抄録
[研究目的]
近年、キー・コンピテンシーやリテラシー、21世紀型スキルなど様々な名称の「資質・能力」が注目されている。また国際的な教育課程改革の動向を見ても知識伝達型ではない、「資質・能力」育成型のカリキュラムが推進されている。我が国においても学習指導要領次期改訂に向けて「学力の3要素」や「21世紀型能力」に基づき、資質・能力の育成をふまえたカリキュラムマネジメントなどの議論が現在盛んに行われているところである。
家庭科は長年、「生活をより良くする知識や技術や態度」を探究してきた。現行の学習指導要領では家庭科の目標を「人間の生涯にわたる発達と生活の営みを総合的に捉え、生活を創造する能力と実践的な態度を育成する」としている。つまり「生活を創造し実践する力を育む」教科として、知識の提供だけではない、様々な資質・能力を育む学習を積み重ねてきている。また90年代に入り、男女共修で学んでいることの意義は大きいが、急速に進む社会の変容に対応して、これからの家庭科教育ではどのような資質・能力を身につけさせることが必要なのだろうか。
荒井(2005)は「生活主体を育む家庭科カリキュラム」の中で、市民を育む4つの学習課題と、技術・技能、認知、情意の3領域で能力の大枠を捉え、各領域別に家庭科で育みたい具体的な能力を提案し実践例を報告している。大本ら(2010)は、「高校家庭科におけるシティズンシップ教育」において、シティズンシップを図る4つの力(自己管理力、生活設計力、人間関係形成力、社会参画力)を提案した。また堀内(2015)は、「21世紀型能力」の観点から「生活を批判的に捉え、客観的、多面的に思考する批判的思考力」、「社会と関わる力」、「人生を学び実現する力」等を提案している。本研究ではこれらの先行研究や海外の事例に学びながらグローバル社会に着目した高等学校家庭科で育成したい資質・能力を明らかにする。
[研究方法]
1)文献調査より、グローバルシティズンとして育成すべき資質・能力を概観する。2)オーストラリアとシンガポールの資質・能力の構成要素や国際バカロレア教育の実践事例を参考に資質・能力を「目指す学習者像」や「育成したい資質・能力」として整理する。3)昨年報告した「学習内容と育成すべき資質・能力」を基に研究成果を加え、「グローバルな視点を導入した家庭科カリキュラム」で育成したい資質・能力を提案する。
[結果と考察]
グローバル社会に着目した家庭科では「他者や公共的利益にも配慮できる生活者(市民)」の育成が求められ、社会の変容に柔軟に対応でき、グローカルな視点を持って考え行動でき、社会の構成員としての責任や自覚を育むための学習が必要である。IBプログラムにおいては、育成を目指す人間性を「考える人」「心を開く人」など10の人物像として表していた。シンガポールでは「少なく教え、多くを学ぶ」教育改革が行われ、育成したい資質・能力を「コアの価値」「社会的・感情的コンピテンシー」「21世紀コンピテンシー」の3重構造で示し、コア価値には尊敬、ケアや責任などが含まれていた。オーストラリアでは、7つの汎用的能力(異文化間理解、倫理的理解、批判的・創造的思考力他)を設定し、それらを教科の内容に埋め込んでいた。
これらを踏まえ、家庭科で育成したい「主体的に生活を創造し実践する力」の具体を、他者(ヒト、モノ、コト)とのかかわりで新しい価値観やライフスタイルを創り出す力とし、「多様性・人権の尊重、寛容性、異文化への理解、共感、イメージ力、洞察力、感受性、柔軟性、地球市民としての自覚・責任、批判的思考力、課題発見・認識力」などを育成したい資質・能力とした。これらの資質・能力は、ホリスティックにとらえた現実の生活課題から題材を精選し、対話を通して思考を深める学習活動や学習者自らが既習事項などと関連付けながら考えや説明を作り上げる授業の中で育成したい。
*なお本研究は、日本家庭科教育学会課題研究(1-3)による研究の一部である。