抄録
【目的】
小学校および中学校学習指導要領における家庭科の内容は、平成20年度版より内容の系統性と連続性を重視し、AからDの同一の構成となった。さらに、「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ(2016.8)」によると、小・中・高等学校の各学校段階で育成を目指す資質・能力を相互につないでいくことが求められており、内容の系統性の明確化が必要とされている。
したがって、各学校段階での授業構成にあたっては、自校だけでなく他校種での内容も把握した上で、どこに力点をおいて授業を構成していくべきなのか吟味していく必要がある。しかし、小・中・高等学校の家庭科授業担当者の交流や相互授業参観、共同研究などの機会も少なく、他校種の年間指導計画や指導内容、製作物などについての把握は困難な状況にある。
そこで本研究では、授業担当者が他校種の指導内容を相互に把握できる「指導者用授業記録用紙」および学習者個人の学習履歴を把握できる「ポートフォリオ型ワークシート」の開発を目的とする。
【方法】
1.小・中・高等学校学習指導要領および同解説と教科書について分析し、「指導者用授業記録用紙」の開発を行った。
2.一枚ポートフォリオ(堀・2013)等の先行研究を分析し、課題を明らかにした上で、学習者用の「ポートフォリオ型ワークシート」の作成を行った。
3.公立中学校(2年生2クラス80名)において、作成した「ポートフォリオ型ワークシート」を用いた住居領域の授業(2016年9月)を試行し、課題を明らかにしてその改善を図った。
【結果及び考察】
1.学習指導要領および同解説の分析から、内容の重複や各学校段階でのみ学習する内容を明らかにし、授業担当者がこれらを意識した授業を構成できるように、「指導者用授業記録用紙」を作成した。作成の視点は、次の3点である。
(1)重複部分等を把握しやすいように、小・中・高校の指導事項を一覧できるようにする。
(2)中・高校の教科書は領域ごとに構成されているが、小学校の教科書の構成は異なる。そのため、チェック項目は教科書の見出しではなく、指導要領の項目とし、授業者がどこに重点を置いたのかわかるように4段階で記入できるものとする。
(3)チェック項目だけでは具体的な指導内容がわからないため、「既習か否か確認したい事項」や「特記したい既習事項」の欄を設け、小・中・高等学校の授業担当者が相互に質問や申送りしたいことを記入できるようにする。
2.先行研究においてみられた一枚ポートフォリオは小・中・高等学校の学びの円滑な接続というより、評価に重点が置かれていた。また、各学校段階の接続においては“教師が指導した”とする内容と“学習者が学んだ”とする内容のくい違いが多々ある。そこで、授業において最も印象に残った内容を記入させ、学んだ内容を振り返りつつ自己評価も行える「ポートフォリオ型ワークシート」を作成し、「指導者用授業記録用紙」とともに授業者が相互に情報を共有できるようにした。作成にあたっては、次の3点を重視した。
(1)学習者が、容易に本時の内容を振り返るとともに題材の見通しが持てる。
(2)学習者の理解状況を、指導者が一目で把握できる。
(3)一題材の学習前後の変容を、学習者自身および指導者が把握できる。
3.中学校における授業実践の分析から、今後、授業過程で用いる他のワークシートとの重複部分の改善や、教師の働きかけについての検討が必要であることが明らかになった。
なお、本研究は日本家庭科教育学会九州地区会共同研究において検証していく。