抄録
【研究の目的】
子どもはそれぞれの成長過程で性に関する多くの課題に直面する。望まない妊娠・性差別や偏見・売買春など性の逸脱行為・性暴力・性被害(ときには加害者になることもある)など、その課題は様々である。子どもが直面するこれらの課題は、多様かつ低年齢化していることが指摘されている(日本性教育協会, 2007)。
発表者が、性教育に関する授業実践(2000年~2011年)を、その内容によって①妊娠など身体に関する「生理的側面」、②恋愛の心理やふれあいなど精神に関する「心理的側面」、③男女平等やジェンダー、他者との関わりに関する「社会的側面」、④性行動や性交に伴って起こりうる「性の諸問題」の四つに分類したところ、とりわけ①「生理的側面」が授業実践の中心となっていることが分かった。子どもが抱える性の課題が多様化していることを考えると、現状の実践内容から、多様な側面を扱う内容へと転換していく必要があると言える。この課題意識をもとに、本研究では小学校家庭科を中心とした包括的な性教育の検討を行うことを目的とする。
【方法】
1.文献や論文をもとに、日本の家庭科および諸外国の性教育について調査を行い、包括的な性教育の特徴について明らかにする。
2.1で明らかにした内容をもとに、小学生高学年を対象としたカリキュラムを考案・実践し、その教育的効果を分析する。
【結果】
1.文献および論文を調査した結果、これまで日本の小学校家庭科における実践は全て、家族・家庭生活と性の内容を関連させたものであった。諸外国の性教育に目を向けると、包括的な性教育を実施している国が見られ、特に、イギリス・オーストラリアは他者との関係性を重視した内容となっていた。日本の小学校家庭科は、その教科の特性から、性に関する内容の中でも他者との関係性に関する内容を扱うことが適していることが明らかとなった。
2.小学校家庭科を中心とした「他者との関係性について考える」カリキュラムの一部を、2013年6月、小学校二校で実践した。授業では、ロールプレイや話し合いなどの活動を通して他者との関係性について考えさせたが、児童が他者と意見を交換しながら、人間関係における問題解決の方法を新たに見出す様子が見られた。児童の感想からは、授業で学んだ内容を自分の生活と結びつけて書いているものが見られ、授業内容が、授業で得た学びを実生活に生かすことに対して効果的であったことが明らかとなった。また、授業内で印象に残ったことや学んだこととして、ロールプレイや問題解決に関する知識や技術などを挙げている児童もおり、自分の生活に結び付けられる授業内容を児童が重視していることも分かった。一方で、思春期やジェンダー、恋愛に関する題材を扱ったが、児童の知識に個人差があったため、理解が深まっていない様子も見られた。児童の知識や発達段階に差が出やすい題材に関しては、より体験的・主体的に学べるような活動を考慮する必要があるだろう。
今回の性の「社会的側面」を中心としたカリキュラムは、児童が性に関して、一つの側面からでなく他の側面と関連させながら考えることを促したと言える。
【引用・参考文献】
日本性教育協会編. (2007) . 「若者の性」白書 : -第6回 青少年の性行動全国調査報告-. 小学館.