抄録
【研究の目的】
近年,少子化や高齢化,女性の晩婚化など,家族形態の変化を表す様々な言葉が頻繁に聞かれるようになった。「化」という言葉はその段階へ移行していることを表しているのであって,その段階が完了したことを示しているのではない。つまり,今日は多様な家族が混在していると言えるのではないだろうか。
一方,家庭科の教科書を見ると,従来の父親,母親,兄弟,祖父母という家族構成が多く登場している。それに対し,アメリカの家庭科用教科書「ティーン・ガイド ―人間と家族について学ぶアメリカの家庭科教科書―」では多様な家族の在り方,例えば核家族や拡大家族だけでなく,ひとり親家族や混合家族についても扱いがある(V・チェンバレン,1995 牧野カツコ 監訳)。現在の日本において,従来の画一的な家族像を扱うことで十分と言えるのだろうか。もしそうでない場合,将来の生き方や周囲の愛情を受け入れる機会を狭めてしまうのではないだろうか。
アメリカでは,家族や家族関係といった領域は独立した学習となっている。一方日本では,全ての家庭科学習の根底に家庭生活と家族があるばかりに,家族について独立して学習することは少ない。男女共同参画社会の推進,少子高齢化などによる,社会の変化を踏まえた家族像を明らかにすることは,家庭生活や家族のより効果的な学習に繋がるだろう。
そこで,大学生の抱く家族像に関するアンケート調査を行った。本研究では,大学生の抱く家族像を明らかにすることを目的とする。
【方法】
広島大学教育学部2年生72名(男性30名,女性41名,不明1名)を対象に,無記名による「家族像に関するアンケート」調査を行った。調査項目は
(1)「ティーン・ガイド」に示される多様な家族についてどの程度「家族らしい」と思うかについて5段階評価を行う(5.とてもそう思う 4.そう思う 3.あまりそう思わない 5.全くそうは思わない)。ここで調査した家族像はa.アパートに住む共働きの夫婦 b.父・母・子ども・二人の里子 c.陸軍基地に住む父/離れて住む母・子ども d.自分たちの店に住む叔母・祖父・母・子ども e.郊外に住む母/離れて住む父・双子の姉妹 f.父・母・三人の兄弟・室内犬 g.父・子ども・実母(他界)・継母 h.父(他界)・母・子ども i.母・二人の姉妹・外犬/近くに住む母の彼氏 j.祖父・祖母/父・母・子ども(同じ敷地内にそれぞれの家がある)の計10個である。a~eに関しては「ティーン・ガイド」の記述を参考とし,f~jに関しては本研究において筆者が独自に設定した。
(2)あなたが家族だと思う人やものは何かについて自由記述による項目を設定した。
【結果と考察】
アンケート(1)について,結果を平均値より検討した。その際平均点3を越えたものを「家族らしい」,3を割ったものを「家族らしくない」とした。その結果,「家族らしい」はf>j>h>d>b>c>g>e>aとなり,「家族らしくない」はiのみとなった。このことから,「ティーン・ガイド」で扱われている多様な家族像であっても,日本の大学生は「家族らしい」と思っていることが分かる。(2)あなたが家族だと思う人やものを集計したところ,家庭科の教科書に示されている父親,母親,兄弟,祖父母以外の他にも叔父,叔母,姪,甥,ペットが挙げられた。家庭科の授業における「家族」では,親戚について扱われることはあまりないが,大学生の思う家族像はより広い見方をしていることが伺える。
以上の結果から,家庭科の教科書が示す家族像では扱う範囲が狭いのではないだろうか,ということが示唆される。今後は「家族らしい」と思うために必要な要素とは何か,さらに検討してみたい。