抄録
目的
家庭科が教科として発足し1947年に(試案)として示された学習指導要領は、その後、同じく(試案)として示された1951年を経て、1958年告示、1969年告示、1977年告示、1989年告示、1998年告示、2008年告示と改訂が重ねられ、現在、次期学習指導要領の改訂に向けて、さまざまな議論と動向が注視される状況にある。
戦後から現在まで学習指導要領の改訂が重ねられるなかにあって、国内にあっては高度経済成長やオイルショック、情報化の進展や国際化など社会はめまぐるしく変化しつつも、私たちの生活は社会の影響を受けながら営まれ、生活課題の発見と生活改善の実践が取り組まれてきた。
本研究の目的は、生活のなかでも、いち早く社会化や多様化、高機能化が立ち現われた被服や衣生活の変化に着目し、学習指導要領や教科書の記述が被服や衣生活の変化にどのように対応し、かつ被服や衣生活の変化に伴い生じた生活課題の発見や生活改善の実践を家庭科がどのように受容し、いかに課題として受けとめたのかを家庭科における教育実践をもとに考察し、これからの被服や衣生活に関する教育内容について検討するための資料を得ることにある。
方法
文献研究をもとに考察する。文献としては、戦後から現在までの小学校・中学校家庭科の学習指導要領や教科書、戦後から現在までの被服や衣生活に関する資料、生活史に関する資料、家庭科における被服や衣生活を対象とした教育実践を資料とし、1)戦後から現在までの被服や衣生活の変化を概観し、2)生活史にみる変化が学習指導要領や教科書にどのように反映したかを重ねあわせて検討し、3)被服や衣生活の変化に伴い立ち現われた生活課題の発見や生活改善の実践をいかに家庭科の新たな課題として受けとめ、また、家庭科における教育実践として取り組んだのかを事例として抽出し、実践の積み重ねがその後の学習指導要領や教科書の記述にどのような影響を与えたのかを検討する。
結果
1)戦後から現在までの被服や衣生活の変化
被服や衣生活の変化は、被服製作や被服管理の「社会化」、被服による表現の「多様化」、被服材料の「高機能化」などの推移として把握することができる。戦後ミシンが家庭内に普及する一方で女性の社会進出や洋装化などの進展により既製服が普及し、洗濯機が家庭内に普及する一方でコインランドリーやクリーニングなどの利用が普及し、被服製作や被服管理の社会化が進展してきたといえる。被服による表現は、既製服の多品種化や大量生産による低価格化を背景としながら、情報化や国際化が進展するなかで流行が生まれる一方で、多様化が進展してきたといえる。技術の高度化により被服材料の高機能化が進展し、社会化や多様化と連動しながら人間の生活活動の可能性を開拓する基盤になったといえる。
2)生活史にみる変化が学習指導要領や教科書にどのように反映したか
例えば、中学校の家庭科の内容の変遷をみると、女子のみが家庭科を学ぶ対象とされた時期である1958年告示、1969年告示、1977年告示の場合、1学年から3学年の毎学年に「被服製作」「被服」が内容として設けられており、生活史にみる変化が学習指導要領や教科書に反映している箇所はあるものの、内容の大半は被服製作実習が占めている。男女共学共修となった1989年告示以降、内容の名称は「被服」「生活の自立と衣食住」「衣生活・住生活と自立」のように変遷し、選択領域として位置づいたり、被服や衣生活に関する内容として単独で位置づけられていない状況にある。授業時間数の問題もあり、被服製作実習の実施も困難な状況にある。
3)家庭科における教育実践が学習指導要領や教科書の記述に与えた影響
被服管理と環境問題、資源としての被服材料、被服のリサイクルやリユース、男女共学共修家庭科における被服製作実習教材の開発など、生活課題の発見や生活改善を取込んだ教育実践の積み重ねがその後の学習指導要領や教科書の記述に反映したといえる。