日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第61回大会/2018年例会
セッションID: B2-6
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新学習指導要領にみる高等学校家庭科の「地域」に関する学習
*花輪 由樹
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抄録

1.研究背景と目的
 学校教育の基準である学習指導要領は、10年に一度改訂される。幼稚園、小学校、中学校については平成29年に、高等学校については平成30年に新たなものが告示された。今回の改訂の主なポイントは、各教科を通じて,①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の「三つの柱」を獲得させることである。また家庭科に関しては、衣食住に関する生活文化や、食育、消費、環境に関する項目を重点化させることが記されている。また平成28年6月より選挙年齢が18歳以上に引き下げられたことから、家庭外の生活に関心を向け、政治や社会に参加できる資質・能力が、これまで以上に求められていることが示されている。
 家庭科は主体的に自分の生活をより良くしていく教科であり、それは地域を含む家庭外も対象となる。これまでも高等学校家庭科においては、自分の住む地域に主体的に関わっていくことが、小中学校の家庭科以上に示されてきた。本研究では、このような住まいへの主体性が、新学習指導要領では、どのように提示されているのか明らかにすることを目的とした。

2.研究方法
 方法としては、「地域」をキーワードに、現行学習指導要領との比較において、主体的に地域に関わる表記がどのように提示されているのかを探った。なお日本の高等学校の多くが「家庭基礎」の科目を採用していることから、「家庭基礎」に焦点をあて、全領域を対象に検証した。

3.結果
 まず「地域」について記載されていたのは、「教科目標」「家族」「住生活」「ホームプロジェクト」の箇所であった。
 教科目標においては、「男女が協力して主体的に家庭や地域の生活を創造する」力の育成という記載があり、このように生活創造の場に地域も含まれていることは、現行学習指導要領(以下「現行」)と新学習指導要領(以下「新」)の両者に表記されていた。「新」で新しく追記されたものもあり、それは生活課題を家庭や地域及び社会の中から見出して解決策を考えるといったことや、よりよい社会づくりに向けて地域社会に参画し、「地域の生活を主体的に創造しようとする実践的な態度」を養うといった内容であった。ここでは自分が住む場所に主体性をもって関わっていくことが、かなり明確に表記されるようになったことがうかがえる。
 一方、家族の領域と住生活の領域、ホームプロジェクトの箇所においては、「現行」と「新」で、特に大きな変更は見られなかった。
 まず家族の領域に関しては、青年期において、家庭や地域でのよりよい生活創造のために、「自己の意思決定」と「責任をもった行動」をとることが、「現行」でも「新」でも記載されていた。また保育の分野では、「子どもの生育環境として地域」が重要であることが示されていた。また高齢者の分野では、「高齢者が自立生活をする場としての地域」が示されていた。また福祉の分野では、「共生社会を支える場としての地域とそれを支える一員」であることが記されていた。
 次に住まいの分野に関しては、「居住する家とその周辺社会の安全環境として地域」が示されており、「新」では、快適性や防災の面からも触れられるようになっていた。
 最後にホームプロジェクトでは、「生活上の課題を解決する場としての地域」が、「現行」でも「新」でも記載されていた。
 以上にみてきた「地域」に関する記述は、生活をする場として地域という空間が示されている場合が多かった。しかし、そこに主体的に関わっていくことの記述は、「教科目標」に特にみられ、「家族領域」の青年期の自立や共生社会の分野において少し記載がみられた。今後は、教科書レベルで具体的にどのように提示されているのか探ることが課題である。

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