抄録
研究の目的
我々の人生は、さまざまなリスクと背中合わせにある。生涯において遭遇する可能性のあるリスクについて理解することは、生活設計に不可欠な内容である。またそれは我々の生命と財産、生活を守るための実効力として重要である。特に、自然災害は我々に大きな教訓を与えてきた。自然災害への認識を高め、防災意識と態度を育成することは、学校教育の大きな役割である。
本稿は、災害のリスクマネジメント能力を育成するための題材開発への知見を得るために、中学生の災害リスクに関する認知と家庭防災備蓄の実態を把握することを目的とする。
研究の方法
都内の公立中学校1~3年生(1年90名、2年107名、3年84名の計281名)を対象に、2016年11月に集合調査法により災害リスクの認知に関する意識調査を実施した。また同年12月には、授業の一環として家庭における防災備蓄品の調査を留め置き法にて実施した。意識調査の内容は、生活リスク6項目について、それぞれリスクに対する不安、起こりやすさ、生活への被害の程度、リスクに対する安全・安心感、リスクに対する備えを尋ねた。また、家庭防災備蓄調査の内容は、総務省消防庁の防災マニュアルに掲げられた防災品推奨リストの「非常用持出品」と「備蓄品」について準備状況をたずねた。
リスク事象に対する全体の認知傾向と特に自然災害の家庭備蓄の実態について把握する。統計はSPSS (ver.22)を用いた。検定には主として一元配置分散分析を用い、必要に応じてカイ二乗検定を併用した。なお、有意確率5%未満を有意とした。
結果および考察
1.リスク事象のうちもっとも不安が強かったのは「自然災害」であり、もっとも弱かったのは「家族」に関するものであった。学年別・男女別のいずれの分析においても共通であった。
2.リスク事象ごとに学年間の特徴を平均値で比較すると、リスクへの不安は1年生がもっとも高く、2年生がもっとも楽観視している結果となった。また男女別にみると、不安は女子のほうが男子より高い傾向にあるが、「環境問題」や「家族に関すること」は男子が若干高くなっている。
また、不安に対する平均値はさほど高くはないが、学年別・男女別とも有意な差がみられたのは「交通機関の事故」であった。
3.リスク事象ごとに危険と安全・安心感との関係をみると、危険を感じる者ほど不安を抱いていることがわかる。なかでも「交通機関の事故」に対する割合が高く、中学生にとって身近なリスクと感じていることが分かる。次に「自然災害」が続く。
4.「自然災害」のリスクに対する備えについては、学年間に有意な差がみられた。「②非常用の飲料水」では1年生と2年生に、「④避難場所の経路の確認」では1年生と3年生に、また「⑤家族との災害についての話し合い」では各学年間で有意な差がみられた。「⑥学校・地域の防災訓練への参加」では、1年生と3年生、2年生と3年生にそれぞれ有意な差がみられた。
男女間では「②非常用飲料水」「③非常持ち出し袋」「⑥学校・地域の防災訓練」で有意な差がみられた。
5.「③非常持ち出し袋」については、学年間に有意な差はみられなかったが、平均値から意識の高さを伺うことができる。男女間では有意な差がみられた。しかし、実際の「非常用持ち出し品」「備蓄品」や「常時携行品」において、50%以下の品目がまだあり、意識と実態の乖離が確認された。
意識と実態の乖離をできるだけ埋めるような実効力を高める学習内容・方法の検討が必要である。