日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: B1-7
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第59回大会:口頭発表
「共生・人の多様性」理解につなげる授業実践
-教員養成系大学生と小学校教員との比較から-
*小谷 教子冨田 道子松岡 依里子齋藤 美保子石垣 和恵
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抄録

【目的】
   1995年以降,国際連合(以下、国連とする)の「人権教育のための国連10年」や「人権教育のための世界計画」の策定にみられるように,国際社会において個々人の多様性を理解し尊重する意識の高まりのなか共生の視点が強く求められている。
    近年の日本に目を向けると,2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」に2014年批准書を寄託し,2013年に文部科学省が制定した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」は2016年4月1日から施行されている。本法律には多様なニーズを持つ児童,生徒,学生に対し教育現場における合理的配慮が詳細に示され,国公立学校においてはこの配慮が義務化された。現在,学校現場の教員を中心に広がりつつある「授業のユニバーサルデザイン(以下、UDとする)」の取り組みも合理的配慮の1つであろう。しかし,日本全体の共生意識を高めるためには,学校教育現場の場合,多様なニーズを持つ当事者のまわりにいる児童,生徒,学生や教職員といった学校全体の共生意識の育成も課題と捉える。
   そこで研究者らは,教員をめざす学生を対象とした「共生」「人の多様性」の理解を深めるための家庭科UD学習手引書による授業実践を行った。本調査結果と,先に小学校教員を対象にした同授業実践結果(冨田,松岡2015)とを比較しながら,教員養成に関わる大学の家庭科の授業に本UD授業を導入する効果を検討することを目的とする。
【方法】
   教員養成に関わる大学で,UD手引書のなかの「UDって何?」の90分授業を行った。これは,学生が身近なUD製品に触れ,各製品にどのような配慮がなされているかをグループで話し合い,最後にクラスで交流しながら,UDへの関心を高め,人の多様性について考える授業である。この授業の前後にUD知識・意識調査を行い,事前事後の項目間の差異をみるためにt検定を行った。授業後の感想は記述内容を類似した回答ごとに分類し,数量的把握を行った。調査対象者は,東北,関東,関西,中国,九州地方の教員養成に関わる国立・私立大学および短期大学の学生196名であり,授業実施時期は2015年10月~2016年2月である。
【結果】
1 UD知識 事前事後調査
  UD授業の前後に実施したUD知識調査12項目についてt検定を行ったところ,すべての項目について0.1%水準で有意に差があったことが明らかになり,UD知識が一定量増えたことが示された。
2 UD意識 事前事後調査
   UD授業の前後に実施したUD意識調査13項目についてt検定を行なったところ,すべての項目で有意差があることが明らかとなった。とりわけ,0.1%水準で有意なものは9項目あり,1%水準で有意なものは1項目,0.5%水準で有意なものは2項目であった。これまで無意識に利用してきたUD製品・サービス等が,身近なところに浸透していることに気づき,UDの意味や考え方を理解できたことが明らかになった。加えて,UD普及率の地域格差や,学校環境や教育におけるUD視点の必要性を感じたことが明らかとなった。
3 感想の記述内容の分析
   学生は,UDが小・中・高等学校での既習内容となっていながらも,身近な製品・サービス等を取り入れた体験的な学習であったことから,UDの意味や誰のためのUDかを深く理解し,UDの必要性を自身にひき寄せて考える記述が多くみられた。
4 小学校教員との比較検討
   UD意識の事前事後の変化を見ると,調査対象者が小学校教員(30代以上),大学生のいずれであってもすべての意識項目で有意差があることがわかった。しかし,その詳細を見ていくと,教員よりも大学生の方が授業後の意識の高まりの度合いが大きいことが明らかになった。青年期の特徴ともいわれる感受性の高さや社会的意識の高まりが相まって,本授業が彼らの「共生・人の多様性」への理解を深め,社会を客観的に捉えられたことが結果から推察される。

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