日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: P15
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第59回大会:ポスター発表
小学校裁縫科における裁縫標本の意義
「岩手県小学校連合女教員会」の裁縫科実践研究
*渡瀬 典子
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キーワード: 小学校, 標本, 裁縫授業
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抄録
【目的】明治期以降の裁縫教育において「裁縫雛形」は,学習教材として取り入れられてきた。例えば「渡辺学園裁縫雛形コレクション」は重要有形民俗文化財に指定され,当時の裁縫教育の一端を現在に伝えるものとなっている(三友2014)。また,現在の家庭科教育においても「布を用いたものの製作」の中で段階見本を用いて縫い方の確認をしたり,完成品の観察を通して,製作上の課題や工夫を児童・生徒に気付かせたりする実践がある。それでは,明治から現在に至るまでの間に「裁縫雛形」や段階見本等の教材は授業実践でどのように発展し活用されてきたのだろうか。  本報告は,「国民学校制度」が導入される5年前から「岩手県小学校連合女教員会」で実施された家事裁縫科重点研究の授業実践報告に焦点を当てる。昨年の本学会報告では(渡瀬2015),「岩手県小学校女教員会」が掲げた「教材の地方化」の解釈と衣生活上の生活改善意識の特徴について検討した。その結果,各地方の衣生活文化の特長を肯定するという視点よりも,子どもの衣服の着方,各家庭の被服管理の問題等,各地方の生活課題に基づく言及が中心であることが明らかとなった。また,「資源節約」,「物の利用更生」を生活改善と関わらせて実践する報告が多く見られたことが特徴的だったといえる。 そこで,本報告は当時の岩手県における小学校裁縫科の指導で使用された教材・教具,とくに「裁縫雛形」の整備・活用状況と工夫に注目する。なお,当該実践報告の多くが「(裁縫/教材)標本」という表現をとっていたため,本報告では実践報告の原文に則った表現を用いる。   【方法】(1)「岩手県小学校連合女教員会」が発行した『家事裁縫研究紀要』1937(昭和12)年~1941(昭和16)年の実践記録をもとに分析を行う。当該研究紀要に掲載された裁縫科の報告は72実践であり,これら実践報告を実施した小学校の所在地は県全域にわたる。授業報告の対象学年は尋常小学校4年生~高等小学校2年生である。 (2)「岩手県教育研究会」が1937(昭和12)年~1941(昭和16)年に発行した『岩手教育』の記事を補助資料として用いる。   【結果】当時の「岩手県小学校連合女教員会」の裁縫科実践研究では「標本・掛図・学習帳」等の教具の改善に取り組む報告が中心だった。とくに「標本」は,「正確な技術習得,児童の創意工夫の促進,学習動機の喚起,製作概念の付与,自学的態度養成」という点で効果的とされ,多くの学校で研究対象に挙げられていた。これら裁縫標本を教師が評価したのは,言葉による抽象概念や,単なる機械的作業の強制を学習指導場面で用いるのではなく,実物(標本ではあるが)にふれることで児童の理解が促されることを実感したからである。標本の製作にあたっては,文部省の裁縫教授書に準拠する各学年の製作物に対応するように計画しており,地域的な特徴は現れない。整備された標本は一斉指導用に完成標本,分合標本,拡大標本,地質標本を,個別指導用に過程標本(部分標本),基礎縫い標本があり,複数校で連携して整える事例もあった。また,標本は児童が製作する方法を知るためだけに使うのではなく,作品を製作した後で自分の作品の出来栄えを適切に評価するための指標として用いられ,「鑑賞力を養い批判力を練る」ものとされた。使用しなくなった衣料品を標本として再利用/作り直すことで,製作に要する時間と物資を抑える「更生利用」という工夫も報告された。当時と現在とでは,被服の流通状況,衣服の更生(リフォーム)の意味づけも大きく異なるが,児童の学習を促す標本としての活用という点で教材的価値の共通性が認められる。
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© 2016 日本家庭科教育学会
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