抄録
1.研究目的
日本では、1990年代から非正規労働者の増加が注目されるようになり、2016年には全労働者の37.5%に達している。中でも、非正規労働者全体の3分の2以上を女性が占めている。女性労働者を年齢階級別にみると、15歳から64歳までのすべての階級で、4割以上が非正規雇用である。これまでにも、非正規雇用は正規雇用と比較して、社会的・経済的に不利な労働条件が問題視されてきた。具体的には、賃金格差、福利厚生制度の適用率の低さ、職業能力育成の機会の少なさなどである。こうした状況の下、2017年3月に発表された「働き方改革実行計画」では、同一労働同一賃金など、処遇格差の是正の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備の方針が具体的に示された。
その一方で、厚生労働省の『就業形態の多様化に関する総合実態調査』(2014年)によると、自身の雇用形態に不満を感じている非正規労働者は3分の1程度にとどまっており、処遇の格差に労働者自身が問題意識を持っていない状況がうかがえる。このようなギャップを埋めるためには、労働者が働き方に対してどのような意識を持っているかを把握した上で、学校教育におけるキャリアデザイン学習の見直しが必要ではないだろうか。
そこで本研究では、就職活動を目前に控えた大学生、特に女子大学生が、非正規雇用に対して持っているイメージや、職業選択の際に必要と考えられる基本的事項をどの程度認知しているのか等、”働き方”に関する意識の実態を把握する。その結果をもとに、高等学校までのキャリア教育をより充実させられるような、職業選択に関するキャリアデザインの課題を明らかにすることを目的とする。
2.研究方法
”働き方”に対する女子大学生の意識の実態とそれに対する影響要因を把握するために、自記式質問紙調査(委託法)を実施する。コントロール群として、一部男子大学生も調査対象とした。
調査時期:2017年 6月~7月
調査対象:四年制大学生(女子大4校,共学2校)及び短期大学生(女子大4校,共学1校)
配布と回収:1,020部配布、961部回収(有効回答率:98.9%)
主な質問項目:将来の働き方の希望、非正規雇用に対するイメージ、労働に関する基本的な事項、
自己肯定感*、ジェンダー意識*、社会参加意識*
なお、*印のある質問項目については、「そう思う(4点)」、「どちらかといえばそう思う(3点)」、「どちらかといえばそう思わない(2点)」、「そう思わない(1点)」の4件法で得点化(一部逆転項目を設定)した。
3.結果および考察
回答者は、四年制女子大学生68.9%(女子大37.9%、共学31.0%)、短期大学生16.0%(女子大+共学)、四年制男子大学生15.1%(コントロール群:共学)であった。
非正規雇用に対するイメージは、特に負のイメージほど、将来の働き方の希望に影響を与えることが明らかとなった。労働に関する基本的事項の認知度との関係については、認知度が高いほど、非正規雇用に対して否定的な意識を持ち、自分の将来の働き方の選択肢に入れなくなる傾向があった。さらに、自己肯定感は非正規雇用に対する正のイメージと、社会参加意識は逆に負のイメージとの関連が確認された。また、ジェンダー意識を含め男性との性差は働き方の希望に大きく影響していた。属性別(所属大学別、性別等)に見ると、多くの項目で有意差が確認された。中でも、短期大学生の非正規雇用に対する容認的な意識と、男子大学生の自分とパートナーに対する働き方の希望の偏りが見られたほか、大学で取得する資格と卒業後の職業に関連がない学生は、非正規雇用に対しても楽観的なイメージを持っていることが明らかとなった。
このことから、労働・雇用に関する基本的知識の獲得に加え、自分が将来どのような働き方をしたいのか、そのためにはどのような資格取得や進学後の学習が必要なのか等、高等学校における職業選択に関わるキャリアデザイン学習が不可欠であると考えられた。