抄録
【目的】広島大学大学院教育学研究科教科教育学専攻では,中等学校の教員養成における教科連携及び教科横断型学習,学校教育と社会教育の連携に関する理論的研究と実践を促進するために,そのカリキュラムにおいて10教科を横断する共通科目を設置している。その一つである「教科教育学の実践的展開」において,教科共通テーマで各教科の見方・考え方に基づく授業あるいはカリキュラム提案を行った。本報では,家庭科を専門とする履修者4名が,他教科との連携学習の成果として作成した高等学校「家庭基礎」カリキュラムを提案するとともに,その作成プロセスにおいて履修者が家庭科と他教科の接点や相違点をどのようにとらえることができたのか,家庭科に求められる今後のカリキュラム及び授業構想に対するどのような見解を得たのか,成果と課題を明らかにすることを目的とする。
【方法】平成28年度後期開講の共通選択科目「教科教育学の実践的展開」は,8教科27名が履修し10教科の担当教員が関わって実施された。前期に受講した共通必修科目「教科教育学研究方法論」で学習した自教科及び他教科の理解や,教科間の対話と連携の必要性への気づきに基づき,シンポジウムとディスカッション形式で「学校教育全体の中で各科教育の目指すこと」を追究し,発表,協議を行った。まず各教科の現状と課題について発表,討議した後,2つの共通テーマ「朝顔」と「エネルギー」からいずれかを選び,各教科で授業あるいはカリキュラムの検討を行った。共通テーマ「朝顔」を選択したのは,社会,英語,美術,「エネルギー」を選択したのは,理科,数学,国語,音楽,家庭であった。家庭科では,高等学校「家庭基礎」の年間指導計画と一部題材提案を行うため,家庭科内容学の教員へのインタビューも含めて4週にわたる検討を行った。そのプロセスにおいて履修者が得た家庭科の独自性に関する知見と家庭科カリキュラム及び授業構想の要点の理解について分析し,本授業の成果と課題を捉えた。
【結果】今回,履修者が「エネルギー」をテーマとして提案したカリキュラムは,高校生がこれからの生活を見据えて学習した内容を実生活に活かすことをねらい,内容別の学習にライフステージごとの視点を取り入れたものであった。70時間の指導計画の流れは「消費生活・環境とエネルギー」(青年期初期)→「衣生活とエネルギー」(幼児期)→「食生活とエネルギー」(高齢期)→「住生活とエネルギー」(中年期)→「これからの生活とエネルギー」(青年期中期)であった。これらの中で,最後の題材を5時間題材として具体的に提案し,最終的に一人暮らしの生活におけるエネルギーとの関わり方を考える展開とした。自分にとっての豊かな生活をイメージし考えさせた後,グループでそれを発表,他者の考え方を知り,グループで気づきをまとめ発表,全体で共有,考え方の多様性や自分の考え方の変化をとらえる学習とした。「家庭基礎」の学習のまとめの題材として,豊かな生活を送るためにはエネルギーが不可欠であることを理解すること,豊かな生活を実現する中で生じる様々な課題を自分のこととして捉え,日常生活でできることを積極的に実践する態度を育てることを目標とした。
このようなプロセスにおいて,履修者が整理した知見として「高等学校家庭科において育成すべき資質・能力」「家庭科における生活のとらえ方」「家庭科におけるエネルギーのとらえ方の特徴」(主体が誰か,つくるのか使うのか)「家庭科で学習する内容と資質・能力との関係」が挙げられた。また,家庭科に求められる授業づくりの要点は「自己の生活を総合的にとらえ再認識する機会を設ける」「生活に対する他者の考え方や見方,価値観を知る機会を提供する」「多面的な視点から自己の生活を再構成する意欲を育てる」ことであるとまとめた。家庭科独自の見方・考え方が他教科を知ることによって育成されている実態がみてとれた。