抄録
<目的>
近年、日本では高齢化が進んでおり、高齢者を取り巻く家族形態の変化は顕著で、「高齢者夫婦のみ世帯」や「高齢者単独世帯」の増加により、家庭における高齢者の将来への生活不安は高まるばかりである。中国は社会経済及び医療の向上、そして1979年から実施された「一人っ子政策」により、出生率は減少し高齢化が進行している。2012年の高齢化率が約23.3%の日本と約9.1%の中国では、高齢者に対する意識は異なるのは当然と思われるが、少子化や高齢化の急速な進展や経済的発展によって、中国は2025年ごろには現在の日本の現状に近い高齢化率になると予想されている。そこで、社会制度、文化などの違う日本と中国の大学生の高齢者に対する意識を比較し、その相違点と今後の課題を明らかにすることで、今後必要とされる中国の高齢者福祉対策の充実を図るための資料とすることを目的とした。
<方法>
高齢者に対する意識に関するアンケート調査表を作成し、中国と日本の現役大学生用に、両国の母国語に翻訳したものを用いた。調査方法は、無記名自己記入式の質問紙調査で、2012年11月1日から2013年1月20日まで、中国の瀋陽の大学生390名、日本の北海道の大学生378名を対象とした。調査内容は、高齢者との交流経験、高齢者へのイメージ、高齢者に関する学習経験、介護に対する意識、親への扶養意識などである。回収は中国が293名(回収率75.1%)、日本が266名(回収率70.3%)であった。また、得られたデータはすべてコンピューターで処理されるため個人が特定されないこと、データは研究以外には用いないことを明記した。調査結果の解析はχ2検定(5以下のセルがある場合はYatesの補正値を用いた)、t検定を行い、有意水準5%をもって差があるとした。なお、集計および統計解析にはMicrosoft ExcelおよびExcelアンケート太閤Ver.4.05を使用した。
<結果および考察>
1.高齢者に関する学習経験
学校で高齢者に関する学習をした経験は、中国83.6%、日本81.2%とほぼ同様であった。高齢者に関する問題について取り上げた本を読んだ経験では、両国とも「ない」が多かったが、中国97.3%に対し日本62.4%と、日本が有意に少なかった(P<0.001)。また新聞記事を読んだ経験でも、「ない」者が中国64.8%に対し日本43.6%と、日本が有意に少なく(P<0.001)、日本の学生の方が高齢者に関する問題についての本や新聞記事への関心が高かった。
2.介護に対する意識
介護は男性と女性どちらに適していると思うかを調査したところ、「女性が適している」とする者が日本14.3%に対し中国60.1%と、中国の学生の方が有意に多く(P<0.001)、日本と中国の意識の違いと考えられた。
3.高齢者扶養について
伝統的老親扶養(家庭で子供が親を扶養すること)についてどう思うかという質問では、「とてもいい」との回答が日本25.6%に対し中国67.9%、「現実的ではない」が日本37.6%に対し中国11.3%、「分からない」が日本27.4%に対し中国19.8%と、中国の学生は日本の学生より伝統的老親扶養意識が強かった。このことは、親孝行思想の基盤の違いが背景にあると考えられた。 親が病弱または寝たきりで、世話をする人が自分しかいない場合には、「何をおいても世話する」との回答が日本35.3%に対し中国52.9%、「施設に入れる」が日本21.4%に対し中国5.8%と、日本と中国の学生の老親扶養の内容が違うことが明らかとなった。これは、高齢者への扶養意識の違いとともに、高齢者福祉に関する公的サービスの整備状況の違いによるものと考えられた。