抄録
【研究の背景と目的】
先行研究1)で、家庭科の教員は家庭科室、調理室、被服室及び普通教室を使用して授業を行うことができることから、これらの教室の方位や階数の相違を活用して住環境の実験実習を行えることを示した。
本研究では、家庭科で使用する物品や身近な物を活用した実験実習を実践し、その有効性を示すことを目的とする。
【方法と結果】
1)住教育の現状と実験
2015年6月に新潟県のA・B市における中学校と高校の家庭科教員に私共が作成した住領域に関する教材を発送し、教材に示している原理及び実験に関してアンケートに回答していただいた。39部を回収し、回収率は29%であった。
アンケートから得られた家庭科教員が指摘する住領域を教える上での問題点は、「家庭での実践が難しい」39%、「良い教授方法を示す資料や情報がない」32%、「住実習ができない」26%であった。一方、対策は、「興味・関心が持てるような教材」69%、「生徒が体感できる実習」59%、「身近なことを取り入れた内容」54%、生徒が「興味・関心の持てる実験方法」46%であった。これらの結果から、生徒が興味・関心の持てる教材や体感型実習の提示が求められており、家庭実践に繋げるためには身近なことや物品を取り入れることの重要性が認められた。そこで本研究では、家庭科の授業で使用している物品や生徒にとって身近な物を用いる住環境実験を考案することとした。
次に、新潟県内で使用されている家庭科の教科書における住領域の内容について小・中・高校別に分析した結果、快適な室内環境の内容が多かった。教材中に示した熱・光・空気・音環境の原理や実験方法に関して、教員が実践していない原理または実践しにくい実験として挙げられた割合を見ると、光環境実験が77%以上、次いで音環境実験が62%以上で高かった。これらの実験で実践しにくい理由として、光環境実験では「材料が用意しにくい」、「材料費がない」、「時間内にできない」が21%と最も高く挙げられ、音環境実験では「材料が用意しにくい」が50%で最も高かった。これらのことより、材料は手軽に手に入り、準備が容易にできるものが重要であることが分かった。そこで、家庭科で使用する物品や生徒にとって身近な物を使用して光環境と音環境の授業を実践し、理解度について分析した。
2)光環境の授業実践
2014年12月に新潟県M市立K小学校18人を対象に光環境の授業を行った。学内に設置されている身近な人工照明器具の写真を示しながら、光環境について説明した結果、生徒は発光原理、照明方式、配光及び室内の雰囲気への影響などを理解し、興味がわいたことを確認した。また、製作活動を通して「境界線で曲がって進む」といった光の屈折特性についての理解度が66%以上と高かった。
3)音環境の授業実践
2015年11月に新潟県M市立N中学校120人を対象に音環境の授業を行った。身近な紙コップやつまようじ及び糸を組み合わせた糸電話を使用して音の伝搬について体感した。さらに、家庭科で使用するミシン、ボール、泡だて器、すり鉢とすり棒などを使用して発音し、音の3要素の可視化を行った。授業前の理解度を見ると「何も知らない」が40%と最も高く、「音速」と「音の3要素」を除く他の項目は20%以下と低かったのに対して、授業後には「空気伝搬音」と「固体伝搬音」を除くほとんどの項目の理解度は27%以上になった。また、家庭科で使用する物品の利用について生徒に尋ねたところ、90%が「身近で分かりやすい」、87%が「使った方が良い」と回答した。
参考文献
1)飯野由香利:家庭科住領域の授業における校舎利用の可能性と体感型授業の有効性の検討、日本家庭科教育学会第58回大会研究発表要旨集、pp.36~37、2015年6月
なお、本研究は科学研究費助成事業(基盤研究(c) 課題番号26350065 代表者 飯野由香利)の研究助成を受けました。