抄録
【目的】
教師には高い専門性や児童生徒への的確な対応が強く求められている。教育実習生や初任教師と熟達教師を比較した先行研究から、授業設計で重視する視点や授業運営のために活用する授業展開情報や授業場面で予想外の反応が出た場合の授業者の意思決定の違いなど多くの知見が報告されている。報告者も家庭科教員養成課程の学生が行う授業や卒業後短期間の勤務校での授業を対象に、授業場面で観察可能な力量形成について検討を進めてきた。そして、学習過程や教授方略を分析枠とすることの重要性や養成段階から初任期に確認される成長や課題が、内容の違いだけでなく質的にも異なっていることを知見として得てきた。本研究は、大学4年次生が実施した授業と経験豊富な教師が再構成して実施した授業とを比較し、授業設計や教授方略にどのような違いが表れたのかを明らかにすることを目的とする。そして、これらの違いが児童の製作活動への取り組みにどのように影響を及ぼしたのかを考察する。
【方法】
(1) 分析対象授業
大学4年次の学生が新潟市立B小学校第5学年で実施した授業(2013年11月12日~29日)と、経験豊富な家庭科教師が隣の学級で再構成して実施した授業(2013年11月21日~12月4日)の計12時間を分析対象授業とする。題材は、布を用いた製作活動(3時間)を含む6時間で構成した。本報では、6時間の授業のうち、製作活動の目的や計画を立てる1,2時間目および製作の振り返りを行う6時間目を中心に分析する。
(2)授業比較の枠組み
授業者による授業場面での違いをとらえるために、学習過程と教授方略の違いを分析する。具体的には、学習内容や学習活動のつながりを比較するとともに、各授業のビデオ記録を基に教授・学習行動を分類し、その違いを分析・整理する。教授・学習行動の分類は、報告者がこれまでに用いている枠組み(教授行動4分類、学習行動5分類)を用いる。加えて、製作物の完成度や児童の製作に対する意識の結果についても参考資料として用い、授業の中で行われた教授方略と関連させて違いが表れた理由の考察を深める。なお、教師は学生の授業を観察した上で、各時間の学習目標や主な学習活動はそのままとするが、必要に応じて指導過程や教材の一部を変更して行う。また、学生の作成した教材を用いる場合は、できるだけ加工せずそのまま用いるよう事前に依頼する。
【結果】
(1)授業設計・教授方略
学生は個々の児童の製作目的を重視して製作計画や話し合い活動の時間を多く確保する傾向が認められた。教師は、各時間の課題を明確にして全体の児童をそろえて進める傾向が認められた。この授業設計に関する考え方の違いは、教授行動にかけられる時間の割合や指導過程の違いとして確認できた。教授方略の違いは、製作計画を行う2時間目が顕著であった。学生の授業では製作手順の理解を重視して進め、教師の授業では製作手順よりも製作方法の理解に重きを置いて進められた。この教授方略の違いは、児童の進度差と製作物の各所の縫い精度の違いとなって表れた。
(2)製作活動への取り組み
製作後の振り返りの記述から、学生の授業で製作した児童は、作りたいものが自分の力で作れたことに満足し、教師の授業で製作した児童は、完成度の高いものが作れたことに満足していることが違いとして確認できた。
付記:本研究は、科学研究費助成事業(課題番号24531107)を受けて実施した。