抄録
【目的】本研究の目的は、将来、学校教育に関わる可能性の高い
教員養成課程で学ぶ大学生が、児童・生徒を虐待から守るため、
どのような学びが必要かを検討することである。具体的には、
以下3点を明らかにする。
(1)日本の教員養成課程の大学生の、しつけと虐待の経験。
(2)かれらが受けたしつけと虐待の経験と、かれらがもつ
しつけと虐待の認識との関係。
(3)かれらが受けたしつけと虐待の認識と
生育環境(家族)との関係。
【方法】2013年10~12月、日本で教員養成課程を有する大学から
協力者を募り、大学生を対象に質問紙調査を行った
(調査票配布数1,761,有効票数1,238(有効回収率70.3%))。
分析内容は主に、「しつけと虐待の経験」「しつけと虐待の認識」
「生育環境」「児童虐待関連の知識,教育を受けた経験の有無」。
【結果】1.しつけと虐待の経験大学生が親から受けた経験で
多いものは、「大声で叱られる」(約7割)、「頭をたたかれる」
(約4割)、「顔をたたかれる」(約2割)であった。かれらは
これらの経験は「虐待」ではなく「しつけ」だと認識している傾向
が見られた。男子は女子よりも、父親から身体的暴力(例:「頭、
顔、尻、手をたたかれる」「体をつねられる」「物を投げられる」等)
を受けた経験を多くもつ傾向が見られた(χ2検定:p<0.01,
p<0.05で有意)。女子は男子よりも、母親から精神的苦痛や
理不尽な待遇(例:「泣いても放置される」「無視される」「差別さ
れた」等)を受けた経験を多くもつ傾向が見られた(χ2検定:
p<0.01,p<0.05で有意)。
2.しつけと虐待の<経験と認識>との関係
1.に示した、大学生が親から受けた経験のうち、上述した項目
(父親からの身体的暴力や母親からの精神的苦痛や理不尽な
待遇)と、かれらの認識(しつけとしての体罰を容認するかどうか)
には、一定の関連性が見られた(χ2検定:p<0.01,p<0.05で
有意)。特に、親から身体的暴力を受けた経験がある者は、そう
でない者に比べて、「顔をたたく」等の身体を傷つける行為を、
しつけとして行ってよいと考える傾向が見られた。さらに女子で、
母親から精神的苦痛を受けていた者は、そうでない者よりも、
身体を傷つける行為(足をけったり体をつねったりすること)を、
しつけとして行ってよいと考える傾向が見られた。
3.しつけと虐待の認識と生育環境(家族)
質問項目の中で、かれらが体罰を容認する認識と、かれらが
育ってきた家族関係には、関連性が見られた。自分の父親が
母親に暴力をふるっていたと回答した者のうち、「お尻をたたく
こと」を「しつけとして行ってよい」と答えた者の割合は62.5%
であったが、暴力はなかったと回答した者のそれは47.3%で
あった(χ2検定,p<0.05)。
かれらの多くは、しつけのつもりであっても、子どもの心や
体を傷つける行為は虐待になると考えていた。
しかしながら、その認識の判断基準には、かれらがどのよう
な家族のもとで育ち、どのようなしつけや虐待を受けたのか
ということが少なからず影響していた。このことをふまえると、
かれらが教師として現場に向かう前に、かれらに、教員養成
課程の中でしつけと虐待の知識を学ぶ機会を提供する必要
があると思われる。本研究にかかわる課題は、家庭科にお
いて、主に家族関係や子育て支援などとの関連で扱われて
いる。教員養成課程で学ぶ大学生に、たとえかれらが家庭
科教員にならないとしても、積極的に家族関係、DV、子育て
支援等を横断的に学ぶ機会を提供することが重要である。