抄録
本研究の目的は、女性が家庭科を学ぶことが、職業生活と家庭生活におけるジェンダー平等の達成と、女性も男性も働きやすく生きやすい社会の形成に、どのような影響を与えるのかを、女性の就業形態や、仕事と家庭に関する意識を通して明らかにすることである。
先行研究では、家庭科の男女共修化は、学ぶ側の男女平等意識を高めることが示されている。また家庭科を男女で学んだかどうかにかかわらず、女性で家庭科を学んだという認識が高いことは,彼女たちの「将来の計画性」や「生活充実感」を高めるという。ただし女性が家庭科を学んだことと、彼女たちの実際の就業行動や働くことをめぐる意識に明確な関係は確認できていない。
本研究は、2018年1-2月に、日本の雇用されて働く女性800人を対象に、WEB調査を行った。主な質問項目は、学生時代に将来の職業について学んだり考えたりした経験、学生時代に家庭科を学んだという意識、現在の雇用形態、(パートナーがいる人の場合)現在の家事分担の割合、現在の雇用形態、現在の仕事と家庭に関する考え方等である。
結果は次の通りである。(1)学生時代に将来の職業について学んだり考えたりした経験と、学生時代に家庭科を学んだという意識を見たところ、両者には弱い正の関連性があった。(2)学生時代に家庭科を学んだという意識と、現在の雇用形態について見たところ、非正規雇用に就いている人よりも、正規雇用に就いている人の方が、家庭科を学んだという意識が高い傾向が確認できた。(3)学生時代に家庭科を学んだという意識と、(パートナーがいる人の場合)現在の家事分担の割合を見たところ、両者には明確な関連性はなかった。(4)学生時代に家庭科を学んだという意識と、現在の仕事と家庭に関する考え方等を見たところ、家庭科を学んだという意識と、家庭をもった時の稼得意欲、配偶者と子育てを共に分かち合いたいという意欲、そして現在の自身の昇進への意欲には、弱い正の関連性があった。しかし家庭科を学んだという意識と、職場では女性が男性を補佐することが向いているという意識には弱い正の関連性があった。また家庭科を学んだという意識と、子育てよりも仕事の方が難しいと考えることや、仕事のために家庭生活が犠牲になることを仕方がないと考えることにも、弱い正の関連性があった。
女性が学生時代に家庭科を学ぶことは、学生時代に将来の自分の働き方について学んだり考えたりする経験を高める可能性がうかがえる。また、女性が学生時代に家庭科を学ぶことは、男女の賃金格差の是正を含めて働く女性の経済的な安定や、彼女たちの職場への参画意欲を高めることが考えられる。しかし女性が学生時代に家庭科を学んだと考えているからといって、それが家庭生活をパートナーとともに分かち合うという実践には、直接的につながっているとは言えなかった。加えて、学生時代に家庭科を学んだと考えている女性が、仕事と家庭責任を対等な関係の中でとらえているというわけでもなかった。彼女たちの仕事と家庭におけるこのような考えは、家庭生活や家族のケアよりも、有償労働は常に優位・優先だという考えを問い直す社会につながるだろうか。女性はもちろん男性にとっても働きやすく生きやすい社会形成に向けて、家庭科を学ぶことの中で、家庭責任を経済の中でどう考えるのかを扱うことも必要になるのではないだろうか。