抄録
目的
中学校家庭分野「A 家族・家庭と子どもの成長」は、「(1)自分の成長と家族」「(2)家庭と家族関係」「(3)幼児の生活と家族」の3内容で構成されている。(1)はこれまでの自分と家族との関わり、(2)は家族・地域との関わり、(3)は幼児との関わりについて学習するものと換言できる。これらの内容の取り扱いについては、「実習や観察、ロールプレイングなどの学習活動を中心とするよう留意すること」と現行学習指導要領に明記されている。また、現在使用されている教科書においても、「ロールプレイ」は(2)家族との関わりや(3)幼児との関わりの内容で、「実習」は(3)幼児との関わりの内容において例示してはいる。しかし、(2)地域との関わりの内容については、他の内容のように具体的な学習方法は紹介されていない。例えば、「地域の行事に参加してみよう」など行動目標的な記述はあるが、ロールプレイや実習のように、どのように関わればよいかを考える学習には至っていない。そのため、家庭生活と地域との関わりを対象にした学習における方法論の検討が必要であると考える。
以上の課題を踏まえ、本研究では方法論の一つとして、ソーシャルスキルトレーニング(以下、SST)に着目した。ソーシャルスキル(以下、SS)とは、「対人場面において適切かつ効果的に反応するために用いられる言語的・非言語的な対人行動と、そのような対人行動の発現を可能にする認知過程との両方を包含する概念である(相川、2009)」であり、このスキルを訓練することがSSTである。SSの育成を目指すことで、地域に住む様々な年代や職種の人たちと、様々な場面でよりよく関わることができる能力の育成につながると考えた。 そこで、本研究の目的は、中学校家庭分野「A 家族・家庭と子どもの成長」における「地域との関わり」に焦点を当てたSSTを開発することとする。
方法
まず、地域との関わりに必要なSSとはなにかを、先行研究を概観して検討する。次に、SSの理論及びSSTの実践事例を基に「地域との関わり」を題材にしたSSTの開発を行う。
結果
SSに関するこれまでの研究は、行動的側面・能力的側面・認知情報処理的側面を強調したものがある(相川、2009)。これらを踏まえ相川(2009)は、「過程」という捉え方を推奨し、「生起過程モデル」を提唱している。本研究では、地域の人々とどのように関わるかを総合的に捉え、現在の生活だけでなく将来にわたってよりよく関わることができることを目指す観点から、人との関わりの過程に着目した相川のモデルを援用することとする。 次に、相川・藤田(2005)で明らかとなった成人用ソーシャルスキル自己評定尺度における6つの下位因子である「関係開始」「解読」「主張性」「関係維持」「感情統制」「記号化」に基づき、地域の人との関わりを考えるSSTを開発した。具体的には、「地域の人との心地よい人間関係を築くにはどうしたらよいか(関係開始、関係維持)」といったガイダンス的なSSTから始まり、「地域の人と挨拶しよう(関係開始、関係維持、記号化)」「行事に参加している人について考える(解読)」「よりよい主張とは(主張性)」「困った時に気持ちをどのようにコントロールするか(感情統制)」などを構成し、人との関わりの視点から地域を考える学習構成とした。 今後の課題としては、開発したSSTを実践し、成人用ソーシャルスキル自己評定尺度を用いて、効果を検証することとする。
引用
相川充、藤田正美(2005)成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構成、東京学芸大学紀要. 第1部門, 教育科学 Vol.56 p.87 -93
相川充(2009)セクション社会心理学−20新版人づきあいの技術ーソーシャルスキルの心理学、サイエンス社