抄録
<目的>
「子どもの貧困」が深刻な社会問題となっている。我が国の子どもの貧困率は16.3%(厚生労働省(2013))で、これはOECD加盟国の平均値を上回る高率であり18歳未満の約6人に1人(約326万人)が該当している。中でも、ひとり親家庭の貧困率は54.6%と高く、小・中学生の就学援助受給者も15.6%に上り(文部科学省(2012))、看過できない切迫した状態にある。
子どもの貧困は、経済的マイナス面だけでなく、精神・身体発達、健康維持、学習・進学等に悪影響を及ぼすと危惧される。この対策として、平成26年1月「子どもの貧困対策推進法」が施行された。このような行政の対策と同時に、子どもたち自身に生育家庭の困難にくじけず、たくましく生き抜く力を育成することが必要である。
本共同研究の最終目的は、貧困に向き合い「生活主体としてたくましく生きる力」を育成する家庭科の学習内容を提案することである。その一環として今回は、高校家庭科教員対象のアンケート調査により、高校生の貧困の実態、家庭科授業の取り組み、身に付けさせたい力等を明らかにし、学習内容を検討することを目的とした。
<方法>
調査対象は高等学校30校、教員32名分、調査時期は2015年3~7月、調査方法は家庭科教員に記述式アンケート調査(一部、半構造化面接調査)を実施した。
分析方法は、調査対象校を4年生大学進学率により3群に分類(A群:75%以上、B群:25%以上〜75%未満、C群:25%未満)して質問項目ごとに分析を行った。
<結果と考察>
1.家庭科に関する選択科目の開設が多かったのは、「子どもの発達と保育」「フードデザイン」であった。授業で扱うキーワードで3群共に多いものは「公的年金制度」「社会保障」「社会福祉」「DV」「社会保険」であった。また、A群では少ないが、B・C群で多いものとして、「雇用保険」「医療保険」「生活保護」があった。実生活での必要性を教師が感じて取り上げていると推察される。
2.「就学援助の受給」は、回答のあった学校の平均で、A群:若干名、B群:約42%、C群:約70%。同様に「ひとり親家庭」は、A群:約10%、B群:約16%、C群:約52%であり、C群で顕著に多かった。
3.「貧困の影響と思われる場面」が「ある」と答えたのは、A群:40%、B群:約73%、C群:100%であり、C群に多い項目は、経済的理由での行事・部活動不参加、学校費用の支払い困難、多数生徒のアルバイト及びその 収入の学校費用への充当、進学断念、生活習慣及び基礎学力・学習習慣の不定着、奨学金頼りの進学、不十分な食事、学習・就業への意欲の低さ等があった。
4.「貧困に向き合うため身に付けさせたい能力」の回答で、3群に共通の項目は「正規雇用と非正規雇用の違い」であった。B、C群に共通の項目は、「生活的自立能力(特に自炊能力)」「社会保障」「人生設計と経済計画」等が挙げられ、C群で特徴的なものとして、「公的支援(生活保護)の知識」「将来を見通した職業選択」「基礎的学力、主体的判断力、自律力、人間関係」が見られた。
これらから、家庭科の授業内容として必要と思われるものを下記に示すと、
・栄養面・経済性の両面から重要視される「自炊能力(調理技術)」の習得
・「公的年金、社会保険、社会福祉(生活保護)に関する知識」を、「就業形態(正規雇用・非正規雇用の違い」「生涯設計と費用」と関連付けた学習
・「社会で生きるために必要な力(基本的生活習慣、判断力、自律力、コミュニケーション力等)」の習得等である。
今後、これらの結果を基にして教材開発を行う。