抄録
【問題と目的】
家庭科は,学習内容として日常生活を取り扱う点に特徴をもつ教科であり,学習により獲得した知識・技能が日常生活へと連続することが必要である。しかしながら,学校外における学習と家庭科における学習の比較より,家庭科の学習が日常生活と乖離したものとなっていることを示した研究(會津・森下・有元, 2009 ; 平野・有元 印刷中)が見られる。これらの研究は,いずれも学校における学習の文脈の特異性を示唆するものである。学校に日常的実践が持ち込まれることで,日常的実践としての文脈が薄れ,学校独自の課題となっている活動を,Brown, Collins & DuGuid (1989)は,「模造品的活動」と批判し,学習活動における「真正の活動(authentic activity)」を重要視している。家庭科における学習を学校独自の活動としてではなく,日常生活に連続していくものとするため,真正の活動を家庭科の授業の中に組織していく必要があると考える。 学校に真正の活動を組織する試みの一つに,学校外の実践者を教室に招く「コラボレーション型授業(城間, 2011)」があげられる。コラボレーション型授業は,学校と日常的実践との文脈間のインタラクションが起こることで,新たな「コンテキストの組織化(上野, 1999) 」が行われるとされる。本研究は,コラボレーション型授業に着目し,その学習環境を記述し,家庭科における真正の活動の導入について考察を加えることを目的とする。
【方法】
2013年11月に,神奈川県下の市立A中学校において行われた,コラボレーション型授業の調理実習の参与観察を行った。 データの収集方法は,主にビデオカメラを用いての映像記録と,フィールドノーツを作成する形をとった。分析の手続きとしては,まずフィールドノーツと映像記録により,観察された出来事を精緻化して記述した。次に,それぞれの場面で見られた教師および生徒の発話からトランスクリプトを作成した。得られた場面の記述とトランスクリプトから場面と発話内容の分析を行った。
【結果と考察】
本調理実習の内容は,外部人材として地域の「魚屋」と「栄養士」の2名を招いた「アジの干物づくり」であった。本調理実習は,「日常食の調理と地域の食文化」の単元(5時間扱い)の中の一授業であり,「地域の食材を活かした調理を行い地域の食文化についての理解を深める」という目的のもとで行われていた。 本調理実習で生徒たちは,事前にビデオで観察したものや,リアルタイムでの観察による魚屋の「アジの開き方」の手本をモデルとして調理に取り組んでいた。生徒たちは必ずしも独力で魚をさばくことができるわけではなく,教師や栄養士,魚屋の支援の中で「干物づくり」を達成していた。しかし,魚屋と教師の教授方法の相違が見られた。両者は,同じ場所で同じ課題を共有しているように見えても,実際は,両者でまったく違う「課題」の達成の援助を行っていたといえる。いわば,学校における学習の文脈と日常的実践における学習の文脈が併存していたのである。 以上からは,コラボレーション型授業において,「その実践者は誰なのか」という問が生じてくるように思われる。コラボレーション型授業の実践者は,教師のみに帰することはできない。本調理実習において,魚屋も教授の動機と目的をもって授業に臨む1人の参加者であった。しかしながら,コラボレーション型授業をマネジメントするのは,教師であると考えられる。したがって,本調理実習において見られた教授方法の相違などに代表される,学校と日常実践の文脈間の相違を教師はどのようにして捉え,真正の活動を組織していくのかを位置づける必要があると考えられる。