭科に関する学科の種類について分析する。
     【3】結果と課題1.都内私立高校においては男子校女子校の割合は、1990年の男子校が31.1%、女子校が48.1%であったが、2011年は、男子校が16.7%と減少し、男子校は共学化している傾向がある。一方女子校数、42.6%と都内私立高校においては、女子校が約4割を占めて位置付いている。2.都内私立高校においては、男女共学校においてはコース制をとっている学校が多いが女子校は、男子校に比べるとコース制をとっている学校が少ない傾向が見られた。3.家庭に関する学科は、総合校に4校あるが、男子校には家庭に関する学科はなく、3校が男女共学校、1校が女子校であった。4.男子校、共学校は家庭基礎2単位を中心に履修している。一方、女子校は家庭基礎2単位を履修、又は家庭総合4単位を履修しており、女子校は例えばコースによって家庭基礎2単位、家庭総合4単位など、大学受験進学のコースによって家庭科の履修単位が異なっていたり、また履修学年が異なっている学校もあった。
     【4】まとめ 都内私立高校の教育課程における家庭科は、男子校と女子校において異なる位置づけが見られることが明らかになった。しかし生徒たちが実際に学んでいる学習内容がどのようなものかをさらに詳しく見ていくことが必要である。  小高さほみ他(2009)『高校教育改革の「多用化」における家庭科の課題』日本家庭科教育学会第52回大会要旨鈴木敏子他(2009)『戦後の高校教育改革と家庭科』日本家庭科教育学会第52回大会要旨鈴木博美他(2009)『都内私立高校における家庭科の現状』日本家庭科教育学会第52回大会要旨
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