日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A4-3
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第59回大会:口頭発表
中学校家庭科教師の教材化の知識に関する研究
熟練教師と初任教師の比較を通して
*磯﨑 尚子
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抄録


【研究の目的】
   教師教育におけるパラダイム転換と言える研究知見が提案され、その考え方が解釈され、実践化がなされている。それらは、L. Shulman(1986)が学習論の研究から提唱した新しい教師知識と、D. Schönが専門職の研究から提唱した反省的実践家(reflective practitioner)の教師像である。特に、前者の教師知識は、教職の専門性の樹立を標榜する教育改革運動に対する高まりがきっかけとされている(佐藤・岩川・秋田,1990)。本研究は、L. Shulmanの提唱する教師知識のうち、特に授業を想定した教材化に関する知識(pedagogical content knowledge:以下、PCK)について、中学校家庭科の熟練教師と初任教師の教師知識の比較研究を通して、その内実を明らかにすることを目的としている。

【研究の方法】
   本研究では、公立中学校に勤務する、教職経験20年以上の3名の家庭科教師と教職経験10年未満の4名の家庭科教師(内2名は講師)に対して、半構造的面接法を用いて実施した。調査時期は、2013年から2014年である。半構造的面接法においては、まず、被験者にL.Shulmanの教育学的推論の概要と、特に翻案の4つの過程(準備過程、表象過程、選択過程、適合・仕立て過程)の解釈について説明し、各過程において「教材化の過程で行うこと、及び留意する点」について質問した。
   半構造的面接法で得られた発話プロトコルについて、1文ごとにどのような教師知識(PCKを除く6つの教知識である、教授内容に関する知識、一般的な教育学的知識、カリキュラムについての知識、学習者と学習者の特性についての知識、教育的文脈についての知識、教育目標・価値、哲学的・歴史的根拠についての知識)が含まれるかを分析した。分析に際しては、数量的なカテゴリーの分析とプロトコルによる質的な分析を行った。

【研究の結果】
   分析の結果、まず、熟練教師の有する6つの知識の量は、初任教師よりもすべて多いこと、また、熟練教師は、知識量も初任教師に比べ多いだけでなく、複数の知識を組み合わせて、教材化を行っていることが明らかとなった。これは、PCKの本質が、複合的で構造化された知識であることの証左である。また、翻案の4つの過程において用いられる知識の量も、熟練教師の方が各過程で多かったが、表象過程に関しては、他の3つの過程における知識量よりも両者の量的違いの差が小さかった。
   質的分析結果について、翻案の4つの過程それぞれについて検討した。準備過程では、熟練教師は、生徒の家庭での実態を把握し、学習指導要領を読みこなし、多くの知識を活用して授業を計画している。つまり、熟練教師は、学習指導要領の趣旨と生徒の実態の理解を基盤に授業を想定して教材化と授業を立案している。表象過程では、熟練教師と若手教師で知識の量が最も差がなかった。しかし、プロトコルを検討すると、初任教師が教材の提示の仕方に関する知識が中心であったのに対し、熟練教師は生徒の意欲を高めたり知識を定着させたりする工夫をしていることが明らかとなった。選択過程では、熟練教師は学校の研修課題などを意識した授業になるような流れを考えていることが明らかとなった。適合・仕立て過程では、熟練教師も初任教師も授業のねらいを考えて仕立てているが、熟練教師の方がより具体的なねらいを有し、授業で終わるのではなく、家庭で実践させることを意識していることが明らかとなった。

【文献】
Shulman, L. S. (1986). Those who understanding: Knowledge growth in teaching, Educational Researcher, 15(2), 4-14.
佐藤学・岩川直樹・秋田喜代美.(1990).教師の実践的思考に関する研究(1):熟練教師と初任教師のモニタリングの比較を中心に.東京大学教育学部紀要,30,177-198.

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© 2016 日本家庭科教育学会
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