日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B1-2
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第60回大会:口頭発表
教科連携による「家庭基礎」調理実習における「深い学び」の効果
荒井 きよみ
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抄録

【目的】
家庭科の学習方法として、調理実習は生徒に対するインパクトも大きく、主体的・対話的な学習方法といえる(長澤他2001、阿部他2006、河村2010など)。さらに情報科、英語科等との連携を図ることで、学びがより深まり、育成されるべき資質・能力「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」の獲得が期待できる。本研究では、高等学校での教科連携による「家庭基礎」調理実習の学習効果について「深い学び」を焦点化し、明らかにすることを目的とする。
方法】
対象とする首都圏の普通科高校はスーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)指定校である。2018年入学の1学年は、SSHカリキュラムで学ぶクラス(以下、SSHクラス)が2学級と学習指導要領に基づくカリキュラムで学ぶクラス(以下、非SSHクラス)が6学級の計8学級から構成される。「家庭基礎」(2単位)は1学年全クラス必履修であるが、「情報の科学」(2単位)は非SSHクラスのみ設置である。そこで、SSHクラス1学級40名及び非SSHクラス1学級40名に対し、「家庭基礎」で実践した4回の調理実習における学習目標について4件法による質問紙調査を実施した。質問項目は「炊飯」「裏ごし」「飾り切り」「行事食の意味と整え方」など10つ、「野菜350gを知る・摂る」「献立の栄養評価をする」「フェアトレードを知る・伝える」「他国の伝統料理を作る・伝える」など5つを用いて、それぞれ「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」の変数とした。回答は「できる」を4点、「ややできる」を3点、「あまりできない」を2点、「全くできない」を1点として得点化し、その平均を比較した。さらに調理実習に対する自由記述を分析対象とし、探索的に「主体的に学習に取り組む態度」について検討した。なお、「家庭基礎」で実施した調理実習の学習内容は同一ではあるが、非SSHクラスのみ「情報の科学」で調理実習の献立について栄養分析ソフトを用いた学習を2回取り組んだ。一方SSHクラスのみ第3回調理実習(祝い肴)でJET(The Japan Exchange and Teaching Programmeの講師)の支援のもと英語で取り組んだ。
【結果】
(1)献立の栄養分析をしたクラス(以下、栄養分析群)と英語で調理実習をしたクラス(以下、英語調理群)をt検定で比較したところ、有意に差が認められた項目はなかった。「日本の伝統料理を作る・伝える」について栄養分析群3.10、英語調理群3.14(t(75)=-0.23,n.s.)、「献立の栄養評価をする」について栄養分析群2.88、英語調理群2.68(t(75)=1.22,n.s.)となった。
(2)最も印象に残った献立とその理由について、英語調理群は第3回「祝い肴」を11名の生徒があげ、「伝えるために調べたので、日本人が大切にしてきた文化をしっかり理解できた」「私は英語力が低いので、日本食の良さを伝えるためにも、もっと調理のレベルをあげていきたい」と述べていた。栄養分析群は6名であった。また、栄養分析群は「献立の栄養評価をしていると、今日は何が足りていないかを考えるようになりました」「毎日の食事で栄養評価について考えられるようになった」と7名が「(栄養評価が)できる」と回答した。英語調理群は3名であった。
【考察】
1学年全クラスで食事バランスガイドによる栄養評価を行い、栄養分析群のみ、分析ソフトを用いて食事摂取基準による栄養評価も行った。「(栄誉評価が)できる」と回答した生徒数を比較してみると、栄養分析群17.5%、英語調理群8.1%となった。栄養分析群において高い割合であったのは、「情報と科学」で計算ソフトによる分析の体験が影響し、深い学習に結びついた生徒が多かったためと考えられる。また、自由記述で「祝い肴」を挙げた生徒は英語調理群で29.7%と4回の実習で最も高かったことから、JETとの学習が主体的にとりくむ学習に結びついたことがわかる。

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