日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A4-3
会議情報

56回大会:口頭発表
まつり縫いの反復練習に対する意識と効果
*山本 夏帆寳達 佑美鳴海 多恵子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録


針と糸を使う縫製技術の習得は、日常生活が既製品で賄うようになった今日でも、被服管理を中心とする衣生活の自立の面から不可欠である。家庭生活の中で糸と針を使う場面に出会う機会が減少している現状では家庭科の布を使った製作学習は縫製に関する知識と技術を学ぶ希少な機会となった。裾のほつれ直しなど、日常生活で活用する機会が多いまつり縫いは中学校で学習しているが、技能を確実に定着させるために必要な布を用いた製作活動を繰り返し設けることは授業時間数の減少や日常生活での縫製機会が減少した現状では困難である。 本研究では、まつり縫いの縫製技術を確実に習得し、定着させるために、家庭科の授業内で短時間の反復練習を行うことを試み、反復練習に対する生徒の意識および練習効果について考察した。

まつり縫いの学習は、まず、まつり縫いの形状および縫い方を理解するために、本研究で開発した学習布を用いた授業を行った。この学習布は33cm幅の花木綿を用い、布に縫い方や作業内容を印刷したものである。上下両端を2cm幅の三つ折りにし、一端は三分の一ずつ作業内容のコメントと縫う位置を記した。すなわち、最初に(1)「縫い方を理解しよう」と印刷し、縫い方の理解のために間隔の広い縫い目で針を刺す位置を示す点や順番を印刷した。次に(2)「細かくまつってみよう」と印刷し、理想的な縫い目形状を理解するために8mm間隔に針を刺す位置に点を印刷した。最後に(3)「自分の力でやってみよう」のコメント以外の印刷はしなかった。次の授業では学習布の反対側の端を用いて10分間の時間制限の中でまつり縫いを行い、前時の学習の確認を行った。その後は25cm幅の布を用い、5分間ずつの反復練習を5回行った。また、生徒の繰り返し練習に対する意識調査および手指の巧緻性への効果を計る糸結びテストを反復練習開始前と終了後に実施した。反復練習の技能面の効果はまつり縫いの目視評価により検討した。実施対象は都内公立中学校1年生83名である。

(1)生徒は反復練習に対して、開始前には技術上達への期待や楽しさに対して肯定的であり、練習後には、速く縫えるようになったことを自己評価し、ズボンやスカートの裾がほつれたら自分で直せるなど、生活に応用できる自信を持っていた。また、反復練習に対する面倒な意識は練習後には低下した。 (2)反復練習に対しては女子のほうが肯定的であった。(3)糸結びテストの成績は、女子において有意に向上した。 (4)反復練習による技能面での効果は、時間内で縫える長さの増加において顕著であった。縫い目の形状については指導上の課題が残されたが、生徒個々の中での縫い目の統一感があり、縫うことへの慣れがうかがえた。 (5)縫い目の形状については、20%程度の生徒に反復練習による確実な上達が見られた。しかし、自己流の縫い目が定着している傾向も多く見られた。自己流の縫い目としては、三つ折りの折り山をすくう位置が深すぎる、表目をすくう位置が折り山から離れている、縫い目の間隔が極端に広い、表目が大きいなどである。
まつり縫いは既製服の縫い目のほつれを直すなど活用機会は多いが、既製服には手縫いのまつり縫いが使用されていることはまれであることなどから、生徒がまつり縫いの形状を知る機会は少ない。本研究の結果から、反復練習は縫製作業への慣れと生徒の意識の面では有効であったが、まつり縫いの形状理解が指導上の留意点として示された。

著者関連情報
© 2013 日本家庭科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top