抄録
【目的】
現在、家庭科は男女共修となり、女性の社会進出も進んでいる。一方、日本人男性の家事時間は、世界的に見ても非常に少ない状態が続いている。核家族化が進み、生活時間のずれなどから、家族間でのコミュニケーションや子どものお手伝いが減り、家庭内で子どもが仕事をし、役割を果たす機会が少なくなっている。
本研究は、大学生の家庭での家事分担の状況や親とのかかわりについて明らかにし、それが学生の将来の家事分担や仕事に対する考え、希望する親子関係に関連するのかを検証することを目的とする。具体的には、大学生が高校生のときの家庭での家事分担について明らかにし、将来、夫婦間でどのように家事分担をしたいのか、結婚や出産時に仕事をどのようにしたいのか、子どもにも家事をさせたいのかについてなどの考えを把握し、「夫は仕事、妻は家事・育児」という性別役割分業があるのか、大学生の意識を見ていく。また、自分の親をどのように認識しているのか明らかにし、「理想の親」や「なりたい親」のイメージと比較する。
【方法】
愛知県の私立女子大学の学生121名(1~4年生)に質問紙調査を行った。調査の時期は2012年9月で、「家庭科教育法I」および「女性学」の第1回目講義時に調査票を配布・回収した。教職を履修している学生は47名、履修していない学生は74名で、回収率は100%であった。調査内容は、(1)高校生のときの家事分担の実態、(2)将来の家事分担と仕事に対する考え、(3)大学生にとっての父親・母親の存在、(4)大学生がなりたいと思う親の存在である。
【結果および考察】
高校時代の家庭生活の状況を尋ねたところ、祖父母と同居していなかった人が多かった。母親が主に家事を担当していることが多く、特に、食事の準備を母親がいつもするという家庭は約9割であった。父親と母親の家事分担を比較すると、母親のほうが家事をしており、子ども(学生本人やそのきょうだい)もほとんど家事をしていなかった。家族全員が集まるのは、朝食よりも夕食の方が多かった。
将来の生活について、法律婚を希望している学生は9割以上おり、結婚後の夫婦での家事分担は、食事の準備は自分がすると考えている人が多く、部屋の片付け・水周りの掃除・洗濯は、自分もしくは配偶者と半々でやり、ごみ捨ては、配偶者と半々もしくは配偶者がすると考えている人が多い。結婚後も仕事を続けようと考えている人は40%であり、勤務時間を短くして仕事を続けようと考えている人は約50%で、仕事を続けようと考えているのは教職履修者の方が多かった。子どもに積極的に家事をさせたいと考えている人は約5割おり、ときどきさせたい人と合わせると、子どもに家事をさせる考えである人は9割以上であった。
父親と母親の家事分担状況を比較した際、母親が家事の大部分をしていることから、将来の夫婦での家事分担について、配偶者と分担しつつも、主に自分がすると考えている人が多いと考えられる。さらに、結婚時に仕事を減らそうと考えている人も多いことから、性別役割分業の意識や考えが強いと推察される。
親子関係については、父親よりも母親の方が肯定的な存在であるというイメージをもっている場合が多く、悩み事を相談する相手は母親である人が多かった。将来、子どもがほしいと思っている人が9割以上おり、母親のことを「感謝している」、「頼りになる」と思っている人は、将来、子どもに「感謝されたい」、「頼りにされたい」と考えていた。子どもに頼りにされたいと考えている人は、母親に悩み事を相談している人が多く、自分の母親と同じような存在になりたいと考えているのではないだろうか。また、父親が家事を少しでもしていると、家事をしていない父親よりも肯定的な存在と認識していることから、家事をしているか、していないかによって父親のイメージが変わると考えられる。
なお、本研究を行うにあたり、元名古屋女子大学家政学部の末長千恵子さんにデータ収集および分析において御協力いただいた。心より感謝申し上げる。