日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: A4-6
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第59回大会:口頭発表
学びを共有するツールとしてのデジタルポートフォリオの活用
-ポイントムービーに着目して-
*有友 愛子
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抄録

目的
 本校中学部の家庭科では、生徒の学びを共有するためのツールとしてデジタルポートフォリオを軸とした授業のデザインに取り組んでいる。調理実習では、タブレットPCの授業支援アプリを活用した生徒同士の意見交換とその内容を加えたポイントムービーの作成を組み込むことで、協働的な学びを通した思考力や判断力の高まりと、効率の良い調理の進め方や調理技能の上達を目指した見方や考え方が促されたことを報告している(2015)。しかし、食材の調理上の性質等科学的な視点での思考や判断、学習の理解が課題であった。そこで、ふり返りの学習で「下級生に紹介したい調理のポイントムービー」をテーマとした学習を設定した。見方や考え方を成長させ学びを深めるためのICT活用として、調理のポイントムービーの蓄積の中から下級生に紹介したい動画の編集に取り組み、科学的な視点での思考・判断や学習の理解について検討することにした。
方法
 調理実習のふり返りにおいて、(1)紹介したい内容をグループごとに考える、(2)お互いのグループの内容について意見を出し合う、(3)紹介したい内容を整理する、(4)整理した内容に適したポイントムービーを選択し編集するという流れで学習を展開した。調理手順、食材の調理上の性質、安全・衛生・環境への配慮、その他の4つの項目を軸として、意見交換やポイントムービーの編集に取り組ませた。ポイントムービーの編集はタブレットPCの動画編集アプリで行った。編集を終えたポイントムービーは、デジタルポートフォリオに組み込んで活用する他、ネットワーク接続ストレージに保存し、様々な情報機器からアクセスし用途に応じて自由に活用できるようにした。意見交換でまとめられた内容、生徒が編集したポイントムービー、質問紙調査の結果から、思考力や判断力、学習の理解について検討した。
結果
 調理実習の導入として、デジタルポートフォリオに組み込まれた上級生が作成したポイントムービーを視聴して調理実習で気をつけたいことを考えた際と、ふり返りの学習として、下級生に紹介することを目的としてポイントムービーの編集のために意見交換を通して考えをまとめた際の調理手順、食材の調理上の性質、安全・衛生・環境への配慮、その他の4つの項目の記述を比較した。その結果、導入の学習では安全・衛生・環境への配慮等に関する内容が40.0%であったが、ふり返りの学習では調理手順や食材の調理上の性質に関する内容がそれぞれ35.7%に増加していた。食材の調理上の性質に関する内容は、導入では林間学校の経験や上級生のポイントムービーから得られた内容が中心であったが、ふり返りでは「塩をつけておくと鮭から水分が出るからキッチンペーパーでとる」「肉を焼くと縮んで浮き、火が通りにくくなるからしっかり菜箸で押さえる」等、食材の調理上の性質と関連付けた具体的な内容への変化が見られた。調理実習のふり返りとして意見交換やポイントムービーの編集に取り組んだ感想を分析すると、活動の内容が60.0%、学習の理解が20.0%、まとめ方が13.3%、客観的な意見が6.7%であった。この結果を他の題材のふり返りとして下級生へのアドバイスをデジタルポートフォリオにまとめる活動の結果と比較したところ、活動の内容や学習の理解に関する割合が高い傾向が見られた。素材となるポイントムービーを作成した上でふり返りの学習として下級生に紹介したいポイントムービーの選択や編集に取り組むという段階を設定したり、蓄積されたポイントムービーの中から意見交換の内容に適したポイントムービーを選択したりと、生徒の思考を深化・拡大させることを意図した授業をデザインが効果的であり、思考を可視化するツールとして動画の活用が有効であった。直接体験を「学ぶ・伝える・つながる」ことを目指した取り組みで、ポイントムービーを素材として視覚的に表現する活動においても、生徒の主体的な学びが促され、思考力・判断力・表現力の向上や学習の理解につながることを確認できた。

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