抄録
1.はじめに
教員養成大学では、教育現場で生かすことのできる教師の資質能力の育成・向上が喫緊の課題である。教師に求められる能力は「授業準備・実践の力」、「児童理解の力」、「学級運営・教室経営の力」、「社会変化への対応の力」の4つに分類できるとされている。これを基に著者らは、昨年の本学会において、教育実習等に関する学生の記載を分析し、「授業準備・実践の力」と「児童理解の力」には敏感であるが、「学級運営・教室経営の力」と「社会変化への対応の力」の能力は教育実習では育成しにくい能力であることを報告した。
本研究では、弘前大学教育学部で3年次学生を対象に実施されている1年間に渡る教育実習を通して、教師としての資質能力の育成・向上について調査し、その要素を検討することを目的とした。
2.方法
2016年度の前期に行った模擬授業(以下、模擬授業)、集中実習における研究授業(以下、研究授業)、後期に研究授業を修正して行った模擬授業(以下、修正授業)の3つの授業を中心に据え、以下に示す調査を行った。
2.1. 調査対象及び時期:本学部3年次の学生6名とし、2016年4月~12月に実施した。
2.2.調査内容及び方法
①アンケート調査:「自信がある/ないこと」「教育実習で学んだこと」等を4月、7月、10月、12月に実施した。
②自己評価及び他者評価:各授業後に、対象学生に「自己評価(「良い点」と「悪い点」)を記述させた。また、研究授業後には「他者評価」も記述させた。
③ヒアリング調査:研究授業後に行った。
2.3.分析方法
学生の記述を先行研究に基づき、「教師の資質」「授業準備・実践の力」「児童理解の力」「学級経営・教室運営の力」「社会変化への対応の力」の5つに分類した。このうち「授業準備・実践の力」はさらに「授業構成力」「教材研究力」「授業展開力」に分類した。
3.結果および考察
3.1.自己評価から見た学生の変容
学生の記述を5つに分類した記述数は、模擬授業では46、研究授業では67、修正授業では83となった。また分類項目では、「教師の資質」「授業準備・実践の力」「児童理解の力」は見られたが、「学級経営・教室運営の力」「社会変化への対応の力」は見られなかった。
(1)3つの授業における「分類」の割合
「良い点」は、3つの授業とも「授業準備・実践の力」が高率となり、中でも「授業展開力」は約60%を占めた。「悪い点」も「良い点」と同様の傾向を示した。
(2)「良い点」と「悪い点」の対照
分類ごとに「良い点」と「悪い点」を対照すると、模擬授業と修正授業では類似傾向を示したが、研究授業では「悪い点」の「授業展開力」が「良い点」に比べ高率となった。
3.2.他者評価から見た学生の変容
各授業者に対する他者評価の記述数は、いずれの授業者に対しても約40~50となった。それらを5つに分類したところ、自己評価と同様に「教師の資質」「授業準備・実践の力」「児童理解の力」の記述は見られたが、「学級経営・教室運営の力」「社会変化への対応の力」は見られなかった。
「良い点」では、どの学生も「授業展開力」は約70~90%と高率となったが、「悪い点」は対象により異なった。
3.3.一年間の教育実習を通した変容
4月の「自信が無いこと」及び、7月、10月、12月の「学んだこと」の計4回の記述を分類した。「授業展開力」は4回に、「教材研究力」は7月を除く3回に、「児童理解の力」は7月以降の3回に、「授業構成力」は10月と12月の2回に、「教師の資質」と「学級経営・教室運営の力」は12月にみられ、調査最終回の12月には分類項目の全ての記述が見られた。
これより、学生達が教育実習前に抱えていた不安は、前期実習により「児童理解の力」が、集中実習では「授業構成力」「教材研究力」が育成・向上され、全ての実習後には「教師の資質」や「学級経営・教室運営の力」にまで目を向けることができ、一年間の教育実習により学生の視野が広がったと考えられる。