日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: A4-4
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56回大会:口頭発表
海外でのゆかたの着装を含む授業実践とその効果
*薩本 弥生井野 真友美川端 博子斉藤 秀子
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抄録

[目的] 情報社会の進展により日本に関する多くの情報がテレビやインターネットなど様々な手段で世界に発信され、文化交流が進んでいる。著者らは、日本の中学、高校におけるゆかたの着装を体験する授業実践を行い、その内容について検討するとともに、イギリス、中国において、ゆかたを着装するワークショップを実施、その成果についての分析を進めてきた。今回、USAのサンフランシスコ(SFと略記)にある中学校、高校、大学および日本のY大学在籍の留学生を対象にゆかた着装ワークショップを実施する機会を得たので、その内容および同時に実施した調査の分析結果を報告する。これらは、日本における中学、高校でのゆかたを着装する体験学習の内容の検討に寄与するものである。また、ゆかたの着装を学習した生徒の海外との文化交流の一つの方法として、国際交流の様々な場面で利用することができると考えられる。[方法] 2012年8月にY大学在学の留学生(28名)を対象に、2012年9月にUSAのSFで中学生(49名)、高校生(46名)、大学生(59名)を対象に、大学研究者3名、学生16名によるワークショップを実施した。日本の現代文化と伝統文化についての認知度と各々の情報源、着物について知りたいことについて調査し、事後調査ではゆかたを着てみての「着装感」や「興味・意欲」、「理解・習得」などに関する19項目を5件法で調査した。 [結果と考察] 事前調査の結果から現代文化では海外の生徒もマンガやアニメなどを知っている割合が高く、情報源ではインターネットが最も高く自ら意欲的に調べる生徒が多いことが示唆されたが、伝統文化では日本で暮らす留学生の方が、知識が広かった。また、伝統文化の情報源としては「TV」と並んで「学校」と答える人が多く、伝統文化の伝承に関する学校の役割の大きさが示唆された。 きゆかたを着てみての「着装感」や「興味・意欲」、「理解・習得」などに関する調査結果を因子分析し、その結果をもとにパス解析を行った。昨年度、著者らが日本の中学校で行った実践では理解習得意識および高揚感が興味・関心に影響しているという結果が得られたが、今回、理解(習得)因子からのパスは各校で有意であったが、高揚感から興味関心への直接のパスが有意だったのは大学のみであった。どの学校でもゆかたを着て嬉しそうな生徒たちの笑顔が印象的で、実際に高揚感に関する項目はどの校種でも高かったが、それが興味関心に結びつかなかったのが、現段階での海外で行う実践の限界を示している。しかし、参加者が全員希望者でワークショップの雰囲気も盛り上がっていた日本への留学生とSFの高校生のワークショップでは、高揚感が他の2校に比べ高く、それに伴い意欲も高かった。また、この2校は比較的時間に余裕があり、留学生のワークショップでは着つけ後に浴衣で学内を散策する時間を設け、高校ではお茶を立てて何人かが飲んでみるといった時間を設けた。この結果から、ワークショップに対するモチベーションの違いと、着装後の活動が、高揚感やその後の学習意欲にも影響することがわかった。さらに、日本の伝統文化について認知度が高い人と低い人で比較するために、4校合同で「伝統文化認知度」を定め5個以上知っている人を高値群、それ以下を低値群として分類したところ、高値群の意欲項目の方が高くなることが分かった。また、ワークショップを担当した学生自身が海外の人々にきもの文化を紹介する中で,きもの文化に対して誇りと愛着をもつようになったと述べており、日本での中学、高校でのゆかたの着装を体験する授業に、自分たちが学ぶだけでなく、誰かに教えるという課題を設定する方法の有効性が示唆された。今後、異文化交流等での発信を目指した授業実践も検討したい。

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© 2013 日本家庭科教育学会
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