日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: B4-3
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第59回大会:口頭発表
『鹿内瑞子旧蔵資料』からみたへき地教育と小学校家庭科
「複式学級用小学校家庭科教科書」を資料として
*八幡(谷口) 彩子
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抄録

目的 演者は、日本の家政学史・家庭科教育史研究の一環として、戦後、文部省の教科調査官として小学校家庭科の教育課程行政に携わった鹿内瑞子氏の旧蔵資料を読み進めている。「鹿内瑞子旧蔵資料」は、昭和26(1951)年~昭和52(1977)年の小学校学習指導要領改訂までをほぼ網羅し、この期の小学校家庭科に関する教育行政を把握する上で貴重な資料である。とくに、「へき地教育関連資料」は「鹿内瑞子旧蔵資料」を特徴づけるものであるが、十分な検討は行われてこなかった。そこで、本研究では、「鹿内瑞子旧蔵資料」に含まれる「へき地教育関連資料」の検討を通して、昭和20~40年代における小学校家庭科の展開過程の一端を明らかにすることを目的とする。なお、本報告(第2報)では、「へき地教育」に関する資料として、「複式学級用小学校家庭科教科書」を資料として、複式学級における小学校家庭科の学習指導・教材の状況について検討する。

方法 本研究で用いる資料は、国立教育政策研究所教育図書館所蔵「鹿内瑞子旧蔵資料」(1,139点)のうち「へき地教育関連資料」74点である。そのうち、本報告(第2報)では、「複式学級用小学校家庭科教科書」8点(『鹿内瑞子旧蔵資料目録』による資料番号428~431、533~536)を分析対象として、昭和40年代の複式学級における小学校家庭科の学習指導・教材の状況と鹿内瑞子氏の関わり・教育行政について考察する。

結果 (1)「鹿内瑞子旧蔵資料」に含まれる「複式学級用小学校家庭科教科書」は、いずれもA5版、80ページからなる。刊行年が記されていないもの3点、昭和45(1970)年刊行2点、昭和48(1973)年刊行2点、昭和49(1974)年刊行1点の合計8点である。改訂理由書が付されていることから、昭和40年代後半の短期間の間に内容の改訂が行われていることがわかる。

 (2)資料番号428の表紙には、「複式学級用 第5・6学年用 小学校家庭科6」と標題が記されている。昭和40年代の小学校家庭科教科書は、第5学年と第6学年それぞれに学年別の教科書が作成されていたが、「複式学級用小学校家庭科教科書」は、第5学年と第6学年の複式学級で使用されることを想定して「第5・6学年用」としながらも、「小学校家庭科6」(6年生用)と書名がある点に着目できる。また、開隆堂と東京書籍の共同刊行という特殊な刊行形態となっている。

(3) 「複式学級用小学校家庭科教科書」を編集した「複式家庭科研究会」のメンバーは、奥付によれば、野上象子氏を代表者とする10名(のちに新井包子氏と吉松藤子氏を代表者とする9名)の名前が記されている。

(4) 資料はいずれも昭和43(1968)年に改訂された小学校学習指導要領に対応する教科書で、5年生向け、6年生向けのいずれの教科書も、「1 わたしたちの家庭」から「10 楽しい会食」までの10章構成となっている点は共通しているが、各章で扱われる題材等は学年による違いがある。

(5)「複式学級用小学校家庭科教科書」が実際の複式学級において、どのように使用されたのかについては、「鹿内瑞子旧蔵資料」以外の情報を踏まえて、今後明らかにしていく必要がある。現在、少子化を背景に、複式学級がへき地に限らず増加している。現代の複式学級における小学校家庭科の学習指導のあり方を考える上で、今後も引き続き検討を進めていきたい。

なお、本研究は、JSPS科研費 26350049の助成を受けたものである。

文献 丸山剛史・佐高美里・橋本昭彦『戦後教育改革資料19 鹿内瑞子旧蔵資料目録』国立教育政策研究所(2006)

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