日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第56回大会・2013例会
セッションID: B4-1
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56回大会:口頭発表
家庭科のESDのための現職教員向け教育プログラムの開発
*伊藤 葉子中山 節子
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抄録

【研究の背景と目的】【BR】ESD (Education for Sustainable Development)、すなわち持続可能な開発のための教育に関しては、様々な活動を進められており、ESD実践も蓄積されつつある。この活動のなかで、現職の教員に対し、ESDを指導する際に必要な技術・知識を研修・養成することは緊急の課題だと言える。そこで、 本研究では、家庭科のおけるESD実践の促進のために、ESDが目指す「子どもたちに育みたい力」をどのような「学びの手法」で実践していくのかという実践的な見地から、ESD指導の専門性の向上を目指す現職教員への教育プログラムを開発し、その教育的効果を検証することを目的とする。【BR】【方法】【BR】国立教育政策研究所が提示しているチェックシート型アプローチの方法を援用し、NPO法人持続可能な開発のための教育の10年推進会議(ESD―J)が示しているESDが大切にしている「育みたい力」に示されている内容に依拠した現職小学校教員向けの教育プログラムを開発した。具体的には、13の「育みたい力」を示した教師用教材を用いた指導案作成→相互評価→指導案改善というプロセスが中心となっている。【BR】13の「育みたい力」は、自分で感じ考える力、経験・実体験をもとに感覚的に考える力、自分・家庭・学校など身近なレベルで課題をみつけ考える力、多様な価値観をみとめ尊重する力、相手の気持ちや考えに共感する力、物事にとらわれずに柔軟に発想する力、具体的な解決方法を生み出す力、現在の行動の結果、起こることを見通す力、自分が望む社会を思い描く力、自ら実践する力、他者と協力して物事を進める力、物事を多角的にみる力、事実や証拠に基づいて判断する力である。このプログラムの教育的効果については、教師用教材・指導案・参加者の感想をもとに分析した。【BR】プログラムの参加者は、平成24年8月に実施した千葉県教育委員会免許法認定講習「小学校家庭科教育法」の受講生96名で、本プログラムは講習の一部に組み込まれている。なお、ここ数年間に実施した教育学部で学ぶ学生(小学校教員養成課程)向けの教育プログラムの成果の集約を行った上で、比較考察もおこなった。【BR】【結果】【BR】まず、本プログラムの参加者は、食分野で指導案を作成し、次に、各自が作成した指導案をESDが指標とする13項目の「子どもたちに育みたい力」について自己評価を行い、グループで意見交換をして相互評価をしてもらい、各自の指導案を改善した。最後に再度、教師用教材を用いて、自己評価を行った。【BR】最初の自己評価では、「他者と協力して物事を進める力」「自ら実践する力」「経験・実体験をもとに感覚的に考える力」を選んだ参加者が多かった。最後の自己評価では、「多様な価値観をみとめ、尊重する力」等の項目を選択する参加者が増加した。指導案の改善、参加者の感想も含めて、このプログラムの教育的効果の主なものは、以下のようにまとめられる。【BR】1.「子どもたちに育みたい力」という抽象的な指標と、実際の授業を結び付ける作業によって、授業を学び手側からとらえることができる【BR】2.グループでの意見交換による相互評価によって、各自の授業に対して客観性が生まれ、さらに自己評価を繰り返すことにより、自分の授業をESDという観点も加えて、見つめ直す機会となる【BR】3.教員各自がおこなっている授業とESDを結び付けることで、ESDへの理解が高まり、ESD指導の専門性の向上が認められる【BR】 一方、自分が望む社会を思い描く力や、物事にとらわれずに柔軟に発想する力は2回の自己評価でも、指標とする項目として選ばれなかったことから、実践に結びつけにくい項目であると言える。項目間の偏りに関しては、小学校という発達段階の適時性という点も含めて検討課題だと考える。さらに、教育学部生への同様の教育プログラムの教育的効果との比較考察により、経験知の違いを考慮した上での改善の方向性も示唆された。

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