日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: A4-2
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第60回大会:口頭発表
学校と家庭・地域を結ぶ「生活の課題と実践」の効果と可能性
「お雑煮」をテーマとしたアクティブラーニングの試み
葛川 幸恵*川本 可奈子
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抄録

[目的]
 技術・家庭科は、生活者としての視点を大切にしながら生活の課題を解決する力を育成することを大切にしている教科である。
しかし、中学校では、受験にむけて重視する教科ではないことや家庭の機能やものづくりが社会化されていくことで、生徒は身近な生活への興味・感心を持ちにくくなっている。家庭科の履修時間は1年生と2年生は、それぞれ年間35時間、3年生は、17.5時間である。家庭科の履修時間は、全体時数2940時間の中の87.5時間であって、全体の2.9%というも最も少ない時間である。
家庭科で、子どもたちが身に付けていく力は、これからの生きる力に直結している。しかし、学校の時間だけでは、充分に学習が深められない。そこで「生活の課題と実践」に着目した。
手始めに、技術・家庭科の中で、学校と家庭や地域を結ぶ「生活の課題と実践」として、お正月料理の「お雑煮」を題材とし、アクティブラーニングの授業実践をした。
この授業を通して、「生活の課題と実践」の効果と可能性について検証し、これからの家庭科の授業をさらに発展させることを目的とする。
[方法]
(1)「教員と生徒は、技術・家庭科をどう捉えているか」意識調査を実施し、分析を行った。
(2)授業実践
ⅰ 横浜の生徒の実態にあわせた授業開発する。
ⅱ 実践1 3年生の冬休みに「生活の課題と実践」でお雑煮の宿題
ⅲ 実践2 家庭科の授業で「お雑煮」をテーマとしたアクティブラーニングの試みをし、横浜の食文化について考える
(3)学校と家庭・地域を結ぶ「生活の課題と実践」の効果と可能性について検証する。
[結果] 
 同じ地域の学校の家庭科教員と生徒に家庭科の授業についての調査をした。生徒は、授業について楽しさや面白さを感じているが、教員の方は、授業時数が少なく、この授業でよいのか。充分な授業準備をする時間も取れず不安を感じている。また横浜という土地柄もあり、地域と家庭を結ぶには、家庭科の授業をどうしていくかという課題もみられた。
そこで、R中学校で、「生活の課題と実践」として『お正月を祝う料理』のレポート作りを冬休みの課題とした。被服室調理室の壁面にレポートをすべて掲示し生徒同士に共有させた。「お雑煮の作り方が家によって違うのはなぜだろう」をという学習テーマでアクティブラーニングの授業を実施した。ここでは知的構造型ジグゾー法を使い、「お雑煮の起源」「お雑煮の餅の形の違い」「雑煮の出汁と味付け」「お雑煮の具材」の4つの視点でエキスパート活動とジグゾー活動を行った。多くの生徒は『お正月に食べていたお雑煮にこのような深い意味があることを知り、驚いた。』『日本の食文化について学ぶ機会がもててよかった。』と感想を述べている。また、クロストークでは『自分が食べているお雑煮は東の食文化の影響を受けているのが分かった。』『お雑煮に違いがあるのは地方で育った親や祖父母の食文化の影響だ。』『いろいろなお雑煮があるのは地方の食文化を横浜が家族の転居と共に持ち込まれた物だ。』ということに気づくことができた。授業の振り返りでは『自分たちで勉強できて楽しかった。』『とてもおもしろい授業だった。』『いろいろなお雑煮があることがわかって驚いた。』「自分が食べたことのないお雑煮を今度作ってみたい。食べてみたい。』『自分でもお雑煮について調べてみたい。』など関心の深まりや意欲が感じられる感想をほとんどの生徒が記述していた。このことから生徒が主体的に考え、実践しようと自然と生徒が思える授業作りの重要性を実感した。その後の行事食・郷土料理の授業では今まで希薄だった「地産地消」や「日本食・和食」の捉えを十分に行うことができた。また、「神奈川・横浜の食文化」について実感をもって学ぶことができた。これらの取組は生徒が家庭での実践や家族との触れ合いや日本の伝統文化への理解や興味・関心を引き出す機会となり大変有効であった。また、生徒が家庭科を身近に感じ、家庭科を学ぶことの楽しさや重要性に気付く転機となった。

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