抄録
目的 現代の若者の生活は乱れている,あるいは生活の質が低いと言われている。なぜ,世間からこのような指摘を受けるのかを考えると,まず若者の食生活が原因の一つとして挙げられる。 山田(2003)は,若者が好きなものを好きな時に食べられる環境の中で暮らしていることで,コンビニ食で満足し,栄養バランスの悪い食事に疑問や不満をもっていないことを問題視している。佐々木ら(1996)も,大学生の健康に関する行動と意識についてのアンケート調査の結果から,大学生はスナック菓子を食べ過ぎる,ダイエットを行うなどの食生活の乱れを明らかにしている。また,富岡ら(1992)は,大学生の食生活の調査から自分にとって望ましい食事がわからない学生が多いことと,調理能力が低いことを指摘している。食品産業センター(1996)でも,東京都庁を中心とした首都圏地域に住む若者へのアンケート調査を行った結果,「包丁を使用しないのが日常茶飯事になっている」こと,「自分が作れる料理が少ない」という技術不足を,同様に指摘している。さらに,伏木ら(2004)は,運動不足や過食による若者の生活習慣病の増加を指摘している。
このように,現代の若者の食生活は乱れているのだろうか。特に目立つ食生活課題だけがとり立たされ,ほとんどの若者の食生活が乱れているかのように言われているだけではないのか。また,自分で調理することも少ないと指摘されているが,家庭科で学んだ食生活の知識や技能は生かされていないのだろうか。そこで,本研究では,大学生の食生活の実態並びに,その実態と家庭環境あるいは家庭科教育との関連性を明らかにすることを目的とする。
方法 本研究では、「大学生の食生活実態」に影響を及ぼす関連要因として,「性別」,「家庭科への関心」,「学習経験」,「家庭環境」の4つを挙げ,各要因について質問項目を作成した。「大学生の食生活実態」は8 項目,「家庭環境」は14項目,「家庭科への関心」は4項目について,「0~20%思う」「20~40%思う」「40~60%思う」「60~80%思う」「80~100%思う」の5段階で評定を求めた。また,「学習経験」は8項目で設定し,各項目について,学習経験が「ある」「ない」の2段階で評定を求めた。調査対象は,教員養成系H大学の大学1年生から4年生,計565名(男子279名,女子286名)から回答を得た。
結果 学生がよく行っている食行動は,調理器具を清潔にし,食品を適切に保存するであり,直接,食べるという行動につながる自分で三食食事を作るや栄養のバランスを考えて食事を作るは,頻繁には行われていなかった。それは,富岡ら(1992)が指摘するように,調理技能の乏しさや経験不足のためであると考える。
また,これらの食行動は家庭からの影響の方が,家庭科で行った学習経験より大きいこともわかった。毎日,家族と会話しながら,手料理を食べ,その際,食事のマナーも学んでいる学生は,それを自分の食生活に生かしている。さらに,食事の手伝いをしているならば,自分でも栄養のバランスのいい食事を3食作ることに繋がることが認められた。 家庭科への関心は,大学生の食生活実態に直接影響を及ぼすこともわかった。楽しく,家庭生活に役立つ授業を行ったならば,大学生の食生活は改善されるであろう。ただし,家庭科で学んだ知識や技能については,大学生の食生活に間接的に影響を及ぼすだけであった。しかし,家庭での実践を促すような知識や技能を盛り込んだ授業を行うことで,間接的であってもその影響は大きくなるであろうし,直接影響を与えることにも繋がると考えられる。