日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: B4-3
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第60回大会:口頭発表
家庭科教師の意図するカリキュラムと私的生活経験
「目標」に関する記述の質的内容分析をもとに
瀬川 朗*河村 美穂
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抄録

【背景と目的】
 本研究の目的は,家庭科教師がカリキュラム開発を行ううえで持つ意図や志向性と,教師自身の私的生活経験にどのような関連があるのかを明らかにすることである。
 これまでの教師教育研究が指摘するように,教師の成長・発達には教師個人の生活経験が一定の影響を及ぼす。教師の生活経験は職業上の経験と私的生活経験に大別されるが,このうち私的生活経験に目を向けると,Burden(1990),Sikes(1997),Cosfordら(2002)により加齢に伴う成熟や発達課題の変化,そして結婚や親になるといったライフイベントが,職業上の経験と並んで実践的知識を形成するうえで重要な意味を持つことが示されている。しかしながら,先行研究の多くは,教師の実践的知識(Elbaz, 1983)のうち「教師としての自己」や「教育実践の方略」の変化に着目したものであり,「教科内容」や「カリキュラム開発」に関する知識に対する教師の私的生活経験の影響に関する知見が豊富に蓄積されているとはいえない。そこで本研究では,広く生活事象に関する内容を扱う家庭科という教科において,教師の私的生活経験がカリキュラム開発とどのような関係にあるのか,とくに教師の意図するカリキュラム(intended curriculum)との関係を,教師の記述する「カリキュラム開発における目標」を用いて明らかにすることを試みた。

【方法】
(1) データ収集方法
 2016年10月から12月にかけて,無作為に抽出された全国の高等学校・中等教育学校で家庭科必修科目を担当する教師720名を対象に郵送自記式の質問紙調査を実施し,341名から回答を得た。
 調査では,「カリキュラム開発における目標」(以下「目標」)として,内容構成が時代の変化に大きく影響を受ける家族・家庭生活領域と,過去の内容構成が比較的継承されているといえる食生活領域の2つの領域において,カリキュラム開発に際して目標としていることをそれぞれ記述式にて尋ねた。また,「カリキュラム開発に用いる知識・経験」(私的生活経験を含めどのような知識・経験を参照しているか,以下「知識・経験」)についてリカート式尺度(6件法)により尋ねた。配偶者・パートナーの有無,子供の有無などの属性についても選択式で回答を求めた。
(2) 分析方法
 「目標」の記述の質的分析,及び「知識・経験」の量的分析を行い,カリキュラム開発を行ううえで教師の持つ「目標」と重視する「知識・経験」について,その関係性を検討した。
◇「目標」の記述の分析:家庭科教師の持つ「目標」を類型化するため,Mayring(2000)に従って記述の質的内容分析を行なった。具体的には,オープンなコード化を行い「目標」の属するカテゴリ/サブカテゴリを生成した。なお,本発表では2つの領域のうち主に食生活領域の目標について扱うことにする。
◇「知識・経験」の分析:重視する「知識・経験」の種類により家庭科教師をグループ化するため,統計解析環境R ver. 3.3.2を用いてクラスタ分析(Ward法,平方Euqlid距離)を行なった。

【結果】
 まず,「目標」について質的内容分析を施したところ,6つのカテゴリ「知識または技術の獲得」「自立」「健康への意識」「実生活への応用」「社会的問題への関心」「問題解決力の涵養」に分類された。次に,知識・経験に関するクラスタ分析により4つの解釈可能なクラスタ(教師グループ)が生成され,このうち私的生活経験を重視する教師グループは目標として「問題解決力の涵養」などを挙げる割合が高いといった傾向がみられた。

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