抄録
目的 家庭科の衣生活分野の学習では、「衣服と社会生活のかかわり」を理解させることが目標として挙げられている。これまで、衣文化への関心を持たせる学習において、きもの文化を取り上げ、ゆかたの着装を含む授業実践を行ってきた。そのことにより生徒のきもの文化への興味関心が喚起されることが明らかとなっている。本研究では、ゆかた着装後の授業で、どのような内容を取り上げると学習に効果的かを検討した。そこで、「もったいない精神」を共通とする、きもの文化の学習(きもの単元)の「きものの繰り回し」と環境共生の観点から循環型の衣生活の単元(環境単元)を接続する教育プログラムを考案し、授業実践を行った。異なる2つの単元の授業を関連付けることにより、双方の内容に興味関心や理解を深めることに効果があるかを検証し、学びの可能性を検討することを目的とする。 方法 平成27年12月~28年1月に、公立中学校3年生290名を対象に、きもの文化の学習とゆかたの着装を含む授業実践を行った。続く環境単元の授業の最初に、きもの単元の振り返りとして、江戸時代の日本人の衣生活における「きものの繰り回し」が、もったいない精神をベースに循環型の衣生活を構築していたことを学ばせた。続いて生徒の主体的な活動として「制服の一生すごろく」を用い、ゲーム感覚で楽しみながら制服の製造から廃棄までの流れを追う。消費者側からは見えにくい部分にある二酸化炭素の排出量や、環境負荷について意識させる。現代の衣生活の問題点と自分にできることを考えさせた。これらの単元を接続する授業の効果を検証するために、きもの単元のゆかた着装授業の前後と、環境単元の授業後にアンケート調査を実施した。 結果 授業実践校の生徒について、次の特徴が明らかとなった。ゆかたを着た経験は75%、着物を着た経験は57%であった。しかし、ゆかたの着方は58.5%が知っていると思っていない、自分で着つけできると思っていないは72.8%であった。65.0%がゆかたを着てみたいと思っていたが、自分で着つけしたいでは50.6%に減った。授業前後の意識をt検定にて比較すると、着装意欲・着装理解・きもの文化への誇り・着物のTPOすべてにおいて平均値が上昇し、その変化は0.1%水準で有意差があった。次に、環境循環型衣生活との相関をみるために、すべてのアンケートの因子分析を行った。ゆかた授業前3因子、授業後4因子、環境共生5因子が得られ、重回帰分析からは授業後の、「ゆかた着物関心・意欲・高揚感_後」因子(ゆかた関心意欲因子)と環境意識因子との相関が深かった。そこで、「ゆかた関心意欲因子」を高、中、低の3群に分け環境共生の5因子を従属変数として分散分析を行った。その結果、ゆかた関心意欲因子の得点が高いほど、「環境エネルギー認識と意欲」「エコ配慮の衣生活意識」が高まることが明らかとなった。しかし、「リユース行動」との相関は見られなかった。きもの文化への興味関心が深まった生徒は、環境共生への認識・意欲への高まりは見られるものの、実際のエコに対する行動には繋がっていない実態が示された。今後、高められた意識を実生活に落としこむための授業の工夫が必要である。また、衣服の「作るエリア」「着るエリア」「捨てた後エリア」で自分にできることを自由記述で回答させた。こちらの分析結果は口頭発表にて報告する。